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ウミとリク
5 アベもといナベ
「絶望的だ.....」

「なら俺にしとけば?」

「.....」

「お願い罵ってもいいから無言はやめて!」

「クソナベ、沈めるぞ」

「ひぃ!いきなり罵るレベルを超えてきた」

「...ってもう休み時間か」
周りを見ると移動教室でほとんど人がいなかった。

「気づいてないだろうとは思ってたけどね」

「あと一時間か、頑張れ俺!」

「あ、完全に無視されちゃう方向ですか?」

「は?無視以外の選択肢があるのか?」

「いや、鈴木より断然俺は優しいと思うよ」

「は?な、なんで理久!?」

「いやいや、見てれば分かりますけどね」

「ななな、何がっ?」

「田中が鈴木を好きだということが」

「ええっ!そんな一瞬で分かっちゃうの!?」

「あ、肯定しちゃうのね。ってか見てるのはここ一年と三ヶ月なんだけどね」

「はぁ?冗談はよし子さん」

「冗談は言ってないけど?」

「いやいや、ナベ笑えないから」

「笑わないで聞いてよ」

「俺は男ですけど?」

「そんなの見りゃ分かるし」

「趣味悪いよ、ナベ」

「お前もな、鈴木なんてきっとしんどいよ?俺なんて手頃だと思わない?」

「苦しいとか楽とかで人を好きになるの?」

「...痛いとこ突いちゃうねぇ。そんなんで選べたらウミを好きにはならないよな」
ナベはへにゃりと笑って頭を掻く。
こいつ渡辺 悠 (わたなべ ゆう)はモテる。クラスでもダントツに。わざわざ男の俺を選ばなくても不自由はしないはずなのだ。

なのになんで?

こんな風に寂しそう笑うんだ。冗談じゃないって顔に書いてあるんだ。

「そんなに鈴木がいいの?」

「わかんない。でも好きだって気づいちゃったから悩んでる」

「それって春頃でしょ?」

「なんで知ってんの?誰にも言ってないのに」

「だから一年と三ヶ月もウミのこと見てるって言ってるでしょ」

「...本当なんだ」
なら俺の片思いなんて笑い飛ばせるほど長いじゃないか。

「長けりゃ報われるってもんでもないけどな」

「心を読まないで!」

「はぁ?何を?」

「違うのか...なんでもないっす」

「春頃にさ、ある日学校に来たらウミがなんか違ってたんだよ」

「なにが?髪切ったとか?」

「そういうことじゃなくて。なんかさ、綺麗になったっつーか、大人っぽくなったっていうか...あ、恋してるんだって思った」

「っ、ま...まじで?男でもそんなん分かるの?」

「うん。それ見て諦めようって思ったんだ、俺は元々ゲイってわけじゃないし」

「でも諦めなかった?」

「そう。だって目でウミを追っちゃうし、ずっと見てると気付いたんだよね」

「なにに?」

「ウミの好きな人が鈴木理久だってこと」

「...そんなに分かりやすいかなぁ?」
態度にそんなに出てるか?だとしたらものすごくイタイだろう俺。

「どうだろう。普通は幼なじみってこんなもんだって思うんじゃない?俺はある日からウミの鈴木に対する態度が微妙に変わった事に気づいちゃったけどね」

「恥ずかしすぎる...」
顔が熱くて机に突っ伏した。するとナベは俺の頭を撫でた。

「それがまた恋する乙女みたいで可愛くてさぁ、諦められなくなっちゃった。しかも相手は鈴木だろ?少なくとも男が全然ダメって訳じゃなさそうだし、俺にもちょっとくらいは可能性あるんじゃないかなーみたいな?」
頭を撫でていた手が耳に延びる。髪を耳に懸けてくるからくすぐったくて視線を上げた。

「だからさ、鈴木を想うことに疲れた時でいいから、ちょっとくらいは俺の事考えてくれないかな?結構優しいし俺ってかなりの優良物件だと思うんだけど」

俺を見るナベは、甘い砂糖菓子みたいに魅力的な笑顔を零した。

こんな風にサラッと告白するなんてちょっとズルいと思う。
ムカつくけどちょっとかっこいいじゃないか。




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あきゅろす。
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