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日常編?
地下への道のり
「あとは、ここを右に曲がってさらに突き辺りを左に曲がれば宿直室だぜ、コラ!」

デイモン殴り込み班、正式に班長(増員の為)のコロネロは宿直室までのルートが書かれた地図を頼りに宿直室へ向かっていた。スカルのぬかりない手配である。
無気力系のフランと、天然系の山本武という2学年の生徒を加えて。

「この学校、だだっ広いのは知ってましたけどー。こんな離れてるとは思いませんでしたねー」
「すげぇ、広いのなぁ」

角を右に曲がり、真っ直ぐ50メートル程続く廊下。するとT字路に辿りついた。すると、向かいの壁には宿直室と技術室の看板。ただし、技術室の文字の下には『200M』と書いてある。

「どんだけ技術室離れてんだ、コラ…」
「それほど、宿直室が大事な場所だってことですよー。コラ先輩」
「何だ、その呼び方? コラ?」
「え。『コラ』って先輩の名前ですよね?」
「ちげぇよ。コロネロだ、コラ」
「あれ…」
「あー先輩。フランの奴、人の名前覚えるの苦手なんすよ」

山本がそうやって苦笑した。

「オレも最初は『名前変な人』だったんっす。略されて『変』って呼ばれてましたから!」
「それ酷くねぇか、コラ?」
「ジャッポーネの『漢字』って言うのが良く分からなくてー、自分なりにあだ名つけないと顔と名前覚えられないんですー」
「そうか、コラ。まぁここは生徒もいっぱい居るし仕方ねぇな、コラ」
「パイナップル先生もこれぐらい寛大で居て欲しいですよね、心が」

さりげなくデイモンへ暴言を吐き捨てるフラン。
すると、宿直室方向から和服の人間が姿を現した。見覚えのある姿に、コロネロは目を細める。

「朝利、雨月…」

彼は耳に当てているイヤホンマイクから手を離すと、こちらに手を振って駆け寄ってきた。

「コロネロ、チョコレートは持ってるでござろうか?」
「チョコレート? 当たり前だろ、コラ! スカルじゃねぇんだからな! コラ!」

懐からチョコレートの箱を取り出して、のんびりとした雨月にしっかりと見せる。コロネロの貰った箱は青と水色の斜めストライプ。因みに、ヴェルデよりも低い10pt だった。適当に渡されたから仕方ないが、物凄く癪だった。

「確かに…ちょっと、中も確認しても良いでござろうか?」
「別に良いぜ、コラ。しっかりチョコレートも入ってるしな」
「ミー達は良かったですよねー。ハードクラスじゃ無くてー。渡しても落第ないしー」

そうだな、と笑う山本。
ボンゴレの普通クラスの生徒達を余所に、失礼するでござる、とチョコレートの箱を開いて中身を見る。再び、青い文字で『10pt』と書かれたチョコレートが出現した。美味しそうに艶やかな光を放ったそれを、箱から引っ張り出すと箱の裏を覗くように持ち上げた。

「もしかしてー。その箱の裏にあるチップが今回のイベントの集計に使われるんですかー?」
「ま、まぁ。その通りでござる…―――こちら雨月でござる。確認したが、やっぱり付いているでござる」

雨月はそう指摘してきたフランにそう答えると、キョトンとした表情を浮かべた。それから空中に腕を伸ばして裏を見せる。監視カメラに見せているのだろうか。それから、いそいそと箱にチョコレートをしまうと、コロネロにチョコレートを返した。

「異常ないでござる。しっかりチップも付いていたでござろう?」

連絡を取り合うと、にっこりと笑って通信を終えたようだった。それで、とこちらに向き直ると腰に手を当てた。

「ここから先はイベントの関係で立ち入り禁止でござる。戻ってくれると助かるでござる」
「悪ぃ、先生。実は宿直室の地下に用事があるんだよ」
「そうだ! 今からブレーカー落としてデイモン殴りに行くんだからな! コラ!」
「何喋っちゃってるんですかー。こう言うことは普通秘密でしょー?」
「では、やはり拙者は止めなくてはならないでござるな」

腰にささっている刀の鍔をぴんと弾くと、空気が静かに変わる。
穏やかな雰囲気から、一気に沈着。雨月の静かな戦意が立ち込めた。
このような空気には慣れている。一戦交えるとしたら、風がこの空気を放つのだ。そして苦しくも思える静寂を放つこのタイプは、コロネロが知る所では厄介なタイプである。

「簡単には行かせてくれねぇってか、おもしれぇ! コラ!」

ライフルを肩から下ろして、構える。
すると、山本が前に出て来てコロネロを手で制した。人懐っこい笑みを浮かべて、肩に担いでいた竹刀を振った。

「此処―――任してくれねぇかな、先輩」

しゃきん、とその一振りで肩に担いでいた竹刀が刀へと形を変えた。そして彼も、静かに闘志を燃やし始める。普段より遥かに大きく、きーんと耳鳴りが聞こえくる。
日本出身だと話は聞いていたが、ここまで来ると雨月に似ているような気がしてならない。それに持っている武器さえ似ている。

「その竹刀…―――刀に、なるのか…?」
「それよりコラセンパーイ。あそこの監視カメラ、ぶち抜いて下さーい」
「コロネロだ、コラ」

どんなマジックか驚いているコロネロに、フランは気にせず監視カメラへ指差した。こちらを凝視するようにレンズがきらりと光る。
ライフルをカメラに向けると、突然目の前に山本が飛び出して来て、きぃんと何かを弾いた。
金属音を響かせて、床に転がる小太刀。

「監視カメラも壊される訳にはいかないでござる」
「分かりました。サポートします」

そう言って、フランは床に転がった小太刀を拾い上げる。

「センパーイ。一回だけしか指示出しませんので覚えてて下さー。
何時でもカメラ打ち抜けるようにライフル構えて、ミーが腕を上げたら撃って下さい」
「分かったぜ、コラ!」

そうコロネロが頷くと、フランは無表情から―――『くすりと笑った』。


○○○


小さく笑うフランに目を細めながら雨月は長刀を武へと振り下ろす。来是り合っている後ろで、フランが続ける。

「タケシィー。雨月先生頼みますねー」
「りょーかい♪」

そうやって彼は雨月がコロネロのライフルの銃口に向かって放った小太刀を握った。自分の所には残り2本。
あーそれと、と気の抜けた喋り方でフランはライフルを構えているコロネロに振り返った。

「コラ先輩は、『この廊下吹き飛ばすぐらい』溜めて下さーい」
「任せろ、コラ! 得意だからな!」

そう言って一気に銃口へエネルギーを溜めて行く。このままでは、廊下どころか校舎を吹き飛ばしかねない。ジョットやGならこの状況化でも相殺まで持ちこめるだろう。
水を扱えれば出来たかもしれないが、監視カメラに水が被れば駄目になるし、武の本領も発揮されてしまう。
雨月には少々厳しい状況だ。

ならば、一気に決めた方が良い。

コロネロの戦術は悪く言えば力で押し通すタイプ。やれと言われたら遠慮なくやる。
武の額に向かって小太刀を投げつけると、地面を蹴った。咄嗟に小太刀を跳ね飛ばした彼の懐へ、入りこんだ。

「やべっ」

冷や汗を垂らした武の鳩尾へ肘鉄を叩きこむ。かは、と噎せて倒れ込む彼を横に、雨月はコロネロへと距離を詰めた。

《雨月! 幻覚だ! フランが抜けた! カメラに向かってる!》
「え…―――」

振り返ると、彼がすぐ脇を抜けてカメラに向かって駆けて行く。その手に握られた小太刀、その腕を振り上げた。

「しま―――」
「SHOT!」

雨月の頭の横を掠めるように、青き閃光が放たれた。
それは直進し、カメラを破壊して更に壁を突き破って穴を開けた。閃光が消え去って、雲の漂う青い空が覗いた。

「ミー達もですけど、『先生方も』ナイスコンビネーションですねー」

フランは無表情のまま、そう褒めた。
最初にコロネロへ指示を出した通り、小太刀を握り締めた手で『腕を上げたまま』…―――彼はこちらにゆっくりと振り返った。


○○○


「そうか…廊下を吹き飛ばすぐらい溜めろとは、フェイクでござったか…」

そうなれば、一気に決めなければならないと思い込む。そこを、突かれた。
更に小太刀を持ちあげていたばかりに『カメラに向かって投げつける』と瞬時に判断してしまった。
それによって、コロネロから注意は完全にフランへと移り、コロネロに撃たせるチャンスを与えてしまった。

しかし、雨月の話を聞いたコロネロは訝しげに首を傾げた。

「フラン、そんな事言ったか?」
「幻覚でなら言いましたー」
「幻覚…?」

すると、フランは自信に満ちた表情で親指を立てた。

「社会の授業を堂々と抜け出せるようになるのが今の夢なんですよー。それで幻覚能力上げたんですー。まだまだナッポー先生は駄目ですけど、大半の先生は騙せるようになったんですよー?」

フランのその夢が如何に小さいか、ここに居る人間達は事実を指摘することない。しかしそれは術師として如何に優れているかは雨月に証明された。
秘密にしてて下さいね、とフランから申し出を受け、雨月は頷いた。

「カメラ越しなら、幻覚に引っ掛かってると分かります。だから監視カメラからのサポートしてくれるであろう先生にも『協力して』もらいました。雨月先生に幻覚をかけていると『教えてくれるよーに』。
 まんまと引っ掛かりましたねー、デイモンセンセー。ざまーみろー」
「いや、Gがサポートしてくれたでござる」
「あれ…」

目を点とさせて、フランは目をパチクリとさせた。それから、残念そうに少し肩を落とした。
しかし、彼等は根本的な事実には気づいていない。

「監視カメラは壊されてしまったでござるが…簡単には中に入れないでござるよ」
「分かってますー。ドアに鍵、掛ってるんですねー?」
「その通りでござる。鍵は職員室の中。スペアキーも中に居るセコーンド先生しか持ってござらん」
「え…中に…―――怖い先生…」

フランはちらりと見やってから、適当に「まぁいいや」と言い放った。

「でもセンセー。重要な事忘れてますよー。鍵なんてなくても『壊して入れば』良いんですー」
「しかしそうなると、中で待機している先生にバレて交戦は必至になるでござる。それに、拙者は通すつもりはござらぬよ」
「大丈夫ですよセンセー。ミー達にとって一番厄介なのは『増援』ですー。なら、『中に入れないようにすれば』良いんですよー。
あ、そうだ。センセーもっともっと大事なモノ忘れてないですかー?」

そう言って、フランはよいしょ、とポケットから『常に装備している筈のイヤホンマイク』を取り出した。
慌てて耳に手を当てると、機器の独特な感触はない。

「コレ付けてれば、きっと先生達も『おかしい』って気づいてくれたでしょうねー。さっきから『ブツブツ独り言』喋ってるんですからー」
「ブツブツ、独り言…―――まさか…」


まだ、『幻覚の中』…―――?




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