小説『Li...nk』 6... 既に辺りは闇に染められ、多かった人は段々と減り、今ではほとんど見なくなってしまった。 その代わりに先にそびえ立っている大きな城が存在感がある。 「おい、そっちって城じゃないか?」 進む道は一方通行で城に繋がっている。 「そうだけど? さ、そろそろ降りるわよ」 二人はスカイサイクルから降りて城門まで歩く。 城の回りはかがり火が焚かれて、門前にはやはり門番をする兵士が槍を持って立っていた。 一人は中年で、長年この仕事を続けて日光にさらされているのか肌が茶色がかっている。 もう一人はまだ若々しい顔つきの男。肉体は、片方の門番と比べると大分細くやや頼りない感じがする。きっとそれは彼の肉体だけではなく、彼から出す雰囲気からもそう感じさせていた。 夜中に突然現れた子供二人に当然の反応を示す若い門番。 しかし、かといって守りを緩めるわけでもなく、逆に怪しみ警戒させてしまった。 「君たち、こんな夜中に何のようだ?」 若い門番と違って、眉一つ動かさずに訊ねる中年の門番にリィは畏まって目的を告げる。 「私たちはジェナ・リースト共和国から来ましたリィ・ティアスとレイシャン・アルヴァリウスと申します。フォアス帝国軍最高司令長官のサネル・クレセント様に会いに参りました」 「ちょ、長官に!?」 若い門番は驚きのあまり槍を落としそうになるが、慌てて掴みなおした。 さすがにこのことには年配の門番も少し驚いた表情を見せた。 そして門番の二人は暫く耳打ちをして、じろじろとリィたちを見る。 「暫しお待ちを」 急に態度を改めて言うと、若い門番は門を開けて城内へと消えていった。 「フォアス帝国軍最高司令官?」 ひどく長ったらしい役職名に首を傾げるレイシャンに、小声でリィは説明する。 「フォアス帝国は国が大きいからね、防衛も大変なわけで、東西南北と中央に分けて軍が配備されてるの。その東西南北の司令官をまとめあげ、さらに中央の軍隊を指揮する人」 「な、なんでまたそんな人と知り合いに……?」 「パパの友達。二人が亡くなってから世話になったのよ」 ちょうどその時、城内に入っていった若い門番が――余程急いできたのだろう、息を切らして出てきた。 「許可が下りました。私が案内致します。どうぞこちらへ……」 門番に案内されて城の中に入る。 城のエントランスホールの先には大きな階段が続いている。 それを上ると、さらに三つの部屋に別れていて、一番右の部屋の入り口に連れていかれた。 「ここが、最高指令長官執務室です」 門番はそう言って、一回、軽く頭を下げて礼をするといそいそと持ち場に戻っていった。 リィは大きく深呼吸をして気持ちを整え、きらびやかな装飾が施された木製のノックする。 暫くして野太い声が返ってくるとおもむろにドアを開けた。 その瞬間、白い煙と共に凄まじい匂いが立ち込める。 「こ、この匂いは……!?」 「煙草……」 顔をひきつらせて声をあげるレイシャンに、リィは咳をしながらドアを閉めた。 部屋の隅には、観葉植物があり、真ん中には高級そうな机と椅子。客人用のソファーもある。 そして、その椅子には座っていてもその巨大さが分かる、背中まである髪を一つに纏めた大男が座っていて、机に臥すように羽ペンを動かしている。 その横には山の様に積まれた煙草の吸殻。 やがて一段落がついたのか、羽ペンを置いて顔をあげる。 その顔は、少し白の混ざった顎髭や頭髪、目元の皺を見る限り中年から初老の間の男だった。 大男は明らかに顔色が悪いリィとレイシャンを見て表情を曇らせた。 数秒後、その原因が自分がさっきまで散々吸っていた匂いと気付くと、彼は苦笑いをして窓を開け換気をする。 「ご無沙汰です。サネルおじさん」 リィはぺこりと頭を下げると、大男は、あぁと頷き、豪快に笑い、彼女のもとへ歩み寄り、その毛深い大きな手で彼女の頭を撫でた。 彼は手を放すと、視線はレイシャンの方へと向けられる。 「君は?」 「レイシャン・アルヴァリウスです」 レイシャンは軽く頭を下げると、大男は再び豪笑して、無理矢理レイシャンの手を取り握手を交わした。 「いい名前だな。俺はサネル・クレセントだ。よろしくなレイシャン」 サネルはニヤリと笑うと、身を翻して椅子へと戻る。 彼がどかりと椅子に座ると、その体の重さに椅子は今にも壊れてしまうのではないかというほどの悲鳴を上げて沈む。 「俺に会いに来るのも何か用があるんだろう? 話してみろ」 彼は頭を掻きながら「といいたいが」と付け足して時計を見る。 リィとレイシャンもそれに続いて時計を見る。 もうすぐ一日が終わろうとしていた。 「そんなに疲れた顔をされちゃあ、話なんて出来ないな。ジェナ・リーストからここまで来るのは疲れただろう。城の空き部屋を貸してやる。今日はそこでゆっくり休め」 サネルは首の骨を鳴らし、椅子から立ち上がり、ついてこいと言わんばかりに顎をしゃくらせて部屋から出ていった。 二人は彼についていくがその部屋までは来た道をも忘れてしまうほど入り組んでいて、部屋についた頃には二人は少し疲労を感じてしまっていた。 「この部屋だ。ある程度好きに使ってくれて構わないからな。じゃあ明日また会いに来てくれ」 サネルは身を翻して歩き出す。 彼が去った後、レイシャンは部屋のドアを開けて絶句した。 エントランスなどと比べたらやや劣るが、さすが王宮と言ったような豪華な造りの部屋だった。 こんな部屋が空き部屋なのは勿体無いと思いながら荷物を部屋の隅に置いてベッドに腰を下ろす。 布団も質がいいのか、ふかふかで心地よい。 ずっとこの部屋に住んでいたいなと言おうとリィの方を向く。 しかし彼女は既にベッドの中で布団に体を埋めて寝息を立てていた。 一日の半分以上、スカイサイクルを運転していて疲れているのだろう。レイシャンは彼女を起こさないようにそっと明かりを消し、自分も床についた。 翌朝、レイシャンはほろ苦いコーヒーの匂いによって起こされた。 彼は体を起こすと、既に起きていたリィが、朝食を今まさに済ませたところが目に入った。 清々しい朝日に透き通るような白い肌が照らされている。 太陽の光を背景に静かにコーヒーを啜るその様子はまるで紅茶を飲む天使のような雰囲気を醸し出していた。 「……天使がいると思ったらリィだった。……悪魔だった」 その天使は満面の笑みで言い返す。 「それって喧嘩売ってるって解釈していいわけね?」 「いや、すみません。冗談……です」 レイシャンは顔を枕に埋めながら謝ると、リィはその表情を崩さずに彼から枕を取り上げる。 「第一いつまで寝てるのよ。早く支度しておじさんの所へ行くわよ」 その彼女の口調は、急かすと言うよりも命令のような口調。 レイシャンは分かってると呟いて、なるべく彼女と目を会わさないようにして手早く準備を済ませた。 準備が終わり、フォアス帝国最高司令長官の部屋に向かう。 昨日行ったので場所は覚えているが、この広い城の中にあるため、迷い、さらに似たような部屋がいくつもあったために部屋についたのは、それを探し初めて十数分経った頃だった。 サネルがいるだろうその部屋に入ろうとして、リィはドアノブに手をかけたその時、中から何やら話し声が二人の耳に入ってきた。 それを聞いて彼女は慌てて手を放す。 「誰かいる……」 サネルの声以外にも他に知らない声が四つ。 「少しくらい覗いてもいいだろ」 レイシャンは見つからない程度にドアを少し開けて覗かせる。 見てみるとやはり知らない人間が四人。 そして彼らが立つ前にはサネルが椅子に座り、他の四人が立っている。 どうやら会議をしているようで、サネルは話の内容を書き留めているのかペンを動かしている。 [*前へ][次へ#] [戻る] |