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青空に落ちる一雫の銀色
意地っ張り時々こんぺいとう
コンコン、と生徒会室の扉をノックする。
返事はない。

ノブを回すと鍵は掛かっていなかった。

「おい、生きてるか?」冗談交じりに言うと中に足を踏み入れる。

机の上には高々と積み上がった書類の山。そこに座っているだろうあいつの姿は遠目からでは見えない。

近づいてみると会長の席でうつ伏せになっていた。

「有安!」
焦って肩を揺さぶると、「う...ん...?」と寝ぼけた声が聞こえた。
眠っていたのかとほっとしたが、疲れているのに起こしてしまったことを後悔した。

「...会長?」
覚醒した有安が不思議そうに言った。

「お前顔色悪いぞ。大丈夫なのか?」
「ん、ちょっと寝てただけっすから」
「ちょっとって...こんな真っ昼間から寝落ちするほど疲れがたまってるんだろ?」
「はは、寝てたら仕事が終わらないから。って言いながら昼寝してちゃ意味ないですね」と笑う。


そうじゃない。
気を使ってほしいわけじゃない。
見たいのはそんな作り笑いじゃないんだよ。

もっと甘えてほしいのに。そう言っても甘えてはくれないのも分かっているから何も言えない。それが歯がゆい。


「メシは食ってんのか?」
「うーん。昨日の晩は確かスープ飲んだ様な...」
「それはメシじゃないから」

はぁ、とため息が出た。後でお粥でも作ってやろう。確か給湯室にチンするタイプのご飯を常備していたはずだ。


「ところで、なんで相談してこないんだ。辛い時は辛いと言ってほしいと言っただろう」

「会長に助けを求めるのはさ、ズルいじゃんなんか。だからもうちょっと頑張ってみようかなって思って」

「こんなに無理して、ズルいもなにもないだろう。見てる方が辛い」

「あと少しで体育祭の企画が終わるんで、そしたらちょっと休もうかと」

「バカか。体育祭なんて四人で分担したって一ヶ月じゃ終わらないだろうが」

「俺要領が悪いから会計の担当の所がどうにも時間かかっちゃって」

「会計の仕事は会計がするんだよバカ」

「バカバカ言わないで下さいよ。それ言うのは俺の担当なのに」

「お前の馬鹿さには呆れたよ。もう自分から助けを求めるのを待つのはやめる。今そう決めた」

「え?」

「お前は放っておくとぶっ倒れるまでやろうとするのが分かった。とりあえず今から三井を呼ぶから」

「いやいや、先輩に迷惑はかけれません!」

「いいんだ。三井だって、壱川も仁志もみんなお前が心配なんだよ」

「でも、」

「だからもう決めたって言っただろう。とりあえず今日は寝てろ」

「そんな無責任なことできません」

「...じゃあ仮眠室で寝てろ。最終確認はお前がしろ」


**********


「遅くなってごめん」
放課後になってすぐ三井が駆けつけた。授業が終わってすぐに走ってきてくれたこいつはチャラチャラした見た目とは違ってかなり責任感が強い。

「いや、こっちこそ急に呼び出してすまん」
「全然構わないよ。やっと手助けできてうれしいよ」
さてやりますか、と腕まくりする。

「あ、そうそう。壱川と仁志も後から来るって言ってたよ」
「それは助かる」
みんな有安が可愛いのだ。少しでも助けなりたいと思う気持ちは同じだ。

「有安は寝てるの?」
「ああ。今日は休むように言ったが三井に迷惑は掛けられないと言うから最終確認は本人にしてもらうことにして、とりあえず仮眠室で寝かせた」
「気を使っちゃって。まぁこの量なら今日中には終わらせられると思う。ほとんどあいつでやり終えてるみたいだから」
「じゃあよろしく頼む。おれは他に残ってる分から片付けるよ」

それから一時間後に二人が加わり黙々と作業した。



「よっしゃ」
一番量の多かった三井が最後の確認を終える頃には夜の12時をまわっていた。

久しぶりにする仕事で思ったより疲れたのだろう、壱川と三井はソファベッドとリクライニングチェアでうとうとしていた。

あいつには明日確認をさせようと言うことにになり、朝練があるといって仁志だけはなんとか部屋に戻ったが、二人はそのまま眠ってしまった。

俺はソファを占領されてしまったので部屋に帰るか悩んでいたが、明日の朝食を三人に作ってやろうと思い給湯室に向かった。その時通りかかった仮眠室から苦しそうな声が聞こえてきた。


そっと覗くと、目は閉じたまま眉間に皺を寄せて額に汗をかいた有安の姿があった。
近づいて頬に右手を伸ばすとギュッと握られる。少し震えているのは怖い夢でも見ているからなのか。
俺の右手を握りしめる有安の左手は今にも折れそうなほど細くなっていた。

目の前から消えて無くなってしまいそうだと思えるほどに。

ベッド横のパイプ椅子に腰を下ろし、有安の手を解く。離された手は不安そうで、今度は俺の両手で握りしめる。
すると落ち着いたのか静かな寝息に変わる。


いつの間にこんなに痩せてしまったのか。どうしてもっと早く気付いてやれなかったのかと、しても仕方のない後悔が襲う。



青い空が見られるのはいつなんだろうか。









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あきゅろす。
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