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青空に落ちる一雫の銀色
まほろばへの鍵
あれから一週間、毎日誰かが手伝いに行っていることもあり仕事は概ね順調だ。
リコールも今すぐ実行に移されるということは恐らくないだろうと四宮が教えてくれた。

だがその場しのぎをやっているだけであって、根本的に解決したわけではない。元役員の四人をどう説得するかで頭を悩ませていた。
有安本人の意見は今まで聞き入れられなかったのだから無駄だとすると、俺達がそれぞれ呼び出していかに深刻な状況なのかという事を言って聞かせるしかないのか。
それで解決するなら簡単なのだが、そううまくいくのだろうか。

現状を打破するためにとりあえずやってみるかという事になり、それぞれ自分の後任に放課後生徒会室に集まるよう指示した。
これで来なければ話にならないのだが。

有安は各委員に書類を持って回ると言っていたので今日はおそらく生徒会室には来ないだろう。


そして放課後、一応先輩の言う事は断れないのか三人とも集まった。顔は非常に不満そうだが。

「お前ら俺達が言いたい事が分かるか?」
「「「 ....... 」」」
「俺達はな、恋愛をするなと言っている訳じゃない。ただ、自分のすべき事をして欲しいと言っているだけなんだ」
「一日中くっついてなくても転校生くんは消えたりしないでしょー」と三井。
「生徒会に入った限りは責任を持つのは当然でしょう。それなりの見返りはあるんだから」と壱川。
「俺達の後任として恥ずかしくない行動をとれと言っているんだ。仕事さえちゃんとすればプライベートに口を出す気はない」と仁志。

「「「でも、」」」」
三人はお互いを睨む。少しでも転校生の側を離れると誰かが抜け駆けすると思っているのかもしれない。
「お前らのその幼稚な独占欲のせいで有安は倒れる寸前だったんだぞ」少し語気を荒げて言う。
すると三人が黙り込む。

これでは埒が明かないと思っていた時、生徒会室の重厚なドアがバン!と荒々しく開かれた。

「増田会長、大変です!」
叫んだのは有安の親衛隊長だった。以前あいつを助けて欲しいと頭を下げてきた男だ。

「どうした」
息切らせた隊長に声を掛けた。




***********


必死で廊下を走った。

階段の踊り場には散らばった書類。

校舎の入り口に辿り着く頃には息が上がっていた。

赤いサイレンに血の気が引く。



親衛隊長が言った。
「有安様が階段から落ちました」と。

心臓がバクバクうるさくて半分きこえていなかったが、詳細はたしかこうだ。

現生徒会役員が俺達に呼び出されていると知った有安の親衛隊メンバーが、今がチャンスとばかりに転校生を呼び出した。生徒会役員に仕事をするように頼んで欲しいと説得を試みたが、泉は意味のわからない事を喚き散らした。その時隊員の一人が後ずさり、その拍子に階段を踏み外した。たまたま下の踊り場に通りかかった有安は親衛隊員を受け止めたが、自身が下敷きになったため気を失ったというのだ。


そこまで聞いて、気がつけば走り出していた。


自分の息をする事が精一杯でサイレンの音は耳に入らない。
目の前には担架で運ばれる有安の姿があった。

「有安っ!」
走って近付くと救急隊員が間に入った。
「大丈夫です。特に大きな怪我はないですから」

そう言われてその場にへたり込んでしまった。

...ほっとした。

大きめの病院に搬送するとか、精密検査がどうとか救急隊員同志で話していたが、家族でもない俺は救急車には乗れないため、もう一度有安の顔を見てから生徒会室に戻った。


あいつの真っ白な顔が焼きついていた。
外傷がなくても検査結果を聞くまでは安心できない。

医者でもない俺には何もできない。無力だと思い知らされる。

今の俺にできる事はひとつしかないと思った。目を覚ました有安が安心して帰られる場所を用意すること。

大丈夫だからゆっくり休めと言えるように。




生徒会室に戻ると隊長を含む全員が無言でソファに座っていた。俺が入ると息を飲む。

「会長...」三井が俺に不安で揺れる瞳を向ける。全員が同じ気持ちなんだろう、声には出さないが有安の安否を気遣う空気が流れる。

「気を失ってはいたが外傷はほとんどないそうだ。ただ精密検査が必要で病院に搬送された」
怪我がないことで少し空気は緩んだが、まだ安心できないという状況に皆声が出ない。

「俺は今本当に自分が無力で情けないよ。あいつに何もしてやれない。生徒会のことだってそうだ。俺にはその場しのぎの手伝いしか出来ないんだから」
全員がこちらを真剣な眼差しで見る。

「元役員の俺達は本当の意味であいつを救ってやることは出来ないんだよ。どんなに助けてやりたくても、それが出来るの仲間であるはお前達しかいないんだよ」

現在の役員達に頭を下げる。

「あいつを助けてやってくれないか。今だけは安心して休ませてやりたいんだ。あいつ一人でやるには限界がある。まだ遅くない、もう一度一緒に頑張ってやってくれないか」
頼む...と声を絞り出した。

すると壱川も仁志も三井も、立ち上がって頭を下げた。「俺たちからも頼む」と。

「僕からもお願いします。有安様が無理しているのはもう見ていられないんです」と親衛隊長は涙を流しながら言った。


一瞬の無言の後、大きな声が響いた。

「「「 申し訳ありませんでした! 」」」


「お願いですから皆さん顔を上げてください!僕達がしでかしたことなのに皆さんが謝らないで下さい!僕は取り返しのつかない事をしてしまいました。信頼を裏切るだなんて、なんてことを...」副会長は震えながら言う。
「本当に申し訳ありません。こんな事になるまで自分の事だけしか考えられなかった自分が恥ずかしいです。許してもらえるなんて思いませんが、これからもう一度頑張らせて下さい!」と書記。
「本当にごめんなさい。何が大切かなんて考えるまでもなかったのに。有安はずっと信じて待っていてくれたのに。裏切ってごめんなさい!」会計が涙を見せた。


「謝る相手が違うんじゃないか?」
三人は深々とこちらに頭を下げていた。

「そうだよ。謝るのは有安にだろう俺達はお前達に謝って欲しくて言った訳じゃないんだから」壱川は優しい顔をしていた。
この三人だってかわいい後輩なのだ。憎くて厳しくしているわけではないのだから。

「皆で有安に謝りに行こうね」三井がそう言うと「「「はい!」」」と敬礼した。

「じゃあ病院がどこかまず聞かないとな」俺も顔を見に行きたいしなぁと仁志が言う。


久しぶりに柔らかい空気で包まれた生徒会室にほっとする。



なぁ、早く戻って来いよ。
晴れた青空がきっと見られるから。



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あきゅろす。
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