理由
理由
「ここから落ちたら死ねるかな」
二人ぼっちの教室は窓からのオレンジ色の光で包まれている。
僕は窓辺に座り、開いた窓から下を覗き込む。
「二階からって微妙じゃないか?なに、お前は死にたいの?」
親友は眉を釣り上げ怪訝な顔を見せる。
「死にたいわけではないな。でも死んでくれって言われたから、」
「またあいつか」
「お前はゴミだ、死んでくれってさ」
ヒステリックな女の顔が浮かぶ。
「それでお前は死のうとしてるの?」
「わかんない。ただ、ここから落ちたら死ねるかなって、」
「ゴミって...本棚じゃないんだからさ。簡単に捨てられるわけないだろうに」
「本棚みたいなもんなんだろうなぁ。必要だから作ったけど、やっぱりうちには大きすぎるわ、みたいな」
あいつにとって僕は人間ではない。
男を繋ぎとめるために作られ、男を引き止めるために産み落とされたモノだ。男に捨てられた今は邪魔で仕方がないゴミになった。あいつが好きで仕方がなかった男に似ている僕は、憎いけれど捨てられないどうしようもないゴミなのだ。
「不要になったからって、ゴミ捨て場に自分で行ってくれなんていうのは虫が良すぎる」
「あいにく僕には足が生えてるからね」
「要らないなら自分で捨てに行けばいい。運べないなら自分の手で壊せばいい。自分の手も汚さずに願望だけ押し付けるなんて愚かだろう」
「殺せばいいのに、なんで自ら死ななければいけないんだろうね」
「そいつにとってゴミだとしても、わざわざ死んでやるなんて無駄な労力だ。産まれるのは選ばれなければできないけど、死は誰でもいつかは自然に訪れるじゃないか」
「確かにね」
「仮に自殺したとして、死んだお前は誰が処理するんだよ。誰からも必要とされなくなったら、それこそゴミみたいなもんじゃないか?」
「うーん、それは嫌かも」
「お前にとって死ぬことに意味はあるのか?」
「いや、あいつが喜ぶだけで僕にとっての意味はないね」
「じゃあ死に急ぐ必要はないだろう」
「どうせいつか死ぬなら、それが今日じゃなくてもいいかもね」
「これから先もし死ぬことに意味が出来たら、その時は教えてくれ」
「その時が来たらどうするの?」
「お前の死体がゴミにならないよう、俺が殺してからこの手で灰にしてやるよ」
「それじゃあお前が殺人者になっちゃうよ」
「お前がちゃんと骨だけになったら、俺は海にお前の骨を撒いてから、そこに飛び込んで死ぬよ」確実に死ねるように重しでもつけてな、と付け加える。
「お前が死ぬことに意味はあるの?」
「死ぬことには意味がないな」
「じゃあどうして罪を犯して死ぬのさ」
「お前がいない世界で生きていくのは、死ぬこと以上に意味がないから」
「お前にとって僕は何?」
「俺が今生きている理由」
「つまりお前には僕が必要なの?」
「これから先、俺が生きていく理由でもある。お前がいない世界なんてモノクロの無声映画みたいなもんだ」
「いちいち遠回しだね」
「それ位がちょうどいいんだよ」
「相変わらずだね」
「ねぇ君、今夜はきっと月が綺麗だよ」
「そうだな...お前となら死んでもいいよ」
.....ねぇ、いつか素直に好きだと言って。
fin.
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