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日常編?
弁当チャーター
 本日もスカルのお手伝いをするべく沢田綱吉は昼休みに職員玄関に赴いていた。
 茶色の爆発頭は見た目よりもふんわりとしていて、以前通っていた学校のワイシャツと紺色のサマーベストを纏っている。
 その隣がスカル。同じクラスメイトで綱吉より高い背で、紫色の髪の毛を無造作に跳ねさせている。それだけでなく、パンクメイク、ボディーラインがくっきり出ている黒のライダースーツなど外見的要素が多々目立つ青年だ。
 弁当は職員玄関を通して入ってくる。それをスカルは運ぶフリをして、売り場に渡る前に横取りしているのだ。
 しかし最近、コロネロが勝手に安請け合いをしてしまい、普段の個数からバレンタインデーという名の戦争で知り合ったフラン達の分が増えてしまったのである。一人では運びきれない量という事で、綱吉が手伝いを買って出たのだ。それに風という中国服を身に纏いし学園トップの身体能力を誇る東洋人も手伝いを申し出て一緒に行くことになった…はずなのだが。

「何でお前らまで来てんだよ!」

 スカルは吠えた。

「何と言われましても、お弁当運びの手伝いをしに…」
「お前は良いんだ、お前は!」

 風の言い分を突っぱね、その更に後続にぞろぞろとついて来ている人間達に尋ねた。

「何って。綱吉がお弁当持ってきてくれるから手伝いだよ」

と、魔女を思わせるような黒いマントに深く被った男子校唯一の女子生徒、フードで顔が半分下しか見えていないマーモンが綱吉の顔を覗きこむように同意を求めた。
 それに綱吉はありがとうとにっこり微笑んだ。

「そりゃあ、ツナが危ない目に遭わないように警護だ、コラ」

と、金髪のとげとげ頭にバンダナを巻いた青年、コロネロが続けた。どうやって入手したのか不明な渋緑色の軍人服を当然のように着こなし、中は蒼の迷彩柄だ。

「ツナが弁当を振り回さねぇように見張りだ。この前ぐちゃぐちゃだったからな」

と、これから何処かに仕事でも行くんですか、と問いかけたくなるほどスーツがピッタリ似合っている長身のリボーン。黒い髪の毛が上に跳ねて、肩にペットであり相棒であるカメレオンのレオンが乗っかっている。

「私も見張りだ。ただし、沢田が炎の提供後の高利益を聞く前に逃げ出さんように…―――」
「ウゼェ。帰れ」

ヴェルデの言い訳は遮って拒否した。
いかにも科学者だと言わんばかりのいでたちをしたこの中で身長が一番デカイ。二番目のリボーンよりも頭一個分デカイ。白衣に珍しくパステルカラーのワイシャツをぴっしり締めて、クリーム色のネクタイが少しだけ曲がっている。無精髭が学生よりはオッサンを連想させる老けた学生だ。

「どいつもこいつも、ツナツナツナツナ!どうせ明日はヒデヒデヒデヒデだろ!」

スカルが喚くと、風はどこふく風のようにさらりと答える。

「スカルは一人でも大丈夫じゃないですか」

と、風は笑みを浮かべ。

「その通りだがなー。うん」

 風に言いくるめられるように頷くスカル。


「そーそー。スカルは強い子だからなー。コラ」

と、心にもないことを棒読みでコロネロが呟いた。

「テメェなんかどうでも良い」

リボーンらしくあしらわれる。

「スカルのことなんか眼中にないけど」

一応、彼女自身のファンなのだが、それに対して辛辣に吐き捨てるマーモン。

「貴様などいな…―――」
「テメェの言い分なんか分かりきってら。黙っとけ科学者」

すると、「おーい」とタイミングよく弁当チャーター係りの山本武とフランがやって来た。
手を降る姿の山本は如何にもスポーツ少年らしい爽やかな印象を与える。黒い髪は短く立っていて、こちらは体育が終わったばかりなのか、緑の下ジャージに何も描かれていないティーシャツ。その横は緑のパステルカラーを肩まで伸ばしたフランが、上下ジャージをしっかり着用して山本の少し後ろを歩いていた。

「いつも弁当どうもっす!」
「本当ですー。もみくちゃにされずに済みますか…―――」
「やまもとたけしぃいい!」

 白銀の、動く爆音スピーカー…――

「何処だぁああ―――」

 「あああ!」と雄叫びを廊下に残して、アルコバレーノ特待生クラス、S.スクアーロが真横を通りすぎていった。
 その間、山本とフランは何事もなかったように弁当を受け取った。
 彼の疾駆で生じた風圧に、服と髪が揺れた。
 くるり、と振り返れば「うぉ"お"お"い!」と彼が角を曲がっていった。
 弁当を受け取った山本は人懐っこい笑みを浮かべた。

 何の文句のつけようもない、極自然な「無視」だった。

 まるで、通りすぎていったスクアーロになど気づいていないように。

「や、山本…? 今、お呼びでは…?」
「へ?」

 山本はキョトンとして首を傾げた。

「今スクアーロの奴が…―――」
「さー行きましょー、タケシィー。みんながお腹すかせてますー」

 スカルのセリフを遮り、フランが山本の背中を押した。
 山本は押されるままに歩み始め、綱吉達に「ありがとうございましたー!」と礼を残して去っていった。

「え? あれ…?」
「幻覚だよ」
「へ?」

マーモンがぼそりと呟いた。

「山本に『だけ』何重にもかけてるのさ。多分、スクアーロには僕達をまるごと見えないようにして、更に、山本だけにはスクアーロの姿も声も見えないようにしたんだ。個人だけにかける、繊細さの必要な幻覚…――」
「あっ! マーモン!」

 二つの声がピッタリとマーモンの名前を呼ぶ。金髪の髪の毛を全く同じ所で切りそろえた双子の少年達――自称でも何でもなく、まさに正真正銘の王子達がやってきた。鏡像でも常に隣に配置しているのではないかと疑いたくなるほどピッタリと、それでいて右と左がモノの見事に対象的。恐らく、白いフリルが胸元で花開いているシルクのシャツを着ているのがラジエル。それと全く同じ作りをした黒いシャツを着ているのがベルフェゴールだ。
マーモンはぶんっと腕を一振りすると、廊下の奥からやって来た双子の王子が「待てよ!」と真横を通りすぎていった。
彼らもまた、先歩のスクアーロ同様に角をに吸い込まれていった。

「まぁ。今みたいな感じだね。フランのやってることはレベル高いけど」
「じゃあ、ここ最近、スクアーロが「叩き切る」って相手…――山本?」
「そうみたいだよ。精神チェンジした時のこと覚えてるかい?」

 うん、と綱吉は頷いた。
 学校中を大騒動に陥れた精神チェンジ事件。
 これは首謀者、白蘭が自ら出頭して完全に幕を閉じた。後世に確実伝わるであろう珍事件である。どうして何でもありのミラクルが起きまくる学校である。
 つくづく綱吉はそう思った。

「山本の中に雲雀さんが入ってて、骸の中に山本が入ってたって聞いたよ」
「お前はジョットの中だったんだってな」
「うん…――雨月先生とデイモン先生が入ると、ああなるんだなぁと…――ぷくくっ」

 綱吉はあの時を思い出して笑った。
 爽やかな笑顔を浮かべるデイモンに剣幕の雨月。どれも滅多に見られない表情が次々と見られて、綱吉は大笑いしたかった。

「あー? また先生方の事思い出してんの? ツナ?」
「うん…! もう駄目っ…!!」
「オレも見たかったなー。Gの中に入ったグロ」
「それが一番ダメだって!」

 ついには声を上げて笑いだす。マーモンは綱吉の元へ駆けつけているので教師達の入れ替わった姿を知っていて「面白かったよね」と声をかけた。思い出す方は腹筋崩壊が必至なので辛い。アラウディの中に入ったシャマルは街降りると言い、Gの中に入ったグロのテンションが辛かった。スパナ先生はグロの身体の中に入っても尚、モスか作りをしようとしていたという。流石だ。
 それにしても、と風はお弁当を抱えながらふと疑問を口にした。

「どうしたんでしょうね、スクアーロさんは。随分、山本君に熱心じゃないですか」
「知りたいかい?」

 にやり、と笑っているマーモンは「金寄こせ」と暗に訴えている。
 が、そこでマーモンのお小遣いチャンスをぶち壊すのがコロネロだった。こちらも、にやりと笑っていた。

「精神チェンジしてる時に、山本と骸の中身が入れ替わってるのに気付かなかったスクアーロが山本の戦いぶりに闘争心が燃え上がったんだってよ、コラ!」

 ち、と舌打ちしたマーモンは今回敗北を喫した。
 へぇ、と口々感嘆を零す綱吉達。勿論と言って良いほど気にとめないのがヴェルデ。

「そんなこと、よく知ってんなぁ。バカネロ」
「馬鹿じゃねぇぞ、コラ!」
「でもでも、何でそんな事コロネロが知ってんだよ?」

 スカルが弁当を抱え直した。
 それはなぁ、とコロネロが…――笑顔のまま固まった。

「ひ、秘密だ! コラ!」
「秘密もクソもねぇよ。もう暴露した後だろ」
「フランから相談されたみたいだよー?」

 お返し、と言わんばかりにマーモンが告げ口する。
 慌てた様子でコロネロが「馬鹿野郎!」とマーモンを怒鳴り付けたが、ぷいっと彼女は黙殺した。

「フランが…相談…?」

 訝しがるスカルを余所に、リボーンは。

「お前。先輩面できたんだな」
「失礼なこと言うな、コラ! オレだって先輩だぞ、コラ!」
「そうですよ、リボーン。寧ろ、リボーンより頼り易い先輩です」
「見えねぇんだよ、馬鹿だから」
「で、どんな相談持ちかけられたんだよ?」
「それは…男と男の約束だ、コラ!」

 ふん、と誇らしげに腕を組んだコロネロに。

「違うよコロネロ。フランは『山本には秘密にして』としか言ってないよ」
「なっ?! 何でそこまで知ってんだ、コラ! ――…ん? そうなのか? コラ?」

 茶化したマーモンだったが、その一言で呆れに変わった。
 詳しく覚えていなかったコロネロが逆に問い返すという、相談に乗った本人はしっかり覚えていない、何とも先輩として頼りない絵図が完成していた。
 風からは苦笑が零れた。

「リボーンじゃないけど、よく先輩面できたねぇ、本当」
「うっせぇぞ、コラ!」

 こうなればマーモンの方が上手だった。あれよこれよと捲くし立てるコロネロを軽い調子で馬鹿にしてあしらう。
 でもまぁ、と笑う。

「そろそろ、どっちかが襤褸を出すだろうけどね」
「は?」

 クスクスと笑うマーモンは、「さぁお昼お昼」と綱吉の背中を押す。
 少し茫然としてからコロネロはマーモンにどういうことかと迫ったが、それ以上は料金がかかるので断念せざる負えなかった。
 それでも、その答えは数日後、彼女が宣言した通りになった…――フランが熱を出すという結果で。

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あきゅろす。
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