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月明りで照らして
ライカM3
部屋に帰るとまだ2時になったところだった。
悟が帰ってくるまでかなり時間がある。何となく一人が嫌で愛用のカメラを片手に外に出ることにした。



ひとりぼっちの部屋で誰かの帰りを待つのは嫌いだ。


あの時を思い出してしまうから。

目的地もなくただ歩いた。

気がつくと中庭まで来ていた。周りを囲むように咲いている桜に目が留まる。数日前は満開だったのだか、今はもう緑が入り混じっている。新入生を迎えるまではなんとか持ち堪えたようだ。


枝いっぱいに咲き誇った桜もきれいだけれど、こうやって風が吹くたびに花びらが散っていく姿はとても儚くて胸が締め付けらる。
最後にもう少しここにいさせて欲しいと言っているかの様だ。

「まるで俺みたいだ」なぁ相棒と、カメラを撫でる。

握りしめていたカメラを構えてファインダー越しに桜を覗く。
愛用のカメラ、ライカM3は古い機種ながらまだまだ現役だ。

久々に聞くシャッターの音はとても心地いい。きっと現像した写真には雪のように舞う桜がずっとそこに留まっているのだろう。


「来年もまた会えるといいな」


夢中でシャッターを切っていると、フィルムを使い切ってしまった。一度写真を撮り始めるとつい無心になってしまう。

デジカメにすればこんな事はないのだけれど、母親から譲り受けたライカM3はそんな不便さを差し引いても有り余る魅力があるのだ。


時計に目をやると4時半を指していた。春だというのに日が沈むとまだ寒い日も多い。あまり遅くまで外にいてはまた雄大に心配されてしまうので、今日は切り上げることにした。


「次に来る時は葉桜かな...」

それもまたいいか、と考えて足を寮の方へとむける。

その時ポケットに入れていた携帯が光っている事に気付いた。不在着信は雄大からだった。
着信のバイブレーションに気づかないほど夢中になっていたらしい。


掛け直すとワンコールで出た。早過ぎやしないか。

「どこにいるの?」

「中庭だよ。桜の写真を撮ってたら電話に気付かなかったんだよね、ごめん」

「夢中になるのはいつもの事だからね、ちゃんと上着着てるの?風邪ひいちゃうよ」

「あー、昼は暖かかったからベストだけだな。もう帰るよ」

「雄大、もう部屋に帰ってる?」

「うん。さっき帰ってきた」

「俺部屋片付けずに出て来ちゃったから、部屋着に着替えてからそっちに行ってもいい?」

「いいよ。あったかい格好しておいでよ」

「わかった」

電話を切ると早足で寮に戻った。まだ早いけどそのまま寝ても大丈夫なようにパーカーとスウェットというラフな格好に着替えた。
持っていくか悩んだが、ライカと新しいフィルムも持っていくことにした。

時間的に雄大の部屋でご飯を食べる事になりそうなので、悟には置き手紙をしておこう。

[お母さん、今日は晩ご飯いらないよーby息子]

こんなもんでいいか。
小さいカバンに財布と携帯、カメラを入れて部屋を出る。なんだか銭湯に行くようなスタイルである。
エレベーターに乗り込むと生徒会役員の特別フロアを押した。

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