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小説『Li...nk』
2...
「……見たわ。取り敢えずレイの生活管理能力が極端に欠けているのが手にとるように分かる代物ね」
 呆れ果てて起こる気力も無くなってしまった彼女は食事を止めて、その紙くずを摘まみ上げ、広げてみる。
 しわだらけで随分と読みにくいものとなってしまったが、それは新聞だった。
 新聞には「ライン、ジェナに襲撃!?」という見出しで一面を飾っていた。
 ライン。
 それはここ近年になって頻繁に現れた生物の総称で、今まで架空のもの、つまり現実に存在しないだろうと思われた生物の姿形をしている。
 ラインは過去には全く姿を現さず、姿を見たものは一握りよりも少なかった。そしてそれは噂として広まり架空、伝説、神話のものとなったのだ。
 しかしそれは今となっては頻繁に目にし、世界中を闊歩しているのだ。
 ラインには様々な姿がある。例えを出すなら、伝説で有名なユニコーンや鬼、ゴブリンと呼ばれる種類などが存在する。
 また、ラインは人間を襲う。ラインの存在が確認された時以来、各国はラインが侵入し国民に被害を加えないように、街の境に高く厚い塀を建てた。
 もちろん、ラインの中には翼を持ち、空を飛ぶ種類もいるがその対策もしっかりと考えられている。
 新聞の写真にはジェナ・リースト共和国の軍隊と様々な種類のラインたちが戦闘を繰り広げているところが写っていた。
「……最近頻繁に記事になっていますよね?」
「ひぇぁ!?」
 突如、よれよれの新聞を読むリィの目の前にひょっこりと机の下から姿を現すクラスメイトらしき少女。
 いきなり予想もしなかった場所からの友人の登場にリィは最大限の驚愕顔を表し椅子ごと仰け反る。
 危うくそのまま後ろに倒れそうだったが何とか持ちこたえた。
「やあ、リィちゃん。今日初めまして」
そんなことも意に介せず笑顔で挨拶をする少女。
「ちょ、ちょっとアリス! 急に出てこないでよ! 驚くじゃない!」
「いや、驚かすつもりでやってますから。ほらほら、ばっちり撮れてますよ〜」
 アリスと呼ばれる少女は屈託ない笑顔で持っていた写真機を二人に見せる。彼女の前に現れる一瞬で撮ったにも関わらず、写真機は綺麗にリィの驚いた顔を写していた。
 それを見て感心するレイシャンだが、リィはというとそうもいかず、目は笑っていない満面の笑みでアリスの頭に手を置くようにして掴む。
 リィより一回り身長が小さいアリスは顔をひきつらせてじたばたと暴れる。
「はぁ、あたしを撮るなって何度も言ってるのに懲りずに何度も……! 今度撮ったらそれ、壊すからね」
 リィは手に力を込める。それと同時にアリスは、ひぃっ、と声を漏らす。頭を掴むリィの手が痛いからではなく、リィの圧倒的な気迫にやられての声だった。文字通り蛇に睨まれた蛙と言った状況である。
「これは国でも大分古いものなんですよ!? 壊されたら堪りません。それに……それにですねリィちゃん。この写真、私的には可愛く撮れてると思いますよ?」
 リィはどうしてそんな代物を持っているのかが気になったが、その後の言葉に引っ掛かり問うのを忘れてしまった。
「え? そ、そう……?」
 誰でも誉められて怒る人はいない。リィは眉間に寄った皺を消して、誉められて少し照れたのか少し頬を朱に染める。
「可愛いですよね? レイシャン君」
 いきなり話を振られたレイシャンは顔を歪めた。可愛いいと言うと照れて叩かれ、可愛くないと言っても叩く。そう、どちらにしろ叩かれることは明白であるから。この十七年間生きてきて彼は学んでいた。
「……」
 だから彼は黙っていた。
 すると「何悩んでるのよ!」とリィから右頬を叩かれ、「こう言う時はお世辞でもいいから可愛いって言うんですよ!」とアリスから左頬を叩かれた。
 結果的にどう足掻いても叩かれることから逃げられなかった彼は、ただただ溜め息をついてげんなりとする。
「……ところで話が脱線したけどその記事」
 レイシャンは叩かれた右頬を――きっとリィから叩かれた方が痛かったのであろうその頬を優しくさすりながら話をきりだした。
 リィは、そんなことがあったわねと言って、少し放置され微妙に収縮した新聞紙を丁寧に伸ばしていく。
「……ここ数年間でラインが増えてますよね?」
 話に強引に入ってきたアリスは身を乗り出して記事を覗き混んで言う。それに対しリィは……さっきの表情はどこへいったのやら、真剣な顔つきで腕を組んで頷く。
「うん。このままライン対策の授業が増えるのかな……? ま、いっか」
 ライン対策の授業。それはラインがしばしば見られた時から、全国の学園で実施されている訓練と言う名の授業。
 これからもしさらにラインが増えていけば、ラインが国に侵入した時に備え、学生の彼女らも自分で身を守れるようにと授業回数が増やされることだろう。
 リィはそれを考えると頭が痛くなり、気だるそうに新聞を、乱暴に丸めてレイシャンに向かって投げた。
 新聞紙のボールは彼の制服に当たると、かさりと音を立てて地面に落ちる。
 レイシャンはそれを拾いポケットにしまい込んだ。
「ところでレイシャン君、何でその記事を……?」
 訝しむアリスにレイシャンは人差し指を立てて答える。
「いや、ラインがこんなに増えてきてたなんて知らなかったからな」
 素直な関心を含めて言うレイシャンに暫しの沈黙が駆けていく。
 そしてやっと出てきたのはアリスの「はぁ?」と言う言葉。
 あんぐりと口を開いてぽかんとするアリスの横で、リィは手を額に当てて溜め息をついき、諭すように言う。
「ねぇ、レイ。ラインが増えてきたって随分前から騒がれてるよ……?」
「え?」
「バカ。あんた、どれだけ新聞読んでないのよ。ホント呆れるほどバカなんだから」
 バカバカと、これだけ罵られて平気な顔を出来る人はそういないだろう。
 普段滅多に見ない新聞を見て大騒ぎしていた自分が恥ずかしく、レイシャンは口をつぐむ。
 それからというもの、沈黙が続いた。聞こえるのはクラスメイトの騒ぎ声と、学園の外から聞こえる蝉の声。
「もうすぐ夏休みですねぇ。やっぱりラインが増えると危なくて他の国にも行けなくなりますねぇ」
 窓越しに外を見て、独り言のように呟くアリスにリィはうんうんと頷く。
 季節はもう既に夏に入っていて、真夏に入りかけていた。
 この学園は真夏あたりから初秋に掛けて長期に渡る休みに入ろうとしていた。
「リィちゃんはこの休みの間、予定とか入れて無いんですか?」
「全くと言っていいほど……無い」
 本来なら家族旅行などする家族も多いだろうが、あいにく彼女には家族がいない。唯一生きている兄すらも家にはいないからだ。
「まぁスケジュールなんて夏休みになって決めればいいしね。別に今何するかを焦って決める必要は無いよね」
 すると、それを傍聴していたレイシャンはにへらと笑い、首を傾げて訊ねる。
「それでその日の思いつきで旅に出たりしてな?」
 冗談混じりに、笑いながら言うレイシャンにリィは、それは無いとひらひらと手を振って言って苦笑する。
「レイとは違うからそれはないわよ」
 紡がれたその言葉に、ただでさえ気分を逆撫でされる言葉だったが、さらにアリスも、そうだそうだと言うので彼は言い返したらさらに言われると考えた。ただでさえ口が強いこの二人に勝てる自信は彼にはなく、ただただあからさまに嫌な顔をするだけだった。
 しかし、そうはいっても彼にとってはいつものことなので直ぐに顔を戻して椅子から立ち上がる。
 するとポケットから先程の記事が転げ落ちる。それを拾い上げて、もう使わないだろうと思い破り捨てるために一度広げ、今まさに破ろうとするところ、急にリィに呼び止められた。
「どうした? 全部読んでなかったのか?」
 レイシャンは訊ねると、リィは一回首を横に振り、少し悩んで縦に振りなおして手を前に出して広げる。
 つまりは渡せと言うことである。
 彼は頭に疑問符を浮かべながら新聞を渡す。
 新聞を手に取り、皺を伸ばして読み出した所は先程読んだところの裏側の記事だった。
 なるほどと納得したレイシャンは彼女に「何が書いてるんだ」と訊ねながら彼女の手元にある新聞を覗き込む。

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あきゅろす。
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