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日常編?

雲雀恭弥は現在、暇で仕方なかった。
夏という事でワイシャツに黒いネクタイ、藍色のベストを纏っての登校となった。私服の許可されている学校で彼は珍しく以前通っていた学校の制服を着ている。

本日も、嫌々ながら群れをなしているボンゴレクラスに顔を出すと何故かあの鳳凰果実男が居なかった。
雲雀の登校目的がその男を叩き伏せることなので、居ないと言う事実は気分屋の彼の気分を大変損ねた。

しかし、チョコレートを奪い合うというバレンタインデーらしからぬバレンタインデーは彼の気に召して参加するという形をとらせた。
確かに、日本ではチョコレートを渡し合うと言う変な行事はあったが、伊太利亜に来るとこんな楽しい行事になっているとは思わなかった。

時間関係なく群れを狩れる。

雲雀はつい先程20人束になった群れを物の数秒で狩り、新しい群れを探して放浪中だった。
すると、上からぎゃあぎゃと煩い声が聞こえて来た。

「煩い…」

コロコロ変わる彼の気分はとてもデリケートで、何か有れば直ぐに堪忍袋の緒が切れる。喜怒哀楽の『怒』が誰よりもハッキリしている。
すると、ぴ、と頭の中からとげとげした何かが出て来た。

「くぴぃ。ぴぃ♪」

お目覚めのようだ。
森の中で怪我をしているところ手当てしたハリネズミ。紫色で珍しいと思いながら手当てを施して森に返したそれから数日後。人の机の上に乗っていたのである。
不思議そうに生徒達から視線を浴びて怖がっていたが、自分の声を聞くなり丸まって身を守っていたにも関わらず、こちらに向かって駆け寄ってきたのだ。
そこで性質の悪い生徒がこの子を攻撃しようとするので、二階という事実などお構いなしに窓からぶっ飛ばして落とした。

彼の怪我が大変だったとGに怒られたが、詳しくは覚えてうなかった。

心臓潰すつもりで殴ったことと、その重傷を負ったらしい生徒が生きていると知って放った言葉ぐらいしか、雲雀の記憶の中には残っていない。


『死ねばよかったのに』。


弱い奴が土に還るのは道理。

とりあえずその後、何度森に返そうとしても雲雀を追うようにハリネズミは現れ、その度にそのハリネズミに危険が及ぶので頭を貸す事にした。
(余談になるが、その度に生徒を半殺しか瀕死に追いやるので先生達が飼わないか薦めたのが始まり。餌代は学校側が持つからと言う理由で了承した)

「ぴぃ、ぴぃ?」

そんな可愛らしいハリネズミを見上げていると、小さい顔で首を傾げた。
取り敢えず、敵が寄って来る為のチョコレートは数個確保してあるが―――食べるなとは言われていない。

「食べる? チョコレート」
「くぴゅ、ぴぃ!」

人の言葉をちゃんと理解できるらしいし、迷惑でもない。
少しだけ頭が重いけれど、傍に置いておいても邪魔にはならない。

ハートの形をしたチョコレートを箱から出して、半分からぱきりと折る。食べやすいサイズに折り曲げて手の平にチョコレートを乗せると、ハリネズミは嬉しそうに頭から転げ落ちてチョコレートに噛り付いた。

チョコレートに噛り付く姿は、可愛らしかった。


〇〇〇


「警備強化の連絡でも入れとくか…」

この学校の中枢とも言える管理室に奇襲されると分かり、Gは携帯電話を取り出す。見張りに連絡を入れようとした矢先、メールが届いた。
ジョットからのメールで、『イベントはどうなっている?』と今回の行事の進行状況を心配しているのがありありと伝わってくる題名が書かれていた。


〇〇〇


すまない。
折角のイベントなのに、何も出来なくて。

ビアンキの雑炊を食べてからさっきまで寝ていたんだが、起きたら口が上手く動かないんだ。


〇〇〇


「たりめぇだ、馬鹿野郎! ビアンキの雑炊ってポイズンクッキングだろーがっ!」
「何。ジョット、ビアンキのやつ食べたの」
「馬鹿ですか。ここに居る女共はまともに料理作れないと分かっているでしょうに…」

Gは苛立ちを顕にして、他2名は呆れたように溜め息を吐いた。


〇〇〇


そっちはどんな様子だろうか。
時間がある時に様子をメールで教えてくれるとこちらとしては助かる。

では、頑張ってくれ。


--END--


〇〇〇


その文面を読み終えると、Gは小さく溜め息を吐いた。
たった今の現状では、彼に喜ばしい情報ではない。

息子を含むアルコバレーノの彼らが、チョコレートを白蘭という少年に奪われているなど。


「ん…?」


そこで、Gは首を傾げる。

彼らがチョコレートを奪われたまま、先にデイモンを殴りに来るだろうか。
Gが知っている彼らならば、まず先に白蘭からチョコレートを奪回してから来るはずだ。長年傍に居たリボーンは特に、負けず嫌いで何が何でも奪われたチョコレートを優先し、自らの力でする奴だ。
それはコロネロも同じ。
次いでに言えば2人共イベントが終わっても気にせず殴り込みに来る。

ならば、何故奪われたまま職員室にやって来た?

何があっても諦めないのが彼らだと認識しているし、それは今も変わらない。

それを、この目で見てきている。


だと、したら…―――。


「奪われて、ない…?」


同僚が2人、訝しげにこちらを見やる。

「どうかしたの」
「アラウディ。コロネロは…チョコレートを白蘭に奪われたままだよな?」
「その通りだけど…―――」

そこで、アラウディもぴくりと眉を動かした。

「おかしいね」
「そう言えば、そうですね」

アラウディはジョットの座っていた席から離れて、集計を行っているパソコンと向き直った。

「データを集計し直すよ」
「デイモン、白蘭とかいう生徒の行動を調べ直せ。録画してるだろ」
「面倒ですねぇ。良いじゃないですかアルコバレーノから落とせば。依怙贔屓ですよ、彼らだけ」
「プログラムに原因があると分かればテメェにも責任問題吹っかけるぞ」
「酷いですね、全く」
「ジョットが甘ぇんだよ」
「それは一理有りますね」

では、とやる気なさそうにデイモンは頬杖をついて、ビデオの操作にかかった。
作業に取り掛かっていたアラウディは、やっぱり、とマウスをカチカチ指で押す。

「取られたままだね」

自分の、考え過ぎだろうか。
少し肩を落として、頭を振る。Gも2人同様にイヤホンマイクを装着して、監視に当たる。

「雨月に繋げてくれ」
「はいはい」

あしらうように返事をして、デイモンは数ある赤いボタンの機器に手を伸ばす。それには教師達の名前が上に貼られてあり、そのボタンを押せば点灯する。基本はこの機器の操作をしているデイモンの所と繋がるが、その点灯した者同士と連絡が取れるという。

「雨月、聞こえるか?」
《しっかり聞こえるでござる》
「これから宿直室にアルコバレーノの特待生コロネロ、ボンゴレ2年のフランと山本武が向かっている」
《武…もでござるか?》

雨月にしては珍しく不思議そうな問い掛けに、そうだ、とGははっきり答えた。

〇〇〇


人の気配を感じてダニエラは警棒を握り締めた。生徒達もそれに気付いたように、互いに足を組ませていた腹筋運動を止めた。
流石にトランプといった娯楽をやらせる訳にはいかないと体力作りをさせることにした。
何故か秋田犬が足元にいるが、おとなしいので放っておく。

「先生…休んで良いですか……」
「休む気か? お前達は20回追加だ。頑張れ」
「わんっ」

ひぃ、と悲鳴を上げた生徒達を背に、ダニエラは向き直る。
すると、待って下さい、と森の中から…―――パイナポーヘアーの少年が袋を担いでやって来た。
覚えられないはずがない。憎き同僚と似た髪型の少年を。

「六道…」
「こんにちは、ダニエラ先生」

しかし、デイモンとは違って愛想よく笑みを浮かべてこちらを一瞥してから、後ろで腹筋をしている生徒達に目をくれる。

「腹筋集団に出くわした理由は分かったとして、何故教師である貴方が此処に停滞しているのでしょう」
「体育系が苦手と言うので保護に当たっている」
「…過保護ではありませんか?」
「それはこちらも承知している。だから私からの追加講義だ。スパルタ式のな」

警棒を振り下ろし、後ろの生徒達へと差す。

「腹筋終わったら背筋だ。200回、2セット。先程指示した通り交互にだぞ」
「ひぃいい!」

悲鳴を上げた所に腰に備え付けてある銃をぱんっと放てば、腹筋のスピードが早くなった。

「人が居るから来てみただけですが……何故彼らはチョコレートを奪われて無傷なのでしょうか」
「意志を持って第三者に譲渡している。交戦の末ではないからだ」
「そうでしたか」

しかし、彼は今森の中からやって来た。校舎とは反対方向だ。
そもそも今…―――彼らが『チョコレートを持っていない』前提で話をしなかっただろうか。
怪しさが滲む六道を睨むように目を細め、問い掛ける。

「校舎側ではなく、何故森からやって来た?」
「はめられましてね。森の中に誘(おび)きだされたんです。まぁ、お陰で沢山収穫出来ました」

六道は肩に担いでいた袋をかしゃりと振った。


「僕の糖分が」


デイモンに似て、甘党らしい。
ところで、と再び話を変えると、六道は目を細めた。

「僕の嗅覚に間違いがなければ、ベルギー産の高級チョコレートが使用された、『ショコラーヌ・ティ・ロッセニエ』のショコラが近くにあるはずなのですが、此処は何処でしょう?」

ショコラーヌ・ティ・ロッセニエはこの街で有名にして世界にも認められているチョコレート店の名前だが。

「是非とも高級チョコレートを頂きたくて最短距離から来たわけですが」

先程の疑問は解決した。
その犬並みかそれ以上を誇る嗅覚が、只今スパルタを受けている生徒達のチョコレート不所持を嗅ぎ分けたのだろう。

「ここは学園の出入口の道路だ」
「そうでしたか。ということは校舎もすぐ近くに有りそうですね」

クフフ、と嬉しそうに笑みを浮かべると、六道は迷いなく校舎に向かって道路を挟んでいる林に向かって歩みを進めて行った。

「因みに、どなたに渡したのでしょう?」
「それはイベントのルールから私達が言うわけにはいかない」
「おかしいんですよ。彼らに少しだけまとわり付いているカカオの香りが」
「は?」
「今にも霞んで消えてしまいそうです」

それは、袋に入っているチョコレートの香りが強いからではないだろうか?

「この香りでは所持時間が明らかにおかしいですね。まぁ、無い以上は関係ありませんが」

では、と六道はダニエラに会釈すると林の中へと消えていった。
髪型と味覚が似ていても、性格まで同じではないのは救いだとつくづく思った。
六道の背中を見送ってから、ダニエラが振り返ると生徒達も彼女と同じように見送っていたようだ。

「お前達。誰がサボって良いと言った?」
「あ………」

ダニエラは指を差して空いた片手を腰に当てる。

「罰として、背筋に50回ずつプラスだ」
「えーっ!!」
「文句有るのか? ならば、区切りが悪いからもう50回増やして300にするか?」
「いいえ! 頑張りますっ!」

はきはきと言い切った生徒達に、ダニエラはよく言ったと頷いた。



『並行する舞台裏』END

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あきゅろす。
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