小説『Li...nk』
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フォアス帝国南部司令官であるココから魔力を生み出す指輪を貰ってから大分日数を経た。
まだそこまで強くは無いが、リィ自身も魔法を使えるようになった。
しかしこの指輪は、ココから言われたように体力と精神力を媒介にするものであるために、ひどく消耗する。あまり使いすぎると命に関わるとも言われた。 現に、数日前に使いすぎて倒れたところを考えるとそれは単なる脅しではなく事実。
それから試してみると、今魔法を使える回数は程度にもよるが大体三回。
これから絶えず努力をすれば使える回数も増えるだろうとのことだ。
また、この訓練で分かったことがもう一つ。
魔法は使うとしばらくして消えてしまうということ。
ココが言うには、魔法は自然と対なるもので、反発して消えてしまう。検証すると種類によるが一時間以上魔法の効果は続かなかった。
どうやらこの力を継続させるためにはさらに体力・精神力が必要のようらしい。
無論、今のリィにはそのような力はない。
今、リィはその日の訓練が終わり、いまいち柔らかくないベッドに倒れ込んでいる。
体を動かすことなく、こうも疲労することに初めは違和感があったが、今や慣れてしまったことに逆に違和感を覚えてしまう。
ふ、と苦笑い。
何もすることがなく、明かりを消して毛布を被る。
ランディール王国で無茶な訓練をしている彼は大丈夫だろうか。などと考えている余裕などなく、こちらも彼に比べて十分に無茶であるのだ。
もう一度壮大な溜め息をついて余計なことを考えないようにと努める。
すると、不意にこつ、と物音が聞こえた。そう、それはまるで足音のような。
「誰……?」
首を捻り、辺りを見回すが、今は月の光しか光源がないために何がいるかが察知できない。
一体誰がいるのか。
言わずもがな、懇切丁寧なココならそんなことをすることはなく、他の軍の人は他の部屋に入るということが禁じられていることもココから聞いた。
つまり人がいるならば、自分のような軍以外の人間。
おそるおそる明かりを点けようと電灯のスイッチに手を伸ばそうとする。
すると、辺りが一層暗くなった。月光が差し込んで来る窓の前に一人の男がこちらを向いて立っていた。
「どうやら、この部屋で間違いないみたいだな」
低い、しかし若い声。
深呼吸をして明かりを点ける。
視界に映ったのは、短い金髪に、ゴーグルを掛けた男。
服は例のあのコート。新聞の中でセイルが着ていたものと、リュウジが着ていたものと同じコート。
おそらくは“束縛された魂”
「あ、あなたは……?」
「アランだ。お前がセイルの妹リィか。……なるほど、少し似ているところはある」
セイル、という言葉にピクリと体が反応する。兎なら耳が天を指していただろう。
「あなた……セイルを知ってるの!?」
噛み付くように尋ねると、アランと名乗った男はフッと鼻で笑い、リィに近づいていく。
夜中なため彼の足音が顕著に聞こえる。
「同じ組織にいて知らないわけがないだろう。それはお前も知っているはずだ。……この記事でな」
アランはコートから新聞の切れ端を取り出した。
リィに見せるということはセイルが写っているあの新聞。
綺麗に折り畳まれているところを見ると、どこかの白髪少年とえらい違いだ、などと、頭の隅で考えてしまう。
「……それで、あたしに何か用が? セイルのこと?」
「やけに急ぐな。まぁ、落ち着け」
アランは新聞を戻しながら、掛けていたゴーグルを外した。
真剣な話にゴーグルを掛けたままであることが失礼と思ったのだろうか。
青と緑のオッドアイが顔を覗かせる。
月の光によって輝くその瞳はどことなくなまめかしさがあった。
彼は一度、小さく咳払いをした。
「セイルからの伝言だ」
「伝言……?」
そうだ、とは言わず、アランはただおもむろと頷く。
「俺は今“束縛された魂”の一員としてラインと闘っている。危険だからこれ以上俺を追おうとするな……以上だ」
用件が済んだアランは再びゴーグルを掛け直し、身を翻す。
「ちょ……ちょっと待って!」
リィは彼の前に両手を広げて立ちはだかる。
「束縛された魂は何が目的なの!?」
「教えるとでも思っているのか?」
彼女の体を押しのけて、そのまま部屋を出ようとする。
しかし怯まずに再びアランの前に立ちはだかる。
「なら、力ずくでも……!」
リィは手を翳した。
「丸腰のお前に何が――ッ!?」
アランはリィの手から発する光を見て瞬時に、一歩身を引かせた。
しかし、時は既に遅く、人一人分の大きさの火球が彼目掛けて突進した。
ボンッと激しい大きな音を立てると、瞬く間にアランは炎に包まれてしまった。
「……やり過ぎた?」
もちろんこのままでは死んでしまうかもしれない。彼が情報を与えてくれるなら、そのまま鎮火することもできる。
「いや、まだまだだな」
目の前で倒れている男を見ていると、どこからともなく声が聞こえた。
その声は聞き覚えのある、さらに言えばついさっきまで会話していた男の声だ。
声を発しているのは目の前からではない。
辺りを見回してみてもそれ以外のものは見当たらない。
不意に後ろから肩に手を置かれる。
驚いて振り返ると、そこには今目の前で倒れている男、アランと瓜二つの男が不敵な笑みで立っていた。
「どうして……二人?」
青ざめた顔で尋ねると、アランはふっと鼻で笑う。
「それが俺の能力だからだ。分身……などと陳腐な考えはするなよ」
アランは一度手を振ると、倒れているもう一人の彼が、リィの炎ごと消えてしまった。
「リィ・ティアス」
いきなり声を掛けられ、動きを息が止まる。
「……これ以上深入りをすると本当に命を落とすことになる。それがお前の兄、セイルが喜ぶと思うか?」
威圧感のある言い方に一瞬、体が硬直する。しかし、こんなことで負けるわけにはいかず、即座に言い返す。
「でもそのまま放っておいてセイルが死んだら、逆にあたしが……なんてあいつは考えなかったのかしら?」
「……さあな」
「なら伝えておいてよ。だからこそ、あたしたちはあなたを追うってね」
アランはふっと気障な笑みを浮かべる。
「さすが、あいつの妹。兄妹揃って頑固なことだ。……分かった、伝えておこう」
そう言うと、彼は部屋の出入り口から出ずに、闇に溶けるように消えてしまった。
何が起こったか理解できなかったものの、それ自体が彼の能力かもしれないと、強引に納得させた。
「リィさん! どうしましたかッ!?」
部屋の外から床を蹴る音と叫び声が聞こえた。
部屋に入ってきたココは急いできたせいか荒い息に合わせて肩が上下に動いている。
そして手には比較的細みの剣。
「……“束縛された魂”が現れました」
ココは目を閉じて、そうですか、と小さく呟き、考え込むように暫く俯いていた。
やがて顔を上げると踵を帰して扉の方へ向かい、着いてくるように顎をしゃくらせて促す。
「……どこにいくんですか?」
ココは後方から聞こえてくる質問に振り向きもせず淡々と答える。
「レイシャン君を連れ戻しに行きます。どちらにしろ、明日迎えにいくつもりでしたが、行動は早い方がいいです」
「行動……ですか?」
怪訝そうに尋ねる。
「はい。詳しくは彼が戻ってきてから話しましょう」
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