青空に落ちる一雫の銀色
屋上と君と
忘れられない人がいる。
静かで、努力家で、凛とした人。
たまに見せる笑顔に胸がギュッとなった。
好きだと伝えられていたら、なにか違っていたんだろうか。
Every cloud has a silver lining.
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あいつと会うのはいつも屋上だった。
昼休み、晴れた日は決まって現れた。
約束した事はないけれど、暗黙の了解になっていた。
フェンスにもたれて俺はいつも同じミックスサンドを、あいつは毎日違う菓子パンを食べる。
食べ終わると貯水タンクの影で昼寝をする。
決まって俺が昼寝用のブランケットを二人分用意した。
無言で過ごしたり、たわいもない事を話したり。
そしてたまにキスをした。
「俺なんかにキスしたって何にも得ないっすよ」
「損得の問題なわけ?」
「少なくともこの学園じゃ重要な問題じゃないすかね」
「しょうもねぇな。そして色気もねぇな」
「俺に色気求めんなよバ会長」
「元バ会長だよ」
「バカの方はいいのか」
「バカって言う方がバカなんだって昔の偉い人は言っていたんだよ、現バ会長」
「そりゃあ偉大な人がいたもんですね」
「なぁ、」
「なんすか」
ちゅ、と不意打ちで唇を重ねる。
「元バ会長のばーか」
そう言って笑う。
「いつもそうやって笑ってりゃ可愛いのになぁ」
「眼球が腐ってんじゃないですかね。」
「腐ってないよ視力1.5だもん」
「だもん、とか別に可愛くねぇから」
「お前は本当に可愛いよ。だからさ、あんま無理すんな。笑っててほしいんだよ」
「はいはい。適度に頑張りますよ」
「辛かったら言えよ」
「助けてくれるわけ?」
「当たり前だろ。何のための元会長だと思ってるんだ」
「別に俺を助けるための元会長ってわけでもないと思うんだけど」
「限界って思う前に言えよ。絶対だぞ」
ぎゅっと抱きしめると、遠慮がちに背中に手を回してきたがすぐに離れる。
「ありがと、もうちょっと頑張ってみるから」
「うん」
「ねぇ会長。Every cloud has a silver lining.って諺知ってます?」
「なんだ急に」
「どんなに暗い雲も裏側は太陽の光で銀色に輝いてるんだって。辛い事も幸せになるように希望を持って努力すれば報われるって事の例えらしいっす。俺にぴったりじゃない?」
「へぇ。早く晴れてきれいな空が見られたらいいのにな」
「今は努力の時なんだって。もうちょっと頑張らないとね」
もうちょっとってどれくらい?
どれだけ頑張れば青空に輝けるんだろう。
あいつはその日以来屋上に来なくなった。
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