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日常編?

すると、モヤモヤとフランが、コロネロが、倒れたままの武がぼやけて揺れた。次第に透明化して同化していくと、綺麗さっぱり何もなくなってしまった。
唯一有るとすれば、交戦があったと証拠づける壁の穴。
幸い、フランは無線機を壊さずにおいて行ったようだ。それを慌てて耳に掛けてスイッチを入れる。

「面目ない! 抜けられたでござる!」
《何やってんだ! 今更マイクのスイッチ入れてんじゃねぇ!!》
「面目ない!」

そう言って宿直室へと向う。角を曲がれば、真正面にあるゴミ捨て場が先に視界に入っる。それから宿直室のドアを見やる。

「な…―――」


中に入る為のドアノブが『切り落とされて』いた。


「G! 今すぐナックルとセコーンドと桔梗に連絡を! ドアノブが切られてて中に入れないでござる!」
《んだと?!》
「切り捨てて良いでござるか?!」
《待て! 監視カメラでは中に入っていった所は見ていない! そこで待機してろ! 中の連中にはこっちで連絡入れる!》
「頼むでござる! あぁそれと!」

何だと声を張り上げるGに、溜息を零す。

「武には、本気になれなかったでござる…」
《刀じゃ無くて肘鉄突っ込んでりゃわかる。下らねぇこと気にしてたらぶん殴んぞ!》

刀を扱う人間なら、わざわざ肘鉄を食らわせるより刀の背で入れる方がより効果的に衝撃を、更に短時間で次の攻撃へと移れる。
しかし、あの一瞬、雨月は武へ慣れない肘鉄と食らわせた。気絶させて動かなくするという手段を取らなかったのだ。

「面目ないでござる…」

もう一度、そう謝って雨月は小さく安堵した笑みを浮かべた。
昔は、手加減の方がずっと下手だった。

「老いたでござるなぁ…」

そう呟くと、うっせぇとGから怒られてしまうのだった。


○○○


「うわー。タケシぃー、ちょー愛されてるじゃないですかー」
「なっ、何か恥ずかしいのな…」

緊張感なく言い放ったフランに、山本は苦笑しながら頬を桜色に染めた。
目の前で、柔和な笑みを浮かべてやり取りしている雨月の姿。

「それよりよ。どうやって入るんだ? 雨月、切り壊していかなかったじゃねぇか、コラ」
「参りましたねー。もしかしたら、ナッポー先生御出陣? どーしましょー」
「相変わらず緊張感ねぇのな、コラ!」
「これでも困ってるんですよー。ほら、眉間に皺がー」
「全くねぇぞ、コラ」
「あれ…」

フランは自分の眉間に手をやって、ぐいぐいと皺を作る。
そして、やはり緊張感なさそうに「これで出来たでしょ」と言い放った。全くできていない皺を指摘してやれば、フランは腕を組んで困りましたねーと首を傾げた。
眉間に皺が出来ようが出来なかろうが困ったことにはならないと思う。彼もそう思ったようで、廊下の天井を仰ぎみるなり、あ、と呟いた。

「どうしたんだ? コラ?」
「学校の地図くれた先輩と連絡取れませんかー?」
「は? スカルにか?」
「地下に3人も先生方が居るのはこちらとしては分が悪いですー。出来れば気付かれずに近づきたいんですよー。ついでにー、先生達をあぶり出したいんですー」

ぶっちゃけ賭けですけどー、とフランは人差し指をたてた。

「これで、行けると思います」
「マジか、コラ!」

無表情のフランの肩を叩いて、携帯電話を引っ張り出す。痛いですー、と呟いたフランを余所に、コロネロはスカルへと連絡を入れた。


○○○


スカルの携帯電話が鳴る。
背面ディスプレイには『コロネロ』と書かれていた。先程からネット廃人さながらの姿でノートパソコンに向き合っているスカルが「代わりに取ってー」と手を動かしながら告げた。
スカルから頼まれた事については説明されたが、それまでは暇で仕方ない。
パール紫の携帯電話を開いて耳を当てる。

「スカル代理だ」
《あ、リボーン! 丁度良かったぜ、コラ! お前もこっち来てくんねぇ? 中に先生3人待機しててブレーカー落とすの大変そうなんだ、コラ》
「スカル。ブレーカー落とすのに先公3人居るそうだ」
「げー。結構、マジでやってるわけ? 先生方」
《潜入方法は見つけたんだけど、それでスカルに手配して欲しい地図があるんだ、コラ》
「何処の地図だ?」
「あん? もう、地図渡したじゃんか」

ピタッと手を止めてしまったスカルの足元に銃弾をぶち込むと、スカルは「ひぃー!」と再びパソコンに向き直り始めた。
一々スカルに報告するのが面倒臭く思えたので、スピーカーにセットする。

《『排気口』の地図が欲しいんだ、コラ》
「排気口…? ベタな手段だが、お前が思い付くような方法じゃねぇな」
《フランって奴の作戦なんだ。あいつ凄いんだぜ! マーモンと同じ幻覚使えるんだ! コラ!》

きゃっきゃとはしゃぐコロネロに、眉間に皺を寄せる。
幻覚を使う人間は揃いも揃って性質の悪い奴が多い。デイモン然り、マーモン然り。スカルを一瞥すると、何がしたいのか伝わったのか、難しい顔を浮かべる。受話器に手を当てて、会話内容は聞こえないように配慮する。

「その手のデータ、パソの中なんだよ。人間なんて『日常的に変わる』から、データとして保存してないんだ。でも、フランなんて幻術師居たかな…」
「コロネロ。そのフランって奴と―――」
《もしもーし。そのフランって奴ですー》

間延びした声から無気力系を容易に想像できる。

《ミーは、あの監視カメラを騙せるぐらい幻術レベルを上げたいだけなんですよー。それでコラ先輩に付いて行ってるんです》
「…それを、簡単に信用すると思うか?」
《どうしましょーねー。まず、第一関門の和服先生突破した事とか、その地下にナックル先生と怖い先生とケバ先生とが居る事。あと、職員室内部にナッポー先生と刺青先生が居ることは教えておきますー。場合によれば、どっちかの先生来ますよー? そうなると侵入してもブレーカーが…》
「名前言え。怖い先生と刺青先生じゃ誰か分からねぇ」
《え…―――と…》

とフランは受話器を離してコロネロに声をかける。

=先生方の名前もちゃんと覚えてないんですよ、ナックル先生とデイモンしか=
=ナックルは良いとして何でデイモン覚えてんだ。寧ろ忘れとけ、コラ=

努力しますー、と了承したフランに代わるよう促して、もしもし、とコロネロは続ける。

《怖いがセコーンド、刺青がGの事だぜ、コラ。多分、機器を傷つけないようにするために接近戦重視の先公だ》
「そうか…」
《取り敢えずー。ブレーカーに一番近い所にある排気口が知りたいんですー。応援に来て下さるならそれで助かりますけどー。ミーはそう言う人を囮に使いますー》
「随分な宣言じゃねぇか」
《正直さと有力情報提供は相手の信頼させる為の一般手段だと思ってますからー。正直に言っちゃって良いかなーみたいなー。
 それで、排気口使ったミーの作戦なんですけどー》


〇〇〇


「一応排気口のデータはチョイスしたやつあるけど…フランとか言う奴信用して良いのか?」
「イマイチ取っ付きにくいが…大丈夫だと思う。オレと同じ匂いがする」
「電話越しでかよ」

手を止めているスカルに銃口を向けると「終わったから!」とスカルが両手を上げた。
携帯をパソコンのUSBに繋げると画面にを占領している地図のデータを取り込む作業を開始した。

「フランの他に、ヤマモトタケシとか言う奴も居るそうだ」
「ヤマモトタケシ? …―――あ、山本武」
「あぁ…知ってる、みたいだな」

勿論、とスカルは楽しそうに笑う。

「雨月のお気に入り」
「雨月……のか?」
「知らねぇだろーなぁ。教師間では実力が分からない生徒として一目置かれてるんだぜ?」
「雨月お気に入りって相当だろ…―――」
「成績は普通。体育は野球やってるお陰でトップクラス。人柄の良さで人気は高い…―――後は時雨蒼燕流とかいう流派の剣術を使う。
 でも『それだけ』なんだ」

スカルは転送の終えた携帯電話を取り外すと送信にかかる。
更にノートパソコンからCD-ROMを取り出して、ケースに納めた。

「剣術持ちならオレ達が『もっと知ってても』おかしくなさそうだが…何年在住だ?」
「1年ぐらい」
「目立った行動起こしてねぇからか…」
「この学校の行事に『参加してれば』嫌でも目立っだろ?」

そうだな、と生意気な口をきいたスカルの頭を小突いて黙らせる。

「まぁ、良い。ほら、さっさと寄越せ」
「あと、これとこれも!」

インターネットサービスが使えるようになるUSBをと、ビデオカメラを渡される。

「手順間違えるなよ!」
「舐めんな。テメェじゃねぇんだから」

スカルに2発、銃弾を放ってから鞄に詰める。

「ったく、裏方作業かよ」
「超重要だっつーの!」
「わかってる」

鞄を肩に引っ掛けると、手をひらひらさせて笑う。
裏方だが現状を打開する手段だと彼が言うならば仕方ない。

「じゃ、行ってくる」
「頼みまーす!」

手を振るスカルにもう一発銃弾を放ってから部屋を後にする。

「今日は暴れられそうにねぇなぁ」

つまらなさそうだとリボーンは呟き、後でイベント用のチョコレートをつまみ食いしようと腹に決める。
色の濃さから見てビター。
甘いことに変わりはないので、エスプレッソと一緒に。



『地下への道のり』END

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あきゅろす。
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