愚かな道化は気付けない(雷鉢) 偽りなんか、いらない。 だって君の総てがそれで構成されているのだもの。 いらないよ、僕は、いらない 「私は君になりたいんだ君が欲しいんだ」 ひどく歪んだ瞳だね。しかしそれが君なのだね。 「そう、奇遇だね。僕は僕がいらないんだ」 「ならば!君を私にくれるのかい!」 「いいや、それは無理だ」 「どうしてさ、君は君が いらない とハッキリ言ったじゃあないの」 「言ったね、確かに。だけれどねえ。残念ながら僕は僕から逃れられないんだよ」 「どういうこと?」 「君がいくら僕になりたくて僕を欲しがってもね。ハチヤサブロウはそのまま、まるのまま、鉢屋三郎でしかないのさ。僕がフワライゾウであって不破雷蔵であるように」 「そんな!」 ああそんな息を飲んで。絶望かい?らしくもないね、本当は分かってるはずなのに君らしくもないね、しかしそんな君も酷く愉快で僕はそんな君が好きだ。 「じゃあ私はどうしたらいい?」 そんなに哀しそうな愛しい瞳で見るのは辞めろよ! そうやって、今まで、ナンニンやってきた? 僕は三郎の頬に両手をあてがって、彼の大好きな笑みを浮かべてやった。 「こうしたらいい、」 そして静かに影を近付けていけば、三郎はほんのり頬を染めながらゆっくり目を閉じていく。 (ふふ、っ) 僕はたまらず心の内で笑った。 (馬鹿な子だ、とっくに君は僕のもの) (つまり、) 偽り続ける君は、こうして真実を求めたがる。欲したがる。 だけど決して近付けない。分かってるのにわからない。 僕にこんなに近いのに、ね 愚かな道化は気付けない(僕もとっくに君のもの) [*もどる][すすむ#] |