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日常編?

明らかに信用していないだろう。そんな話をされてもまず信じることは無い。

「だから君のハリネズミに会いに来たんだ。『この身体の持ち主』がその中に入ってるだろうからね」
「意味が、分からないんだけど」
「貴様、『この現状』を分かっていないのか?」
「分かってない訳ないじゃない…!」

テーブルの上にお茶を3つおいて、その中心に和菓子を置いた山本はこちらを睨み上げた。

「このヘラヘラした奴の身体の中に居るなんてなんなの…!」
「それはこちらとしても不明だ。そして、その現象が貴様の所のハリネズミと私の研究資源に―――」
「『僕の』秀忠達と入れ替わってるんだ」

風をわざわざ黙らせて、マーモンはそう告げた。
風とマーモンが睨みあうが、その間を関係なしに山本は椅子に座りこんだ。

「君達の所持物に関する言いあいは関係ないよ。それより、僕のハリネズミと入れ替わるなんて一体、どういう了見なの…!」
「それなら逆に、君の所のハリネズミは何で僕の大事な秀忠達に入れ替わってるのって質問が成立する筈だ」

くっと唇を噛みつけながら見上げる山本。
ここ最近、よく顔を合わせている山本武がこんな顔をし続けているなんてちょっと不思議に思えてくる。

「原因が分かっても下らない問答だよ」

ぷは、と風の口が解放されると、物言いたげにマーモンを一瞥した。
雲雀はしばし逡巡すると、こちらを睨みつける。

「その話を、信用しろというのが無理だ」
「困った人だね。君そっくりな風を前に安心しきったように眠っているだけでも十分だと思うけど」
「僕のそっくりさんが目の前に居るんだから、彼が助けた動物か何かじゃないの」
‐マーモン、雲雀と連絡付けてくれないか‐
「ヒデ」

頼む、とマーモンをもう一度押すと、仕方ないね、と小さく笑ってくれた。

‐雲雀、聞こえるか?‐
「…!」

目を見開いた山本は頭を抑えると、何、と呟いた。

‐今、マーモンの力でお前の頭に直接話しかけてる。えっと、そこで寝てる沢田綱吉の兄だ‐
「何処に居るの」
‐沢田綱吉の『中』だ‐
「意味が分からないんだけど」
‐今体験しているのだって意味が分からないだろう‐

雲雀はむっすりと顔を歪めると口を噤んだ。

‐こんな状況になって混乱している生徒は殆どだ。でも、このハリネズミもその内の1人―――…1匹なんだ。
 目を覚ましたらいつも居る筈のお前が居なくて、でも代わりに知らない人達が押し掛けて来て。ずっとお前に来てくれって泣いてたんだ。お前なら、絶対に助けに来てくれるって信じて‐


ずっと見てた。
見えてた、見て来た。


いかに、ハリネズミにとって雲雀と言う存在が大事な人なのか。
意識だけでも、ハリネズミの記憶は『此処』にあるのだ。

‐だけどお前そっくりな風が来て、この子凄く喜んでた。勘違いしてしまったが、お前が来てくれて漸く恐怖から解放されたんだ‐

ずっと記憶の映像を見て来た。
ハリネズミ視点からの雲雀。
誰も見たことの無い笑みを、この子の前だけで雲雀は浮かべているのだ。

邪気に塗れた笑みではない。
優しくて暖かい笑み。
ハリネズミの我儘に『仕方ないね』と折れている雲雀。
四ツ葉のクローバーの話を聞いたハリネズミは、自分で朝から探しに行った事だって有った。渡したくって探したのだ。
傍に居てくれて、どんなピンチも助けに来てくれた。
そんな人に、幸せになって欲しかったから。

‐ずっと、しがみ付きながら『ありがとう』って、言ってたの覚えてる。ずっとお前にお礼言ってた。
 確かに、綱吉の中に入っちゃってるけど、ずっとずっとお前の事待ってたんだ。信じて、やってくれないか?‐

しばしの沈黙の後、山本ははぁ、と溜息を吐いて立ち上がった。

「僕の、映像がね」
‐え…?‐
「今、自分で言ってたじゃない。四ツ葉のクロバーは…確かにあの子から貰ったよ―――枯れても綺麗なように、押し花にしてある」

ちらりと文庫に挟んであるしおりを見下ろした雲雀はその場を離れてしまった。

‐言った覚えは―――‐
「ヒデが脳内でトレース―――心で思ったモノが直接伝わっただけだよ。僕の能力は『思考』を伝えるものだから」
‐そう言う事か…‐
「どっちでも構わないよ」

雲雀はすっと部屋へと続く襖を開けると、背を向けたまま呟いた。

「僕のハリネズミ連れて来て。布団を貸す」
「序に預かってくれると助かる。この子、風以外の人間相手だと泣き出すんだ」
「マーモン、訂正しておけ『雲雀以外』だ」
「どの道、雲雀の本体が見つかるまでは一緒だよ」

仕方ないね、と呟いて。部屋の中に入っていく。中で、また引き戸が開く音がした。

「山本武が此処に居るということは、雲雀の本体は山本武の所だな」
「もしかしたら、そこに居るかもしれないね。ツナ」
‐悪いんだけど、ツナを頼んでも良いか?‐
「任せなよ! 寧ろ、僕が居ないとあいつ等何しでかすか分からないからね!」

興奮気味にマーモンが頷いてくれた。確かに、あいつ等は変な方向で暴走したり余計な事件を巻き起こす達人だ。リボーンとスカル、コロネロの3人はトラブルメーカーと言っても過言ではない。少なくとも、マーモンと風は引き止めてくれるだろう。

「私は此処に残るのが妥当だろ。雲雀の本体が見つかるまでな」
‐手ぇ出すなよ‐
「手ぇ出さないでよ」
「貴様ら、私をなんだと…―――」
「敷き終わったよ。僕のハリネズミ連れて来て」

全く、と呆れたように呟いた風を遮るように寝具の準備を整えた山本が呼び付ける。風はその部屋の前で雲雀と擦れ違い様に山本はさらりと綱吉の前髪を撫でた。

「…はぁ」
「触っておいてその溜息は何だ」
「ハリネズミの方が…毛並みが良かった…」
「それは残念だったな」
「取り敢えず、この子には何もしないでよ」
「貴様まで私を何だと…」
「『敵』」

あっさりと吐き捨てた雲雀は、早く寝かせなよ、と指示を出す。ヴェルデの対策は本当に大丈夫そうだ。
ここは畳の和室らしくて、白い壁紙に茶色の梁が如何にも和室を演出している。
押し入れや、タンスなんて懐かしく思える。
こんな丸い窓は自宅にはないが、それが開いていて、ふわりとそよ風が入りこんできた。その布団の傍にはふんわりとした布の詰められた籠が置いてある。

そこは日本人である血が混ざっているせいか、とても落ち着く場所だった。


〇〇〇


ハリネズミは居ない、という事情を説明され、恐らくは雲雀と入れ替わったであろう山本と接触する事になった。

「確か、山本ってフランと同室だったよな?」
「連絡取ってみるか、コラ」

フランは携帯電話を引っ張り出して繋ぐ。直ぐに会話は始まって、フランは『マジかコラ!』と顔を明るくさせた。今すぐ行くからと伝えて通話を切った。

期待膨らむ反応は裏切ることもなく、コロネロから告げられる。

「部屋に雲雀とハリネズミ居るってよ!」
「やった!」
「部屋番は3012だ、コラ!」
「よし! 行くぞ…―――」

じじじ、とマーモンが、姿を眩ますように縦にぶれた。

「マーモン、私達も…―――」
「大丈夫、ツナの安否は僕に任せて☆」
「待ぁあて、コラぁ!」

そんな訴えは聞き入れられる事もなく、マーモンはさっさとテレポートしてしまった。フランの待ったが、虚しく空に散った。

「クッソぉ! オレ達も行くぞ、コラぁ!」

走り出したフランを追いかけて、リボーンが「待って」と後を追う。その後ろヴェルデが付いていく。
そして、スカルであるリボーンもゆっくり追っていく。
すでにエレベーターに乗り込んだ3人にから急された。

「早く来いってんだ、コラ」

全く。


手招きするフラン。
中身はコロネロ。
見た目は全く違うのに、やはり奴は奴だ。


「頭、上がらねぇなぁ…」


急かすフランに、待てよ、と声を掛ける。しかし、スカルみたいだといわれてしまった。

そんなのは身体がスカルなんだから仕方ない。

しかし彼は、「腹立つから早くしろ」と急かした。


本当に、何時だって忙しない奴だ。

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