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日常編?
超余談【黒き少年、白き少年】
 ふっと力が抜けて倒れたと思って顔をあげると部屋番号がたくさん廊下だった。
 青い布製の廊下、白い壁紙。学生寮とはうってかわって落ち着きのある作りになっている此処は教員寮だ。

「ちょっと…! 僕はあのパイナップルとやり合ってる途中だったのに…!」
「あっれ? もとに戻ったのかなぁー?」

横から聞こえてきた陽気で腹立つ声に振り返る。白いドリア頭を掻きながら、ニコニコと笑った。

「身体、元に戻ってるよ? 雲雀チャン?」

ほい、と彼は鏡を雲雀に鏡を見せてきた。鏡の中に雲雀の顔が映っていた。

 元の身体に、戻っている。

「あのパイナップル…!」

にやりと再戦のチャンスに口が笑んだ。

すっくと立ち上がって、バイバイと手を降る男に背を向けた。

もとの身体に戻ったせいか身体が軽くなった気がする。トンファーを引っ張り出して、壁へ殴り付けた。
爆音を立てて壁が凹む。声を枯らせたように、ぱらりと破片は床に散った。

「今日こそは…!」

嘲笑を浮かべる六道に、怒りをたぎらせて、雲雀は走り出した。


〇〇〇


「あーあ、行っちゃった〜♪」

白蘭は雲雀を見送って目的のドアを開く。

「やっ。桔梗チャン! 元気〜?」

桔梗の部屋に入って声を掛けた。彼はローテーブルに山盛りの菓子を置いて、丁度キッチンから戻ってくるところだった。

桔梗は「おはようございます」と白蘭を迎え入れた。

「白蘭様が期待した通り『動かなかった』ですよ?」
「あー。やっぱりぃ? じゃ、抜けたのかなー? ちょっと見てみよーっと♪」

けらけらと笑いながら、彼が寝室として使っているドアノブに手をかける。

「白蘭様は気軽るですね」
「んー? 僕だけど僕じゃないしー」
「私は気味悪さに心臓をわし掴みされた気分ですよ」

全く、と苦笑する桔梗など気にせずドアを開け放った。

白亜の室内はこざっぱりとしていて、そこには二人、人間がいた。

一人はベッド。
もう一人は投げ捨てられたように転がっていた。

「全く。白蘭様はやることが無茶苦茶です。スパナ先生なら消えても大丈夫だろうだなんて」

床に転がっているのは桔梗と共に理科系の教科を担当しているグロ・キシニア。目を閉じ、動く気配、生気さえ人形のように感じられない。

今回の実験のために、桔梗が昨夜からキシニアを部屋に呼び、酔わせて泊まらせるように仕組んだのだ。
二日酔いで動けないので休ませていると言っておけば特に誰も気には止めない。
更に言えば、年中ラボに籠りっぱなしのスパナは教師と言うよりは技師。構内の機器の修理専門だ。この手の事態は初めてであり手の施しようはない。身体の中身がわかれば、『彼らしい』と言う理由でその場にいなくても気にしないはずだ。

「でも大丈夫だったでしょー? 『見付からなくても怪しまれない』んだから」
「えぇ。疑われることなく見逃していただけました」

そして、桔梗のベッドに横たわっているのは…―――。

「いやぁ。僕が死んだ時ってこんな感じなんだねぇ。あっはは♪」

目を閉じ、安らかに眠っている『白蘭』。

 白蘭はベッドの横で膝をつくと頬をつついた。ついでに鼻を押し上げて豚みたいにしてみる。

「わーお。動かなーい♪」

 白蘭がパラレルワールドで得た知識で作り上げた『クローン人間』の技術で自らのクローンを作り上げたのだ。
 本物の自分を連れていくのは世界一つ潰してしまうぐらい難しく、連れてきたとしても上手く扱えるわけではなかった。
 しかし、同じ人間が居れば楽だろうという思考から離れることはできず、そこから生まれた、荒業。

「白蘭様…私には心苦しいです」
「えー? 桔梗チャンが言うと気持ち悪ーい。まぁ、死んだ時の予行練習とでも思っておけば良いんじゃない?」
「ご冗談を」

桔梗は苦笑してそう言った。

「私より先に死ぬ事はないでしょうが、拝見したくありません」

そう言いきった白蘭に、わお、と白蘭はニコニコと笑んだまま呟く。

「桔梗チャン、本当に気持ち悪いよ?」
「ハハン。ありがとうございます」

すると、うっ、と床に横たわっていたキシニアが呟いた。その瞬間、白蘭は文字通り、転がり込んでベッドの下に入り込む。

キシニアはそのまま起き上がって、辺りをキョロキョロ見回す仕草を見せる。桔梗は彼に挨拶をした。

「スパナはラボに籠ってるんじゃなかったのか?」
「それが、気持ち悪いと言って今までトイレに居たのですが、横になると言って其処に寝転んでしまったのですよ
 何でも、ラボに敷いた敷き布団と感触が似てるとかで床に寝てしまいましてね」

ふむ、とキシニアは立ち上がると、キシニアはさっさと「邪魔したな」と言って部屋を出ていってしまった。

白蘭は改めてベッドの下をキョロキョロ見回す。男らしくもなくエロ本の類いはないようだ。キシニアが室内から出ていったことを告げられると、白蘭は頭だけひょっこりと出した。

「桔梗チャン。エロ本ないの?」
「その類いは御座いませんし、ベッドの下に隠すような年頃は十の昔に通りすぎましたよ」
「えー? 桔梗チャン何か隠すもの有ったのー?」

ニヤニヤと見上げると、桔梗は恐れながら、と笑う。

「両親は教育に厳しい方々でしてね。ファッション誌やゲームなど、娯楽の類いを購入すると捨てられましたから」
「色々な意味でつまんない」

ありがとうございます、と頭を下げる桔梗をよそに、白蘭はベッドの下から這い出て来て服の汚れを払う。

「それじゃ、行こっか?」
「かしこまりました」

桔梗は横たわっている『白蘭』をお姫様抱っこで抱き上げた。その颯爽とした姿の優雅なこと。そのまま部屋を出ていこうとさえしなければ完璧に紳士だ。

「桔梗チャン、桔梗チャン? そのまま連れていくの?」
「はい。勿論です」
「いやいや、駄目だって。秘密裏の活動なんだから。ごみ袋に詰めるとか、段ボールに入れるとかしなきゃ」

すると、桔梗は顔を青くする。

「クローンとはいえ主君ですよ? そんなものに詰めるなんて……」
「うん…何かゴメン」

変な所不器用な桔梗に、台車と空の段ボールを4つ持ってくるように指示を出す。了承した桔梗は再び静かに『白蘭』を寝かせて出ていった。

再びベッドに眠っているクローンの『白蘭』を見下ろす。


「なぁんか、気持ち悪いなぁ」


ぽつりと、白蘭はそう呟いた。

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