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小説『Li...nk』
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    ***


 ココが部屋に戻った頃にはリィが客用の椅子に座っていた。
「あ、ココさん」
「遅れてすみませんリィさん」
 リィと顔を会わせるなり軽く頭を下げて謝った。
 そして、ココはリィと対峙するような位置にある机へと向かい、おもむろに椅子に座る。
 彼女は「さてさて」と呟きながら、机の上に置かれている報告書らしき紙束に目を通す。
 前回のライン、ゴーレムの件についての報告書だろうか。
「それでリィさんには……レイシャン君より厳しい訓練を受けてもらいます」
 リィには見向きもせず、淡々と文字に沿って目を動かし続ける南部司令官。
 対してリィは彼女をしかと見つめ、「はい」と大きく首肯する。
「武器は貴女では重すぎるでしょうから――」
 言葉を途中で切って、ココは報告書の束を机に置く。
 そして机の引き出しを開け、小さい何かを摘まみ出した。
 リィのいるところからでは判別し難い何か。唯一分かることは摘まんでいる指の間から太陽の光が反射してキラキラと輝いていることだけである。
「それは……?」
 よく見るために机に近づく。
 ココはそれを歩み寄ったリィの掌に乗せる。
「魔鉱石で作った指輪です」
 近くで見ると小さな丸い宝石のようなものがリングの真ん中にちょこんと埋め込まれている。おそらくこれが魔鉱石なのだろう。
 魔鉱石はスカイサイクルの浮力源に使われるが、それは加工されていて鉱石の面影が無いため、リィは直に見るのは初めてだった。
「魔鉱石ってスカイサイクルの浮力源になるあの魔鉱石ですよね? それが武器になるんですか?」
 ココは静かに頷く。その目は今までの優しい目付きからうって変わって、司令官を彷彿させる真剣な、厳しい目付きだった。
 それを見てリィは口をつぐむ。
「……帝国内はおろか、世界のごく一部の人間しか知らないのですが、魔鉱石はその純度によって不可思議な力を発揮するのです。火、電気、水と力の種類は多く、その万能性故に“魔”鉱石と名付けられたのです」
 窓の外では輝く太陽の下で二匹の鳥が楽しそうに歌いながら飛び回っている。
 リィは信じられないと言わんばかりにぽかんと口を開いたまま動きを示さなかった。
 ココは机から離れ、彼女のもとへ歩み寄り、手に置かれたままの魔鉱石の指輪を摘まみ上げる。
「そんな秘密が世界中に知られ、氾濫したら危険だと判断し、魔鉱石の採掘は規制し、私たちの国が管理しているのです」
 ココは指輪を握り締め、その手を見つめる。
「危険なのはそれだけではないのです」
 無言で耳を傾ける。
「純度が高くなればなるほど人間への身体の影響は悪くなります。身に付けるだけでも負担が掛かるのに、その力を駆使するとしたら一体どれだけの負担が掛かるか分かりますか? そのような危険なものを使ってまでして貴女はお兄さんを探したいですか?」
 睨むように見つめる。
 リィは迷いも見せずに真っ直ぐな瞳で大きく頷いた。
 答えを聞くまでも無かったかと言わんばかりにココは苦笑いをして再び指輪をリィに渡す。
「分かりました。そこまで迷いが無ければこれを貴女にさし上げましょう。訓練は明日から始めます。ただし、これだけは約束をしてください」
「約束……ですか?」
 リィは怪訝そうにココを見つめる。
「これを使うにあたって無理はしないこと、です。必要の無い時は極力外すこと。力も使いすぎないこと。分かりましたね?」
「は、はい!」
 大声で返事をする。
 その後、暫くの間が生じた。
 その間が彼女に――リィに一つの疑問を生まれさせることとなった。
「…………ココさん、一つ、訊いてもいいですか?」
 興味深そうにココは頷く。
「どうしてこんな貴重なものまで譲ってくれるんですか? 戦闘技術ならあたしも頑張りますし、努力すれば剣でも槍でも何とか扱えそうな気がするんですが」
「……リィさんのお兄さんは束縛された魂なんですよね。私たちは束縛された魂のことについてはジェイクの日記に書いていること、名前と不思議な能力を使うことぐらいしか知りません。ですから彼らについて詮索してもらいたいのです。彼らはラインと闘うために作られた筈なのでラインが多く闘うところにいるでしょう。それらと渡り合うにはそれなりの実力が必要ですからね」
 「それに」と言葉をつけ足し、窓に向かい、それ開ける。心地よい風が頬を撫でる。ココはそのまま背を向けた形で第二の言葉を紡ぐ。
「強くなるとそれだけ死ににくくなりますからね。私はこの方法が一番、リィさんが傷つきにくいと判断したのです。年頃の女の子が体に一生残る傷を持つなんて酷ですからね。……これでも私は貴女たちのことを思っているのですよ?」
 その言葉にリィは心の底から「ありがとうございます」と頭を下げることしかできなかった。
 自分たちのことを想ってくれる司令長官のサネルや、南部司令官のため、本来何の関係もないはずなのに、危険を承知で着いてきてくれている相方のためにも、何としても強くならなければ。そう強く思わされた瞬間だった。

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あきゅろす。
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