ウミとリク
1 解けない魔法
今までもこれからもずっと一緒。
家族の次くらいには近くて、命の次のくらいには大事。俺にとってお前はそれくらい大切な存在だって知ってた?
幼なじみで親友。
これって俺にとっちゃかなり特別なことなんだけど。
**********
俺があいつを好きになる事に、
特別な理由なんてなかった。
ただ魔法に掛かった。
そう、そんな感じ。
もうすぐ夏がくる。
じんわりと暑くて腕まくりをした春の夕暮れ。
頬をなでる風は少し潮の香りがした。
いつものように理久(りく)が自転車をこいで俺は理久の肩に手を置いて二人乗りをする。
いつもと同じ帰り道、同じ風景。
いつもとなんにも違わないそんな春の日、神様は俺に魔法を掛けたんだ。
オレンジの空に紫が混じる頃、
なぜか俺だけに.....解けない魔法を。
《あなたはかれをすきになる》
俺、田中 羽実(たなか うみ)は彼を好きになった。
それは前触れもなく、突然に。
その相手というのは鈴木 理久(すずき りく)。同い年のお隣さん、俗にいう幼馴染ってやつである。
凄く美形かというとそうでもなく、パーツは整ってるんだけど、無口だし俺くらいしかその事実は知らないんじゃないかと思う。
運動はできないわけでもないけれど、万能ってほどできるわけでもない。
勉強は理数系は強いけど一位をとるほどではないし、文系はからっきしだし。
熱い思いを抱いて部活に打ち込むでもなく、かといってもの凄くドライで冷たいやつなわけでもない。
じゃあどこがいいんだよって言われても困るわけだけど、なぜか堪らなく好きなのだ。
その春の日、いつも見ている背中に急にドキドキした。
いつも触れている肩なのに、触れる指が震えた。
いつもの帰り道、紫の空にうっすらと星が浮かび上がる頃、解けない魔法は俺を侵食した。
もしかしてこれが好きってことなのかも。
そう気づいてしまったら最後、いつも何をしていても理久が頭を占めた。
ただこうやって毎日一緒にたわいもない話をしながら二人乗りで家まで帰る。
理久の家に自転車を置いて、隣なのにわざわざうちの玄関に来て「じゃ、また明日」って言う。それだけでもう、堪らなく幸せ。
なのになんで、
男同士なんだろう。
よくドラマとかでもあるじゃん、幼馴染で恋人になっちゃうやつ。
でもさ、あれって美形でちょっとだらしない感じの男子を世話焼きの美少女が「まったくあんたは私がいないとダメなんだからっ!」とかなんとか言って、実は女の子にも弱いとことかがあって最終的には「お前には俺がいなきゃダメなんだよ」ぎゅ、みたいなかんじでハッピーエンド。まぁ俺の勝手なイメージだけども、こんな感じじゃない?
美少年と美少女が幼馴染だったら、そりゃ何やっても絵になるかもしれないけどね。
やっぱ、平凡な男子と逆に世話焼かれてるような俺じゃあドラマどころか笑い話にすらならない。
俺の事好き?とか、
脈あり?なし?とか、
そんなレベルの話できるわけなくて、今日もただ同じ毎日を送るだけで満足しなきゃ。
神様はどうして俺を女の子に生んでくれなかったのかな?
物凄い美少女ってわけじゃなくてもさ、とりあえず女の子なら今よりずっとマシだろ?
どうせ魔法を掛けるなら二人一緒に掛けてくれるとかさぁ。
一人で掛かった人間の立場にもなってみてよ、永遠の片思いだよ?
ったく、ほんと勘弁してよ。
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