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sweet temptation like a box of chocolate<甘い誘惑>
2
かなりの美人だ。しかもどこかで見たことがあるような気もする。うーん、誰だっけ?

「エリ、急にどうしたんだ?」

「ほんと急でごめんね。ちょっと会いにきただけ」
女性はふふっと笑う。尊さんは少し考えて火を一旦止めた。

「事務所の方で待っててくれるか?すぐに行くから」
「わかった、待ってるね」
俺にもバイバイと軽く手を振ると事務所の方へ行ってしまった。

「...あの、俺一人でやってますから行ってください」

「だめだ。怪我されちゃ困るし、今日はここで終わりにしよう」

そうは言っても全部中途半端だしな。どうするかな、と頭を悩ませていると尊さんが言った。

「ルバーブは俺が仕上げて置くから、明日は出来た物を使って川口とやれば大丈夫だろ?生地はそのまま使えるし、苺もまだ大丈夫だし」

「いや、でも尊さんが遅くなってしまうし、そこまで迷惑はかけられません」
さすがに今からさっきの人と用事があるんだろうし、それが終ってから煮込んでいたら夜中になってしまう。

「そんな気を使わなくてもいいから、今日は帰りなさい」

「せめてルバーブだけでも仕上げていったらだめですか?」

「...仕方が無いな。あと1時間だけ煮詰めて終わりにしろよ?片付けはだいたいでいいから」
俺が折れないと諦めたのか、これだけは仕上げて帰れることにホッとした。後の事は明日考えよう。


「でも終ったらこっちに声掛けてから帰れよ?」

「分かってますよ。早く行ってください、待ってますよ」
背中を押すと困った顔をされた。

「怪我すんなよ。ちゃんと終ったら声かけろよ」

「同じこと二回言わなくても大丈夫ですって!後から事務所に顔出しますから、それまでイチャついといて下さいって」
ふざけてそう言うと押していた背中が動かなくなった。

変だな、と上を見上げると目が合った。
少し下がった眉がひどく悲しそうな顔をしているように見える。


「そんなんじゃないから」


静かな空間に低い声が響く。
小さくため息をついた尊さんは俺の頭をポンポンと軽く叩く。
しばらくそうしていたかと思うと、背中を向けて行ってしまった。



「...なんだよ。なんか取り残されたみたいで寂しくなるだろ、ばか」

事務所に続く扉は防音なので聞こえてるはずはないけど、思わず口を吐いた言葉に恥ずかしくなって両手で口を塞いだ。

「なに一人でやってんだ俺...」

もう、わけわかんない。何あの顔、どういうこと?お前には彼女のことに触れられたくもないよ的な感じ?それとも彼女じゃないってことか?何がなんだかよく分からん。

「あーもう!取り敢えず煮込む!」

鍋と睨めっこし始めたものの、他にやる事もないのでたまに灰汁を取って、くるくる混ぜて、合間に洗い物をしたりした。

こういう単純作業って無駄に色々考えてしまうからあんまり好きじゃない。俺は工場とかで働けないタイプかな、なんて思った。


時計を見ると10時45分を指していた。
今日はとことん遅くまで頑張ると母さんに言ったら、睡眠時間が短くても結構大丈夫なのは若い証拠だから精一杯緒方様に尽くせと言われた。
居残りは自分のためで、尊さんに付き合って貰ったなんて言ったら殺されそうだ。



それにしても、たった1時間だけど一人だとやたらと長く感じる。


なんだかさっきの顔が頭から離れない。
困らせたくて言った訳じゃないのに、あんな顔は反則だ。
こういうのよく分からないし、自分じゃないみたいでなんかモヤモヤする。


そういえばさっきの女の人いい匂いだったな、なんか香水とか付けてるのかな。
やっぱり尊さんもあんな風にフワフワした感じでいい匂いのする女の人がいいのかな。さっきの人は結構背が高くて165センチくらいはありそうだったから、二人が並ぶとバランスがいいだろうな。


.....扉を隔てた向こう側で今、何してるんだろう。


「くそー!もう考えるのやめなさい、俺!」
自分に言い聞かせて強めに鍋をかき混ぜるとルバーブを潰しそうになった。

「おぅ、俺のバカ!ジャムになっちゃうだろ。落ち着け俺!」

煮込むことすら満足にできないとかアホ過ぎる。本当に雑念を捨てろ自分。


一時間後、なんとか仕上がったことに安心した。すでに時間は11時を回っていた。

ボウルに移して鍋を洗い、ルバーブは粗熱を取ってから奥の大型冷蔵庫の隅っこに置かせてもらった。

終ったことを伝えるべく事務所の扉の前に立った。
.....なにこの緊張感。

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あきゅろす。
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