sweet temptation like a box of chocolate<甘い誘惑>
4
「翔、コンテスト何か出すのか?」
「うーん、悩み中。水無瀬は?」
「一応夏には出したいやつがあるんだけど、今の所はないかな」
「そっかー、俺は夏までに一つは出しておきたいんだよなぁ。」
「お前夏の面接までになんか実績欲しいって言ってたもんな。田中ちゃんが、六月に締め切りのコンテストあるって言ってたけど...」
お菓子やパンのコンテストは、小さい物を合わせると結構年中あるものだ。
ホテルの試験の前に、何かしらの大会に応募しておきたいとは思っているもののイマイチ決めかねている。
「田中ちゃんに近々あるものもう一回聞いておいた方がいいかもな」
「だな。んで、バイトはどうよ?」
「うーん、みんないい人っぽいよ」
「製造?」
「いや販売から始めて、慣れたら製造もさせてもらえるって言ってた」
「販売も商品多くて大変だな。お客も週末なんか凄いだろうな」
「しかも見た限り販売は女の人ばっかで怖そうだわ」
「うわー、なんかドロドロしてそうだな」
「ドロドロしてるかどうかはまだ分からないけど、俺の教育係の人は怒らせたらヤバそう。絶対恐いよ」
「まじ?お前バイト初めてなんだから要領わかんないだろ。とにかくやる気と元気は無くすなよ!」
水無瀬はバイトの鬼だから、何かと要領も手際もいい。やはり慣れている者からすれば何もできない新人に求めるものといえば気持ちだけなんだな。
三輪さんを怒らせる事だけは避けたい。がんばれ俺。
結局バイトのアドバイスといえば「やる気と元気」とにかくこれだけと教えられた。あんまり参考にならないよ水無瀬...。
昼休み、コンテストの募集要項などが張り出されている職員室の前の掲示板を取り敢えず見に来てみた。
近々行われる物からかなり先の物まで。その中で、学生の技能コンテストが目に留まる。
『課題 : 四季のアントルメ』どうやら、どの季節でもいいから季節をイメージした一つのケーキを作るとうものらしい。
出場者は専門学校に通う学生のみ、締め切りは6月15日、結果は6月末に出るらしい。
今日が5月10日だから締め切りまで約一ヶ月か。ギリギリだけど出せない事はないかもしれない。
「お、吉岡なんかコンテストに出すのか?感心だな」
後ろから声がして反射的に振り返る。声の主は田中ちゃんだった。
「びっくりさせないで下さいよ」
「はは、そんなつもりはなかったんだけどな」
「そうそう、この『四季のアントルメ』ってやつなんですけどまだ間に合いますかね?」
「ああこれか。まだ一ヶ月あるし、死ぬ気でがんばればいけるんじゃないか?」
「え、死ぬ気じゃないと無理っすか?」
バイトの合間とかじゃダメな感じ?
「冗談だよ。でも結構毎年本格的なのが入賞してるから、最終選考に残りたいならかなりいい物作らないと厳しいのは本当だよ」
「そっか...俺には厳しいかもなぁ」
「吉岡はさ、いつも自己評価が少し低いと思うよ。就職も自分には無理そうだって言うけど、俺はお前にはセンスがあると思うし、もう少し自信を持って努力をすればいい線いくと思うぞ」
ニカっと笑うと年齢より若く見える田中ちゃんだが、意外と先生に向いてるのかもしれない。今すごく励まされちゃったしね。
「頑張ってみようかな...」
「きっと良い経験になるぞ。何かに向かって頑張る事は、結果よりもその道筋に意味があると思うしな。頑張れたことできっと自信もつくさ」
そう言って俺の前に紙をチラつかせた。もの凄く準備がいい田中ちゃんは募集要項の用紙をくれた。
「今年はうちの学校応募者があんまり集まってなくてな、学年主任に集めろーってうるさく言われてるんだよね。学校としても実績欲しいんだよねぇ」
...前言撤回。今目の前でニヤニヤと笑ってる田中ちゃんは先生より詐欺師に向いていると思う。まんまとやられた感じが否めない。
「でもな、さっき言ったことは本気だから。お前はやればできるって思ってるからな」
「うぅ、はい。頑張るっす」
「じゃ、次の俺の授業に遅れるなよ。俺を追い抜かして行かないと遅刻だと思うぞ」
「鬼ー!」
その後久しぶりに息を切らせて走ったことは想像に難くないだろう。
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