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sweet temptation like a box of chocolate<甘い誘惑>
3
「でかした!」
「あっぱれじゃあ!」
「何、兄貴これってすげーの?」

上から母さん、ばあちゃん、弟である。
ちなみにこれはテーブルの上に広げられた、アルバイトの契約書を見た家族の反応だ。


「いやー、神様仏様緒方様の下で働けるだなんて、たっかい専門学校に入れた甲斐があったってもんよ!」


...専門学校のお金ケチったくせに。それでも十分高いし、母さんが恐くて言えないけど。

ばあちゃんまであっぱれって...本当の神だと思ってないよね?

「ばあちゃん、そんなにあそこのケーキ好きだったの?」
一応確認してみる。

「ケーキもおいしいけど、ばあちゃん最近いけめんに弱いんよ」
頬を染める70歳、年を取ると童心に返るのかキヌ子...。

「ばあちゃん、イケメンて意味分かってんの?」
弟の爽がビックリしたのかさらに確認している。

「わかってるに決まってるやろう、ナウでヤングなイケイケの美男子のことよ」

「兄貴、今の分かった?おれ美男子しか意味わかんなかったんだけど」

「ほっておこう。つまりばあちゃんも結局は男前が好きな女だということだ」
今日はこんな女子しか見てない気がする。

「そりゃおばあちゃんも緒方様を見てときめかない訳ないじゃない!ねえおばあちゃん、こないだ買ったお菓子の本もカッコ良かったもんねぇ」

「裕子さん、ありゃまたイケイケやったねぇ」

年齢層の高めの女子の会話もたいして変わらないものである。

「兄貴なんで急にバイト始める気になったの?こないだまで授業がハードでバイトなんて無理って言ってたよな?」

「いや全然バイトしようなんて気はなかったんだけどさ、昨日学校の授業に緒方さんが先生として来たわけよ。そしたら何故か就職に有利だからバイトに来たらって誘われたんだよね」
火傷させてしまった事はうちの女子が恐いので伏せておく。

「兄貴だけが?なんかわかんないけどラッキーだね」

「そうみたい。ハードそうだし、俺が死んだら骨は拾ってくれ弟よ」

「任しとけ、拾って粉にして薄力粉に混ぜて兄貴の好きなケーキを焼いてやるから」

「断る」

「あんたらいつもながら馬鹿ね。緒方様のためなんだから骨だけになっても働きなさいよ。たまには役立てよ穀潰しが」

「「恐ろしい...」」

「あと翔、バイトするのはいいけど、課題とかちゃんとやるのよ。水無瀬くんを頼ろうなんてことしたら殺すからね」

ひぃ!エスパーなのか?裕子に心を読まれている。

「は、はい...そういえば裕子様、」

「なによ、思いっきり図星の顔して」

バ、バレテイル。

「今日は緒方さんから母さんにと、お土産をいただいて来ました!」
とりあえず話を逸らすべく、喜ぶであろう話にすり替えた。
そして素早く土下座のごとく床に額を擦り付けた状態で差し出す。

「どうぞお納めくだせぇ」

「うむ、苦しゅうない」

あんた誰や。

「...あら可愛らしい」
リボンをほどく46歳の裕子はまるで少女のようである。...嘘、鬼か般若だ。


「まぁ!さすが緒方様。息子達ですら忘れてそうなのに」

なんかわからんがまた緒方株が上がっている。裕子の手に握られたメッセージカードに目をやるが内容は見えない。

「なんて書いてあるの?」

「ふふふふふ。ごほん、《翔くんのお母様へ、少し早いですが母の日のプレゼントです。これから息子さんにお世話になりますが、しっかりこちらで面倒を見ますのでご心配されませんよう。毎日頑張り屋さんのお母様、甘いものでゆっくり心を癒してください。緒方尊》ですって!しかもサインまで!おばあちゃん見て見て」

「神棚においとかんとね!ありがたやありがたや」
ばあちゃん、拝まんでも。

てか尊さん、あと三日で賞味期限だとか言ってたけど、三日で母の日だからそれ以降は店に出せないって意味だったんだな。てか今が売り時だし余りでもなんでもないし。

今度お礼言っとこう。
...しかし尊さんの女心を掴むテクは尊敬に値するな。お陰でスムーズに同意書の印鑑も貰えたし、緒方様の為に死ぬ気で働けと言われたけどね...。

母さんとばあちゃんは大切そうに貰った焼き菓子を食べたみたいだ。不思議と本当に美味しい物って、少しずつ大事に食べたくなるもんだよなぁ。安い煎餅とは扱いが違う。

まるで緒方様と俺の扱いの差の様だ...。




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