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日常編?
取り敢えず、集合
マーモンは2日前から仕事で学園を離れている。全員の携帯データを持っているスカルに「良くやった!」と褒めながら彼の部屋に集まるようメールを送信する。勿論ヴェルデも忘れていない。
しかし、身体と意識が入れ替わってる、なんて馬鹿な話を信じるだろうか、という根本的な事実に気付いたのはメールを送信し終わってからだった。

「信じるわけねぇだろ―――」
かちっ。

聞こえて来た解錠音に振り向けば―――『オレ』がドアを開け放った。

「ややや! やっぱりぃ!?」

リボーンの顔は思いっきり驚愕に染まっている。
声はリボーンの物だが、喋り方が。

「スカルかテメェ?!」
「そうだよ、スカルだ!」
「来るの速過ぎだろ!」

スカルだと認めたリボーンは「仕方ないだろ!」と半ベソで携帯電話を両手で握り締めた。

「朝起きたっけリボーンの部屋に居るもんだから出て行こうとしたらリボーンなんだもん! だからオレもメールで確認しようかと思ったけど…信じてくれるか分かんなくって、でも一応自分の部屋だしと思って戻って来た所に―――自分の名前のメールが届いて…」

この学校の寮はカードキーで開く仕組みになっているが、そのカードを寮に忘れて行く生徒もいる。その対応のため、カードをスキャンする横には解錠用の数字のボタンがカバーに隠してある。その解錠番号を知っているのは、その部屋を使っている生徒だけだ。

「と、取り敢えずスカルなんだな?」
「そうだってばぁ!」
「気色悪い喋り方すんじゃねぇ! 仮にもオレの中にいんだぞ! テメェのヘタレ精神でオレのイメージ崩すな!!」

ぶん殴って黙らせると頬を赤くして涙を浮かべ、膝を揃えて横たわった。「痛い!」と上半身を起こしながら叫ぶリボーンが―――何だか夫に殴られた後の奥さんのような姿を連想させた我が体の胸倉を掴み上げる。

「だから…! イメージ崩すような態度と台詞を吐くんじゃねぇ…謝るのも禁止だ!」
「ちょっと待てぇ! それだったらどうすれば良いんだよ、オレぇ!」
「黙って殴られてろ!」

傍から見れば立場が逆転したとんでもない光景が広がっているが、それを仲裁できる赤の他人はいなかった。
取り敢えず、スカルの部屋はそれなりに嗜好品が揃っているのでエスプレッソコーヒーを注いで招集をかけた友人達を待つ事にする。気を落ち着けるため、と言うのも視野に入っている。流石オレ。結構冷静だ。

「おい。オレ達、昨日何かあったか? 普通にいつも通りだったよな?」
「勿論。額も互いにぶつけてないし!」
「額…?」
「額ぶつけあうと精神が入れ換わるってツナから借りた漫画でみたことがある」

そうか、とリボーンの胸倉を掴み上げる。

「え、ちょ…」
「取り敢えず、舌噛むなよ」
「は―――」

当然、彼の疑問など聞くこともなく。


ごっちん☆


スカルが一方的に額をぶつける。が。

「…入れ替わらねぇじゃねぇか」
「だぁ〜だだだだ! いってぇ!!」

のた打ち回る我が身体を完全無視しながら、少しだけひりひりする額を撫でた。

「ったく、何があったコノヤロー」
『お待たせしましたー!』
「ん?」

のたうちまわっていたリボーンは動きを止めてドアから聞こえて来た礼儀正しい声に目をパチクリさせる。

『鍵、開けて下さい! 今、両手が塞がってて―――』
『だったら下ろせ!』
『それに、何だかもう疲れてしまってるんです…』


自分の顔と見合わせる。


「風と…ヴェルデ…―――だよな…?」
「でも、『声』と『口調』違くね?」

はいはい、とリボーンの容姿をしたスカルはドアを開けに行く。
開け放ったそこには―――風を背負ったヴェルデが。

「?!?!?!」

ぱっと顔を明るくしたヴェルデは「助かりました」と言ってから、にこやかな笑みを浮かべてリボーンの横をすり抜けて中に侵入して。

「気っっっ色悪っ!!」
「ヴェルデ、何時の間にそんな風みたいにイケ好かねぇ笑み浮かべるようになった?!」
「成程、スカルはそう思ってたんですね。覚えておきます」
「ち、違う! オレ様じゃねぇ!!」
「はい?」

ヴェルデがくるりとスカルに振り向く。

「オレがスカルだ!」
「え? でもリボーン…」
「取り敢えず『身体』はな。オレがリボーンだ」

なんとなく現状を理解したリボーンは、コーヒーカップを持ち上げて足を組む。キョトンとしているヴェルデに一瞥くれる。

「風か…」
「はい。何だかヴェルデと入れ替わっちゃったみたいです」
「そんなテキストサービスフレームワークの話など知るか。下ろせ、風! 人の体で好き勝手遊ぶ――――」

な、と意味の分からないことを発した風に三人で詰め寄る。ヴェルデになっている風に関しては自らの体でありながら胸ぐらを掴み上げていた。

「その話、ちょっと詳しく聞かせろや」

言葉を詰まらせながら、風になっているヴェルデは了承すると喋り出した。

俗に『変身譚』と呼ばれるものらしい。


○○○


テキストサービスフレームワーク。

略称『TSF』。

創作上では性転換ジャンルの総称。
ただし現実社会では性転換手術を行うのは極めて稀であり、DNAレベルの改造手術や薬品、魔法、呪術などに伴う異性への変身や異性への精神の入れ替わりや憑依などをそう呼ぶという。


○○○

それにしてもミラクルな状況のように見える。まさか頭脳派のヴェルデに体力派の風がおんぶされている姿など普通に考えれば拝める姿ではない。

「つーか…お前らも『中身』入れ替わってんのか…」
「そうみたいなんです…」

呆れるしかない状況に、はぁ、とヴェルデも溜息を吐いた。

「朝、揺すられたと思ったら『私』に起こしてもらっていたんです…夢でも見たのかと思いました…」
「私は何故か研究所ではなく部屋で寝ていたから戻っただけだ。全く、こんな馬鹿なことがあるか! いいから解放せんか、風! 私は研究所に戻る!」
「こんな調子なので、ヴェルデの電撃を使って身体を麻痺させたんです」

ばり、と掌に電撃を爆ぜらせて、ヴェルデは風をソファーに下ろした。その間も風の身体を押さえ付けるべく手首をしっかり掴んでいた。

「自分の身体でも手加減しない所が風だよな…」
「えぇ。自分の身体だからこそ遠慮なくやれますよ」

ヴェルデはそんな事をにっこり笑いながら言い放った。
それから何かを思いついたらしいヴェルデは、もしかして、と目を丸くした。

「つまり、私がこの身体を使えるということは、普段偏食のヴェルデに色々な食べ物を食べさせることが出来るって事ですよね?!」
「あーんと…多分そうだと思うが…―――目を輝かせるな? 気持ち悪いだけだぞ?」

するとヴェルデはがたんと立ち上がって興奮したように頬を薄紅に染める。満面の笑みを浮かべて「では!」と声を張り上げた。

「私、朝食を食べに行ってきます!」
「待てぇ! この状況でんなこと気にスンナ!」

今まで拘束していた風の手首を話、ヴェルデが輝いた顔で走り出す。「待て」を三回繰り返してスカルの身体で朝食に向かいだした奴を引き留める。天性の天然は何を考えるか分からない。天才と馬鹿が紙一重の研究者張りに厄介だ。

「もっと普通に考えろ! 身体が入れ替わった事に慌てろ! 若しくはこの状況の異常性を考えろ!」
「何言ってるんですか、大いに慌ててますよ! 状況の異常性をちゃぁんと把握してますとも! そして私は至って普通に考えていますから! 彼の偏食はいつか必ず健康に害をきたします! 医食同源! 食は人間の体に必須です! そして身体は資本! ヴェルデの食生活に少しでもメスを入れるべきです! これはそのチャンスです!!」
「分かった分かった! それは後だ! ったく、お前は身体が入れ替わったってのに他人の健康状況の方が大事かよ…」
「私はスカルと入れ替わっても同じことしますよ。だってお肉しか食べないじゃないですか」
「あーそうかよ。分かった分かった。こっちがテメェの思考回路に完敗だっつーの」

はぁ、とマイペースな風の思考に溜息を吐く。気が落ち着いたヴェルデ(風)は漸く、うーん、と腕を組んで誰もが一番の疑問を口にした。

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あきゅろす。
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