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月明りで照らして
2
長かった始業式が終わると生徒たちは皆バラバラと出口に向かっていく。
それに流されて俺も足を進めていく。


.....いや、正しくは進めていく予定だった、だ。


この右腕を拘束する彼の腕がなければ。



「雄大、足が速いね。」

「ちょっと顔を貸してもらえるかな」

「なんだか丁寧なヤンキーみたいだね」

「黙って付いて来て」

そう言うとそそくさと人の流れに逆らって舞台裏の控え室らしい部屋に連れて行かれた。



「どうして連絡を無視したのかと、一体三ヶ月間何をしていたのかを簡潔に説明してくれるかな」

「えーと、それは中々難しいですね」

「...じゃあいいよ」

「え、まじで?それは助かる...」

「そんな訳ないでしょ」

ため息を吐くと今度はグッ、と引き寄せられた。


「...心配した」


「...ごめん」

久しぶりに雄大のムスクの香りに包まれると、胸がぎゅっと締め付けられた。


「心配かけてごめんね」

そう言うと抱きしめる腕にさらに力が込められた。


「電話は繋がらないし、父さんにいくら聞いてもあの人『俺とつむぎだけのひ、み、つ』とかめちゃくちゃムカつく顔で言うだけだし本当に腹立つし」

「はは、」

父さんと雄大は見た目も性格もそっくりだ。だからこそお互い同族嫌悪なのか優位に立とうとする。何故か俺のことでは特に。

自慢気な父さんの姿を思い浮かべると思わず笑ってしまう。


「つむぎはのん気だな。俺は三ヶ月間ずっと不安で仕方なかったのに。また体調崩したんじゃないか、つむぎがいなくなっちゃうんじゃないかって」


雄大はすごく心配性だ。三年前からは特に。少し風邪をひいただけでも学校は休まされるし、膝の手術をした後は人工関節を入れているからと激しい運動は一切させてくれない。
俺の方が二つお兄ちゃんなんだけどね。一年の闘病生活の後中学三年をもう一度やり直したから学年は一つ差になってしまったけれど。


「心配かけてごめんね。冬だったから風邪を拗らせてしまったんだけど、父さんが心配しすぎで入院しろってうるさくてさ」

「本当に?風邪だけ?」

それにしては長いと怪しんでいる。でもここでバレてはいけない。

「本当だよ。ちょっと肺炎を起こしかけただけだから。自分とこの病院だからって権力振りかざしすぎだからあの人」

はは、と笑うと「親父め、」と舌打ちが聞こえる。

「新学期から元気に通えるように念のため長めに入院しただけだよ。連絡したらまた異常に心配するだろ雄大は」

「連絡ないならないで心配するから。その気遣いの意味ないから、今度からは絶対連絡するって約束して?」

そう言って上から見下ろしてくる瞳は不安で揺れている。

「わかった、約束」


子供の頃のように指切りをする。
絡めた小指は熱いのに、また嘘を重ねた身勝手な自分に心は冷えたいた。


「つむぎ、もう目の前からいなくならないで」

小指はほどけて俺の右手は大きな雄大の両手で包み込まれた。まるで冷えた心を温めるように。

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