[携帯モード] [URL送信]

青空に落ちる一雫の銀色
so good
見るたびに痩せているあいつ。

原因は明らかだ。

生徒会役員の職務放棄である。学年が違う俺の耳にさえ噂は入ってくる。

時期外れの転校生、それに夢中の生徒会役員の面々。そして職務放棄。

ただ、間違った情報がひとつ一人歩きしている。
職務放棄しているのは会長を除く生徒会役員であり、あいつは一人で全員の分の仕事をしているのだ。

でもそれには誰も気付いていない。いやそれとも見て見ぬフリをしているのか。


屋上での息抜きさえする暇がない程に仕事を抱えているのであろうあいつは、俺に結局何も言ってはこない。

言われない限りは出来るだけでしゃばりたくらない。これはあいつと生徒会役員の問題なのだから。



あいつが屋上に来なくなって気づいた事がある。


当たり前に一緒にいられた時間が、とても貴重な時間だったこと。

あいつに笑って欲しくてついバカなことばかりしていたこと。

一人だとサンドイッチが全然おいしくないこと。

昼休みが楽しみで天気をすごく気にしていたこと。

あいつが自分の中ですごく大きな存在になっていたこと。


好きなんだってこと。



側にいなくなって始めて気付いたんだ。
本当に鈍いな俺。


笑ってほしくて、笑ってくれたら胸がぎゅっとなって。
一緒にいるだけで食事もおいしいと感じた。
雨の日は会えないからイライラしていた事に気づいた。
二人で過ごすたった1時間が他の23時間より重いだなんて。


これって恋だろう。


今時小学生だって理解してるよな。
なんとなく軽くキスだなんて今はもうできないかもしれない。




一人で屋上は寂しいから食堂で昼食をとることにした。
人混みは嫌いだけれど一人でいるよりいい。
去年の生徒会のやつらと久々に一緒になった。副会長、会計、書記。こいつらとは未だに仲がいい。去年のメンバーはみんないい奴で仕事も出来た。

「ねぇ、噂は聞いた?」
元副会長の壱川が聞いた。

「職務放棄ってやつか」
と元書記の仁志。

「有安が放棄はあり得ないって。絶対他のやつらだろ」
と元会計の三井が言った。

どう思う?と三人が視線をよこす。ちなみに有安とは現会長である。

「有安はどうも全員の分の仕事を一人でやってるみたいだ。直接は聞いてないんだが、あいつの親衛隊長が泣きついてきた。助けてやってほしいと」

「やっぱりね」

「助けてやりたいがどうしたらいいのか」

「あの転校生をどうにかしないとねぇ」

「有安本人にも限界を感じたら言うように言ったんだが、未だに俺には言って来ないからどうしようもなくてな」

うーん。と四人で頭を抱えた。
去年の生徒会で有安は補佐をしていた。仕事も出来るし口はぶっきらぼうなところがあるが性格も良く、俺たちは揃って可愛がっていた。


そこに耳が痛いくらい大きな声が聞こえた。


「あー!お前らなにしてんだ?みんな格好いいな!名前は何て言うんだ?俺は泉 友也っていうんだ!友也って呼べよな!」

異常なほどに!が多く、聞くに耐えない大声である。話している本人は女の子の様な可愛らしい容姿ではあるが、うるさ過ぎてそこはどうでもよかった。

「おいお前!俺が名乗ったんだから名前教えろよ!」

壱川が絡まれる。

「え、なんで。聞いてもないのに」
ごもっともである。

すると後ろから声がした。

「友也、こちらは前生徒会役員の方々ですから失礼な態度はちょっと...」

現副会長であるが、もう少しきちんと注意して欲しい所だ。

「生徒会役員だからってなんだよ!そんな風に挨拶もちゃんとできないと友達だってできないんだぞ!」

「お前の様な友達ならいない方が鼓膜に優しくていい」

仁志がそう言うと泉何がしは顔を真っ赤にする。

「こんなやつらが選んだやつだから有安は仕事もサボって会長のくせにろくでもない人間なんだな!」


ぷちっ...

今の言葉で四人とも堪忍袋の尾が切れた。

俺はあまりの腹立たしさに立ち上がった。


「あ、お前めちゃくちゃ格好いいな!友達になってやってもいいぞ!」

「友也、増田元会長にそれはまずいよぉ。」焦る現会計。


「有安に対する言葉を撤回しろ。でなければ会長以外の役員を職務怠慢だとしてリコールするぞ」

あいつは望まないかもしれないが、もう我慢ができなかった。


「なっ、なんでそんなこと言うんだ!みんなちゃんと仕事をしてるのに!サボってるのは有安だろ!」


「どういう見方をすればそうなるんだ」
ため息しか出ない。

「僕たちはこのまま生徒会が機能しないのであれば前役員の権限を使って容赦はしないよ」と三井が冷えた視線で転校生を睨む。


長身の四人に睨まれると流石に怯む転校生。


「お前達」
今の副会長、会計、書記、に向き直る。

「俺たちはお前達を信頼しているからこそ今まで仕事に関しては口を出さなかった。でもこれ以上こんな状況が続くのであれば本当にリコールすることも考えているからな」

「増田...」もう行こう、と壱川が腕を引いた。



食堂を後にするとそれぞれの教室に戻った。
しかし席にに着くとすぐ後ろから肩を叩かれた。


振り返ると見慣れた顔がそこにいた。
元風紀委員長の四宮である。

「よぅ。少し話したいんだがいいか?」

「おぅ」

人目につかないように選んだのは屋上だった。俺はここ以外誰にも見つからない場所を知らない。


「後輩達が生徒会役をリコールしようとしてるらしい」

四宮が後輩達と呼ぶのは言わずもがな現在の風紀委員のやつらだろう。

「まぁそれは当然だな。風紀がしないなら俺達がやるまでだ」

「そうなんだがな。問題は風紀を含める他の生徒たちはリコール対象を生徒会役員全員だと考えていることなんだ」

「は?有安は関係ないだろう」

「いや、あいつに関しては仕事をしているとかしていないとかいう問題ではなくて、生徒会を率いる能力を問われている」
もちろん同情する気持ちはあるが、と付け加えた。

「納得できない。風紀に話をつけにいく」

「しかし有安本人の意向はどうなんだ。リコール対象から自分だけが外れるのは本意か?それとも状況が改善されたとして、このまま今のメンバーでやっていくつもりなのか?」

どちらにしろどこからか不満の声は上がるだろう。一人で残ってそれを甘んじて受けなければならないのだろうか。

確かに最近の有安に対する他の役員の態度は良いものではない。

「一度本人と話してみてはどうだ」
四宮が言う。こいつも有安のリコールは納得がいかないのだろう。しかし風紀委員の決定を覆すほどの権限は今の四宮にはない。


「そうだな。様子を見に行ってみる」


また何かあれば報告するよ、と四宮は教室に戻って行った。昔から仲の良かった四宮が風紀委員長になり、生徒会との関係も良かった。

今生徒会と風紀もつい数ヶ月前まではお互い支え合っていたはずだ。一人の人間によってこんなにも簡単に崩れてしまうものなのか。
人間関係なんてそんなに脆いものなのだろうか。


考えても無駄か、とあいつに会うために足を早めた。





















[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!