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月明りで照らして
告知2
「肺への転移はね、手術して治った患者さんのうち五年以内に三割から四割起こりうると言われているんだ。肺に転移したものは治療が困難な事が多い。特につむぎ君は若いから進行がとても早くて今の肺の状態を見ると手術で全てを取り除くのは難しいと思う。手術をした上で化学療法を受けてもらって、広がりをできる限り抑えても恐らく一年半くらいだと思う。」


先生がそう言うと父さんは声を殺して泣いた。

これからの治療方針を一通り話した先生は病室を出て行き、部屋には父さんと二人きりになった。
いつの間にかあんなにも真っ赤だった夕日は沈んでいて窓の外は暗闇に包まれていた。



「.....一年半か...あいつ怒るかなぁ...」


自然と口から出た言葉に我ながら呆れるけど、まるでパズルがうまくハマったみたいにしっくりきた。


そうか、オレ死ぬのが怖いんじゃないんだ、あいつを残していくのが何より辛いんだ。あいつの悲しむ顔を見るとどうしようもなく胸が痛くなるから...。



「ねぇ父さん。手術しても完治は難しいんだよね。.....それなら残りの時間は今まで通り学校に行きたいんだけど駄目かな。我儘かもしれないけど、辛い治療を受けて学校にも行けずに数ヶ月命を延ばすより、いつも通り普通に過ごす事の方が俺には意味のあることに思えるんだよ」

「つむぎ...っ、」

父さんは両手で覆っていた顔を上げオレを見た。そこには涙でグチャグチャになった見た事もない父さんがいて、その目は嫌だと訴えていた。抗がん剤の投与をしないということは一年半という期間さえ全うできないだろう。しばらく考えてから父さんは言った。

「父さんはつむぎに入院して少しでも長く生きて欲しい。.....でも、つむぎが後悔しないように生きてほしいとも思う。.....だからお前の気持ちを優先するよ。でも本当に辛くなったら無理せず帰って来なさい」

そして骨が折れるんじゃないかと思うくらい強く抱きしめられた。


「父さん、苦しいよ」


それは抱きしめられた体の事なのか締め付けられた胸の事なのか。
急に目の前が歪んで涙が溢れてきた。


今、これから一年半分の涙を出し切ってしまえ。全部出し切ったら残りの人生は笑って過ごそう。だから今だけ思いっきり泣いてしまえ。


この涙が乾いたらあいつの元へ帰ろうか。

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