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ケモノミチ(小平太)※


人は、私を暴君と呼ぶ。
恐ろしく、近寄りがたい、獣だとも。いやそれよりも寧ろ…化け物だとさえ。



「私、只のニンゲンなんだけど。」

カチャリカチャリと苦無を擦り合わせて遊びながら呟く。今日は月が明るくて気味の悪い夜だった。

「色街の女は俺に惚れてるのだっているしな?ああ、町娘もいたっけ。最も、前者のは金目当てなんだろうけど。何せ彼奴らは私より数段頭が良い。後者にしてみても、それはただ一時の夢さ。」

少しも思い出を懐かしむ様子なく、興味無さげに小平太は言う。

「女はつまらん。だがしかし、同時に女はたまらん。だって私も男だからな。まあ、不思議なもんだよ。」

小さく笑い、カツリと苦無を合わせる。空にはいつの間にか厚い雲がかかりかけていた。そして徐に立ち上がってくるりと向き直る。

「ほうら、こうして私を斬りにくるのもいる。いや全く、面白いねえ」

音もなく表れた数人の気配。そこにはつい先程まで共にあった気配もある。(隠しているつもりだろうが、甘い)小平太は一度くんと鼻を鳴らした。感じたのはこびりついた血の臭いと白粉の香り。

「馬鹿だなあ、それで忍と言えるのかい?」

小平太の一言を皮切りに、気配が一斉に飛び掛かる。夜空に浮かぶ月の光はとうに闇に呑まれていた。











「お前で最後。」

辺りは雲で覆われたまま、空気は先程とは比べ物にならないくらいどんよりしている。目の前に在るのは先日まで自分と話のできた女。艶やかな瞳で口が上手く、いい女だった。
だが今はその顔も土と血で汚れ、眼差しも殺気に満ちている。私は冷めた目でそれを見た。とうに見慣れていたそれに構わず言葉を続ける。

「お前達、あれだけの数だったのに随分とまあ弱かったな。」
「……」
「あまりにもつまらなかった。あれなら熊とでも遊んだ方がまだマシだろう。」

私は興味も無く言って、手にした苦無の刃を鋭く握る。女が息を呑むのがわかった、そうして口を開くのも感じた。それに気付いた私は一瞬、わざと一感覚だけ降り下ろすのを遅くする。



「…ばけもの…!」

シュ




鈍い肉を裂く音と生暖かい液体が地面に墜ちる。私はべったりとついた諸々を気だるげに思いながら、ふと空を見上げる。

厚い雲はいつの間にか消え去り、月は朧気に柔らかな光を放っていた。
私は緩く笑みを浮かべて片方の掌を空に付き出す。
今なら、あの美しい姿を奪い取る事が出来そうな気がしたから。


「嗚呼、実に美しい月夜だ。」





ケモノミ

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