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青空に落ちる一雫の銀色
悲しみの特効薬
目が覚めた時目の前にはあいつがいた。
久しぶりに見る柔らかい笑顔を浮かべて。

そこで初めて昨日あのまま寝てしまった事に気が付いた。うなされていた事など知らない本人は手を握られていて驚いただろう。
でもその手はまだ繋がっていた。


「おはようございます」
「おはよ」
「お陰様でよく眠れました」
「良かった。でも俺の方が寝落ちしてしまったな」面目ないと笑うとあいつもつられて笑った。

その顔が見たかったんだ。やっぱり好きだなと思う。


「何朝からラブラブしてるのー」
三井がドアの隙間から覗いていたようだ。
「ラブラブって古くない?」
壱川が突っ込む。じゃあこの状況を今は何て言うんだよ、と反論する三井。
分かりにくいが有安が気を使わないようにあえて明るく振舞っているのだろう。


「壱川先輩、仁志先輩ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。本当にありがとうございました」

「いいのいいの!僕たちがやりたくてやったんだから。それに最終確認してからじゃないと三井がまともに出来てるか心配だし」
「失礼な。まだ現役を退いて半年だぞ。腕は鈍っちゃいないよ。ちょうどいい腕試しになったよ」

二人のやり取りにほっとした顔をする。

そうそう。朝ごはんを作らなくてはと立ち上がろうとする。つんと引っ張られて手がまだ有安に握られていたことに気付いた。思わず二人で固まる。

パッとどちらかともなく離すと「ご飯作ってくるね」「うん」とまるで夫婦の様な会話をしてしまい余計に恥ずかしくなった。

「「なんか新婚さんみたい」」というハモりが聞こえたが無視した。

手を繋いだだけでドキドキするとか中坊かよ、と自分につっこみながら有安にはお粥、残り三人はチーズトーストとヨーグルトという朝食を作った。チーズとパンとヨーグルトは給湯室のドアノブに引っ掛けてあった。恐らく仁志の優しさである。

「おいしい」
なんの変哲もない梅干しのお粥だが、胃が空っぽの有安にはちょうどいいらしかった。

「これからもたまには手伝ってもいいかな?」と三井。
「でも...」
「今風紀が生徒会をリコールする話が出てるみたいなんだ。お前は他のメンバーが帰ってくるのを一人で待ってるんだろ?俺達だっていつもは無理だろうが時間稼ぎ位にはなるだろう。」
「そうだよ。有安が倒れてしまったら待つことさえ出来なくなるんだよ?」
俺と壱川が言うと唇をきつく噛んだ。

泣き顔を見られたくないのだろうと思い、抱き寄せた。

「...っ。うぅ....」
「一人で背負わなくていいから。たまには先輩達に甘えろ」
「うぇ...っ」

壱川も三井も後ろから抱きしめた。
よく頑張ったね。これからは一緒に頑張ろうね、と。


授業に行くと二人が出ていった後、有安は胸から離れた。目がウサギみたいだ。

「会長...」
「うん?」
「もうちょっとだけこうしててもいいですか?」
「今日は出血大サービスだ。一日胸を貸してやろう」
「いや、今だけでいいっす」
「遠慮すんなよ」
「してないっす」

こういう空気は久しぶりだ。やっぱりいいな。

「たまには屋上にも来いよな」
「そうですね。ご飯も食べなきゃ会長に怒られますしね」
「これ以上痩せられると抱き心地が悪くなるからなぁ」
「じゃあもっと痩せてやる」
「可愛くねぇなぁ」

このやろ、と力を入れてまた抱きしめた。

「うそ。めっちゃ、可愛くてどうしたらいいかわかんない」
「やっぱ目が腐ってますね」

いつかと同じ会話にどちらともなく笑う。



なぁ、もうちょっとで青空が見えるかな?今度は一緒に頑張ろう。


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