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日常編?

「おい、フラン! 何で俺達に幻術かけてんだ、コラ!」
「落ち着け…――コロネロ」

 秀忠はコロネロをたしなめ、改めてフラン向き直る。
 綱吉の口調は意識していないとすぐに崩れてしまう。危ない危ないと胸中で呟いた。

‐大丈夫? ヒデ?‐
「(大丈夫だ…多分)」

 気合を入れなおして、秀忠は綱吉を演じる。

「フラン君。あのさ、どうしてこんなことしてるの?」

 秀忠は首を傾げ、優しく問いかけた。
 多分、綱吉だったらこんな風に問いかけるだろうと思って。
 フランは答えない。

「山本が大好きだから幻術かけるのは何となくわかるけど…オレとコロネロにかけてるのは何で? ちゃんとした理由があるんでしょ?」

 しぃんと静まり返った部屋は夕焼けに照らされて薄くオレンジ色の日差しが入りこんできて、照らされる秀忠達はオレンジ色に当てられる。そんな日の暮れがやけにこの部屋の空気を重くしているように感じた。
 そして、その空気を壊すように、ようやくフランは口を開いた。

「まず、1つ。質問に答えて下さい」

 フランは背を向けたまま。
 それに秀忠はできるだけ、浮かべられるだけ優しい笑みを作り、「良いよ」と承諾する。
 コロネロが「さっさと言えよ、コラ」と急かすと、フランはこう続けた。


「あなた誰ですか?」


 どくん、と心臓が跳ねた気がした。
 一瞬にして頭が真っ白に追いやられる。
 一方、フランはいつもの調子で「コロ先輩の方じゃないですよー」と言って。

「ボンバーさんの方ですーぅ。いつもと喋り方に若干ですが違和感がありますねー。それも意図的に喋り方を変えてる人の特徴がバリバリ出ていますー。推察するとすれば、一卵性双生児。それが入れ替わって一人二役をこなして学校に来ている…――と言いたいところですがー。それでも顔の輪郭、及び目、鼻、口、眉毛その他諸々顔のパーツが完璧に同じ双子はこの世に居ませーん。否、『出来あがりません』。もしできるとすればクローン技術を除いてですがー…現時点でのクローン技術はあまり出来がいいとは言えないですー。そこまで正確無比、精巧なクローンが出来るほど技術は進歩していませーん。『違う個体』が出来あがるのがやっとですーぅ。従って、二重人格と格付けいたしますが――貴方の名前は何ですかーぁ?」

 フランがもぞり、と寝返りを打ってこちらを向いた。ただ焦点は問いただすべき本人には向けられておらず、ぼーっと壁を見つめているようだった。まるで、キッチンでタオルを冷やしている山本でも見透かしているかのように。

「それに『一日ごとに』違いますよねーぇ…」

 ごくりと喉が鳴った。
 コロネロと顔を見合わせる。
 いつかは話すべきだとは思っていたが、まさか見抜かれていたとは。
 しかも分析の仕方が論理的というより、記憶に頼りすぎている所が秀忠には訝しい。彼は記憶能力が乏しいと思っていたのだが。

‐話しちゃって良いんじゃないかなぁ…? 信じてくれるかどうか心配なだけだったし…‐

 綱吉が、恐る恐る提案した。

「(だけど、言い触らす可能性もなくはない。コロネロやスカル張りにポロっと喋りそうだし…)」
‐大丈夫じゃない? 信じてくれる人は信じてくれるけど、信じない人は信じないよ?‐
「(それに、オレの思い違いじゃなければ…)」
「こいつ、『ヒデタダ』って言うんだぜ、コラ」
「コロネロ?!」

 こちらの心中察することもなく暴露するコロネロは秀忠を指差した。それから人懐っこい笑みで「大丈夫だって」と言い聞かせる。

「こいつ、普段ぼっけーとしてて毒舌だけど、仲間想いだから大丈夫だぜ、コラ!」
「オレは仲間だったか…?」
「細かいことは気にすんなって! 猛烈に記憶力は悪いけど、悪い奴じゃねぇからな! コラ!」

 親指立ててウィンクを飛ばすコロネロに呆気にとられながらも思考する。
 綱吉自身も反対はしていない。それに綱吉の言う通り、これは信じる人間は信じるが信じない人間は信じないと両極端に意見が分かれるモノだ。教師の中には半信半疑のモノもいるし、フランが推察した通り『二重人格』として納得している教師の方が多い。

‐それに、普段の口調の方が喋りやすいでしょ?‐

 綱吉の声音からも、フランは信用しても良いと受け取れる。
 秀忠は口元に笑みを浮かべた。

「改めて、自己紹介する。沢田秀忠だ」
「沢田さんのお家の人は徳川家将軍がお好きなんですねー」
「…――警戒しないのか?」

 フランが壁からこちらへと移した。

「えぇ。ミーが信用してるコロ先輩が一緒にいるんですから大丈夫でしょーぅ」

 目をパチクリする秀忠。
 ぎょっとするコロネロ。
 凛々しく釣りあがっている目は丸くなっていた。

「お、オレ! お前にそんな信用されてたのか、コラ?!」
「じゃなきゃ、メール入れませーん…――まぁ、一人で来てない辺り気づいてないんでしょうけど」

 コロネロは慌ててポケットの中の蒼い携帯電話を確認する。何年か使っているようで所々下地の白が剥き出しになっていた。
 フランが言った通り着信メールに気づいておらず、わたわたと慌て、「わりぃ!」と頭を下げる。

「良いんですよー、別に。こうして来てくれたんですからーぁ。と言う事で、お二人にお願いがあるんですよーぉ」
「オレ達に…か?」
「はいー。ミーには頼れる人って…――って違いますねーぇ…」

 フランはそんな口調で言葉を一旦切ると。

「あの銀色の爆音スピーカーとダブル稲妻パイナップルに『対応できる人間』があなた達しか思い浮かばないんですねーぇ…――知人で」

 的確過ぎるとも言える表現に秀忠は苦笑する。
 しかし、『デイモン』が関ってくるとなると、むしろ対応できる生徒なんて殆どいない。
 やつは『奇抜で奇怪な奇人』に『変人』を上乗せした奴だ。まず髪型から。

「お前、交友関係めっちゃ狭そうだもんなぁ、コラ」
「傷付きましたーぁ」

 フランの申し出がいかにハードレベルのものか、気づかずコロネロは笑ってそんなことを言った。
 それに対し、えーん、と棒読みで一回だけ泣いたフリをしたフラン。それから直ぐに、すぅ、と苦しそうに息を吸った。

「お願いです」

 普段から想像できないほどハッキリした声で。


「その二人から、タケシィーを守って下さい」

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あきゅろす。
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