月明りで照らして
4 side Yudai
あの雷の夜に決めたんだ、
これからは俺がずっと、つむぎを守るって。
弱々しく震える手を握るとぎゅっと握り返してくる。こっちを見上げる目は恐怖で一杯だった。
子供心にこの人を守れるのは自分だけだなんて一丁前なことを思ったんだ。
だからその次の日からは、とにかく何をするにもつむぎが最優先になった。
今思うと兄の後について回っていたガキでしかないが、その時はそれが精一杯だった。
寂しがってないかな。
泣いてないかな。
辛くないかな。
弱くて儚い存在を守れるのは自分だけだ、なんて偉そうなことをたった10歳のガキは信じていたんだ。
つむぎが家に来た日から、俺の世界は変わった。
それまで何ひとつ不自由だとか不満だとか思ったことはなかったけど、だからといって満足していたわけでもなかった。
だけどあの日気付いたんだ、自分の世界にはこの人が足りなかったのだと。
つむぎがいることで初めて、モノクロの世界は色を帯びるということを知った。
これからずっと一緒にいるために、自分の我儘で桐林学園の中等部に入ってもらった。自分で言い出した事なのに俺が中等部に上がるまでの二年間は今までの人生で最も色の無い世界だった。
在るべきものが無いというのは、こんなにも寂しさに襲われるものなのだと思い知った。
そして、あいつは俺が守らないと壊れてしまうんじゃないか、なんて自惚れは直ぐに打ち砕かれ、そして思い知らされた。
つむぎは今までだって俺がいない世界で生きてきたことを。
今も新しい俺の知らない世界を自分の力で生きていることを。
ーー つむぎがいないとダメなのは俺の方だったということを。
成長する身体とは裏腹に、心はずっと我儘な子供のままそこで足踏みしていた。
でも...だからこそ気付くことができたんだ、つむぎに対するこの感情が特別だというとこに。
それが『恋』というやつなんだって。
これが初恋というやつで、兄弟に抱く感情ではないと気付いたのは待ちに待った夏休み、初めてつむぎが帰ってきた時だった。
久々に会ったつむぎはまるで何年も会わなかったかのように、急激に大人びて見えた。
帰ってきたら一緒に行こうと約束していた夏祭りに、二人で手を繋いで行ったんだ。
浴衣に身を包んだつむぎは、思春期の少年独特の中性的な魅力を感じた。
少年と青年の中間で、俺を置いて大人になっていくかのように距離を感じた。
「雄大、もうすぐ花火が上がるよ」
河原で観ようと俺はりんご飴を、つむぎはいちご飴を買って場所取りをした。
「雄大、見て!」
ドーン!
大きな音と共に一番目の花火が上がる。
空が明るくなり、つむぎの顔がふわりと緩む。
ー ねぇ、雄大。
ー ほら見て、雄大!
名前を呼ばれるたび胸が高鳴った。
花火なんて毎年同じだ。大人びた表情を見せるつむぎの方がよっぽど綺麗だと思った。
綺麗な瞳に枝垂れ柳が映る。言葉を発する事もなく見入っている。
あぁ、これ好きだって言ってたよな。
静かに空を見つめるつむぎは今にも消えてしまいそうに儚い。
どこにも行かないで、僕の側にずっといてほしい。
...ずっと僕だけのつむぎでいて。
そう言葉にしたら可愛い弟の我儘だからって聞いてくれる?
いつだって何より俺を優先してくれたよね?
このお願いもいつもみたいに笑って「いいよ」って言ってくれる?
初恋は叶わないなんていうけど、この恋は成就することを願うことすら許されないだろう。
でも、想っているだけなら、
心に秘めているだけなら許してもらえるだろうか。
つむぎが望むものは何だってあげる。
必要なら何だって与えたいし、全て失うことも厭わない。だから許してくれないか。
つむぎが誰を好きでも、伝える事ができない想いだとしても、
俺はこの恋を諦められない。
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