日常編?
☆
〇〇〇
コロネロの中のフランからの指示で、音声ガイド付きのト電子辞書を持ってくるように言われた。
「今の電子辞書は旅行先で使える用の会話機能の入ってる奴が主流でしょー?」
綱吉の前では役立たず、と後輩に罵られたが事実である以上何も言い返せなかった。
そして、もう少し冷静になれれば彼のように発想出来たかもしれないと思うと、少々自身に対して苛立ちを覚えた。
フランが入ってから数十分後。ずっと泣きっぱなしだった綱吉が静かになったのを期にアルコバレーノの何も出来なかった組は一様に安堵の溜め息を溢しながらも、『役立たず』の不名誉が確立されることとなった。
「さて……どうしましょう…」
ヴェルデがそんな事を言いながら正座している。中身が風のせいで普段のヴェルデと全く違うから違和感しか残らない。
それでも、この状況を打開すべく、やっぱり、とスカルであるリボーンは続けた。
「元凶突き止めるのが一番だろ」
「でも、集団で精神が入れ替わるなんて何があれば起きんの?」
「だよなぁ…」
はぁ、と明らかに出ない答えに溜め息を吐くしかなかった。
こんな非現実的な現象をどうしろと言うのだ。
ヴェルデから聞いた話ではその内戻るだろうと言う話だが待つつもりは更々ない。
最低でも綱吉だけは元に戻してやらなくては、こちらの身が持ちそうにない。
何って、可愛さで。
確かに、泣いてばかりなのだがその涙で濡れている顔が…って何考えてんだ、オレ。
「取り敢えず、ヴェルデは呼び戻すか…」
「すみませーん」
すると無表情でドアを開けてきたコロネロが電子辞書を差し出した。部屋の中では部屋の隅で体を丸めるように小さくなっている綱吉がブルブル震えている。それに、わざわざ布団を被せているようだ。
「全機能試しましたけど駄目みたいですー」
「マジかよ、コラ!」
「あー。そんな大きな声だしたら…」
「うわっ!」
コロネロの後ろの綱吉が再び、うわぁあああん、と泣き出してしまった。
じとりと大声を出してしまったフランを睨み付けると、彼は口を押さえてから苦笑して謝った。
全く、とコロネロは面倒臭そうに溜め息を吐いて、泣き出した綱吉に一瞥くれる。
「また泣いちゃったじゃないですかー。あの子、超デリケートなんですよー、コロネ先輩達と違ってー。またしばらく抱きつかないと駄目じゃないですかー…」
「抱きっ…?!」
全く、と呟いたコロネロを引き摺り出してドアを閉めた。床に仰向けに倒して、リボーン、スカル、ヴェルデにフランの役立たず達は静に怒りを燻らせて彼を見下した。
「人様の弟に何してんだ? ああん?」
「あれ、本当に人間ですか?」
「テメェ…何言ってやがんだ、コラ…!」
「ミーが観察してる限りだと仕草が動物みたいだなーってー」
「それって…?」
「あー。はいはい。ヘタレゲイ集団は餌を前にお食事出来ずにお預けなんですねー。それは実に残念でしたー。可哀想なのでミーは同情してあげますよー」
殴ってやりたい衝動にかられて拳を握りしめる。自分の身体で殴れないのが実に腹立たしい。
誰もが怒りに身を震わせながら拳を引っ込めていく中、コロネロは面倒くさそうに起き上がった。
「そんなに邪魔ならミーは出ていきますよー。元々コロネ先輩に強制連行されただけですしー。指加えて見てろってんだ、このスケベ集団」
「もー殴っていいか、コラ! オレはスケベでもヘタレでもねぇってんだ、コラ!」
暴走し始めたフランをヴェルデが後ろから羽交い締めして止める。
コロネロは寝転がったまま面倒臭そうに目を細めた。
「別にー。痛いですけど、ミーの身体じゃないんで。殴れば良いですよ好きなだけ」
「このっ…!」
それじゃ、と起き上がったコロネロは無表情でいろんな意味で完敗組の脇をすり抜けていく。
「身体が戻りそうになったら呼んで下さーい。それまでミーはタケシぃー探しに行くんで」
携帯電話を弄りながら部屋を出て行くコロネロの背中を睨め付けて送り出す。
「フ・ラ・ン・の野郎〜っ!」
と、フランの身体に入り込んでいるコロネロが地団駄踏んで喚く。本当におかしな光景でしかない。
「取り敢えず、ヴェルデを呼びましょうか…間違いなくこの中で誰よりも冷静な筈ですし…―――」
「戻った瞬間にぶん殴ってやるぜ、コラ!」
「あの…話…―――」
「オレ様だって、ヘタレは当てはまってもドスケベじゃない!」
「ドはついて無いんじゃリボ…じゃなくてスカル…?」
だんっ、とリボーンがテーブルを叩きつける。
こちらも黙っているつもりはない。
前々からゲイと言われ続け、スカルと同類視されていると過言ではないヘタレ。しまいにはスケベとまで呼ばれたのである。
『紳士的』という言葉が誰よりも相応しく振る舞ってきたというのに。
「取り敢えず風穴開けてやる…!」
「取り敢えずも何もなく、風穴開けたら色んな意味で駄目ですょ―――」
「黙ってろ、変態研究者…!」
リボーンとスカル、フランの声が綺麗に揃ってヴェルデの頭に銃口やらナイフを突き付ける。
すると、そのヴェルデから『ぶつん』と何かがキレる音が盛大に聞こえてきた。
そう言えば、ヴェルデじゃなくて風だった。
ばり、と緑色の雷が掌で爆ぜた。
すると、あのマッドサイエンティストらしい真っ黒い笑みを浮かべて―――。
「『黙っとけ』」
ヴェルデの身体から夥しい量の死ぬ気の炎が彼を照すように包み込んで照らしつけた。それが雷撃と化して飛び散った瞬間…―――世界が、ブラックアウトした。
〇〇〇
ヴェルデの電撃を食らってから覚醒することが出来たリボーン達だったが、リボーンの身体は何故か早く動くようになり、今は電話に出ない風(ヴェルデ)を呼びに走っていた。
残念ながら、スカルとフランは電撃による麻痺で身体は思うように動かないでいる。その間、ヴェルデである風が綱吉の中身の誰かさんを宥めようと挑戦したが失敗に終わった。
溜め息を溢しながら、駄目ですね、とヴェルデは頭を振った。
「一体…フランの野郎、どうやって宥めたんだ……コラ…」
「すみません。リボーン…じゃなくって、スカルには言ったのですが、皆さんが電撃で眠った直後に全校生徒へ今日はお休みだと連絡が入ったんです」
「マジか! ラッキーじゃねぇか、コラ!」
ヴェルデも良かったです、と頷いて。
「デイモンの声で『ござる』口調でした!」
これ迄にないほど嬉しそうなヴェルデの無邪気な笑みが拝見できた。
「あー…。うん、そっかぁ。休みになるわなぁ、そりゃ」
「だーっはっはっ! その放送超聞きたかったぜ、コラ!」
腹を抱えて笑いだしたフランだったが、直ぐに噎せて酷く咳こみ始めた。慌ててヴェルデが大丈夫かと背中を擦る。
あぁ、本当に。
ヴェルデのこんな姿は絶対に拝めないだろう。
そして、デイモンのござる口調も是非聞きたかった。。
パイナップルと言えば本気で遊んでくれたが、そんなお茶目なことはした試しはない。
元々子供という存在を好んでいないからだろう。なんと言ったって学生の前でハッキリ言い放つほどだ。
「それで先生達は取り敢えず『身体』ではなく『意識』の方の自室で待っていて下さい、との事です」
「つまり、オレはオレの部屋に居ろってことか、コラ」
「ん? そうなると…?」
綱吉の引きこもっているはずのドアを見やる。ヴェルデも困ったように目を伏せて頷いた。
「綱吉君の中の方は放送を聞いても尚、動く気配がないんです…」
ヴェルデも、同様に閉ざした扉に目を向けた。
「あの…やっぱり……」
すると、風の台詞を遮るようにイヤホンの音が来客を告げる。まともに動けない自分の代わりにヴェルデが迎え入れた。風は真っ先に入って来るなり、ヴェルデに笑いかけた。
「貴様の死ぬ気の炎は『赤』だったぞ」
「?!」
すると風は彼らしからぬくすくすと含んだ笑みを浮かべた。
「『貴様が出来た』のだ。私が出来てもおかしくあるまい? 私は天才だからな」
出来た、とは…―――先程の電撃といい、そう言えば、風の動きを止めてもいたか。もしかしたら連行するために死ぬ気の炎を操って一撃入れてるかもしれない。だから機嫌良くやって来たのか。来いと言っただけで来るような奴ではない。下らないと研究室に閉じ籠っているはずた。
風はくつくつとまた性悪な笑みを浮かべた。
「で、綱吉には言葉が通じないらしいな」
「はい。あと、フラン君が見た限りでは『動物の仕草』みたいだったと…」
「動物か…」
「つーか、動物となんて入れ替わるのかよ?」
「入れ替われるだろうな。地球上の生物は人間だけではない。それに、人間も所詮『動物』だ」
ふむ、と風は腕を組んでから自信に満ちた笑みを浮かべる。
「暫く観察していれば、大まかに分類できるやもしれん」
「そんな事できんのかよ?!」
「当たり前だ。私が研究している物は動物を入れて持ち運べる兵器だ。
まずは動きを完璧な動物ロボで入れられるか試しているからな…―――動物の動きに関しては脳内にインプット済みだ」
別に、匣に突っ込むだけなら動くようにするだけで十分じゃないだろうか。ワザワザ動きを完璧にしなくても。
完璧主義なヴェルデらしい行動だが、無駄な気がする。
誇らしげに鼻で笑った風は、見ていろ、と言って綱吉の引きこもっているドアを開け放った。
すると、こちらの会話が気になっていたのか、綱吉は布団にくるまったままドアのすぐ側で座り込んでいたが。
「ん?」とスカル。
「あれ?」とリボーン。
「え?」とヴェルデが呟く。
今まで人間が立ち入ればわんわん泣き叫んでいた綱吉が、ぼーっと風を見上げて固まっている。
「何あったんだー。コラー」
身体が未だに全然動かないフランはそう問いかけた。
ふむ、とじっと見上げていた綱吉は、膝を着いた風と目線を合わせるように顔を下ろした。
「おい、動かんか―――」
綱吉は瞳を潤ませながら輝かせると、嬉しさに満ち溢れた笑みを浮かべた。
その大きな瞳から涙を溢し、そして。
がばっと、風に抱き付いた。
「っ―――?!?!」
「?!?!?!?」
現状を理解できず、風はそのまま綱吉に押し倒された。
「おい!」と頬を紅潮させている風など構いなしに、彼は頬を刷り寄せる。
心から安堵したような笑みを、満面に浮かべながら。
綱吉は、風にしがみついて離れようとはしなかった。
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