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小説『Li...nk』
9...
 男は少し嫌味を混ぜて言った。
「はぁ、まぁそんなところです。ところで何があってるんですか?」
「この先の街道を大きな岩が塞いでてね、どかそうにもどかせなくて悩んでるんだ。勝手にスカイサイクルで飛び越えるのもまずいしね」
 直後――
 一度、地鳴りとともに、大地が揺れた。
 何事かと思い、一同は辺りを見回していると、前方から一人の男が物凄い形相で走ってきているのが見えた。
 それはまるで、信じられないものをみたかのような。
 その男は腕を大きく振りながら手招きしている。
 おそらく、レイシャンたちと話している男に対して手を振っているのだろう。
 ある程度距離が近付くと、手を振っている男は大きく息を吸い、そして言葉を乗せて吐き出す。
「い、岩が暴れだしたぞ!」
「何だって!? 今行く!」
 彼等とともに、レイシャンとリィも、動く岩のもとに向かう。

 その岩があるところまで十分もかからなかった。
 そして岩があっただろう場所には、岩が集合してずんぐりとした、人型のものと化していた。
 それも十メートルを裕に超すものとなって。
「何だよこれ……」
 レイシャンはその岩人間を見上げる。
 その大きすぎる体は、太陽すらも隠している。
「……これ、お伽話で聞いたことがある。確か、ゴーレム。てことはラインだよ。どうする?」
「どうするって……ナイフ一本でどうこう出来ないことは分かってるから――」

 その時、急にゴーレムはおもむろに大きな足を前に出した。ただそれだけの行動で地を揺らし、羽虫のような人間たちを恐れさせる。
 辺りにいた人々は一目散に逃げ散り、残ったのはリィとレイシャン二人だけになってしまった。
 ゴーレムは首を捻り、顔を彼らの方へと向かせる。そして、その大きな拳を振り上げて一気に地面に向かって降り下ろした。
「危ない!」
 リィはレイシャンを腕を強引に引っ張った。
 それと同時に爆弾が破裂するかのような爆音が鳴り響く。
 彼のいた場所には大きな窪みと地面が割れた痕が残っていた。
 当のレイシャンはその窪みの目の前で尻餅をついていた。
 どうやら無事なようだが、彼の額には冷や汗が滑り落ち、目は大きく開かれいるところを見ると精神的には無事ではないようだ。
「危な……かった。リィ、助かったよ」
 硬直した顔面を無理矢理歪ませて笑顔を作る。
「……まだ助かってないでしょ」
 リィは手を差し伸べて彼が立ち上がるのを手伝う。
「これをどうにかしないと……」
「どうにかしないとってあんなデカイのをどう相手にしろって言うんだよ」
 半ば呆れ気味に、レイシャンは尻に付いた土埃を払い落とす。
「大きいけどその分動きも鈍いみたい。さっきの攻撃も遅かったし、現に今も動こうとする気配は無いし」
 リィの言う通り、確かにゴーレムは全く動く気配がなく、その姿は端から見たら像が立っているとも思えなくもなかった。
 リィがゴーレムの倒し方を考えていると、ふとレイシャンが彼女の前に――ゴーレムと対峙するように前に出た。
「リィ、いい方法思いついた。少し耳をかしてほしい」
 リィはレイシャンに身を寄せると、彼は手を添えて彼女に耳打ちする。
 こちらからでは確認できなかったが、視覚があるなら聴覚だってきっとあるはずと彼は考え、彼の計画がゴーレムの耳に入ることを警戒して最小限に声を抑えて計画を説明する。
 彼の計画に、リィは一瞬驚いた顔をしたがすぐに呆れ顔をした。
「レイ、あんた、バカでしょ」
「あぁ、バカだ。だからこれしか思い付かなかった。……それに、できないことじゃない」
 彼の真剣な眼差しに、これ以上何も言えなくなったリィは、計画について暫く思索し、やがてこくりと首を縦に振った。
「……うん、分かった。取り敢えず探してくる。潰されるんじゃないわよ?」
 彼女はそう言うと踵を返し、スカイサイクルがある方へと向かっていった。
 一人残ったレイシャンはゴーレムの方を向いて両手を振る。
 コミュニケーションを図るというより挑発のために。
 するとそれに呼応してゴーレムは大きな岩の足を上げて、彼を目掛けて移動させる。
 彼に標準を定めると、一緒ピタリと静止し、そしてゆっくりと降りてくる。
 足の影がゆっくりだが確実に大きくなっていく。
 レイシャンは全力疾走で攻撃の範囲から抜け出そうとするが間に合わず、間一髪、踏まれるギリギリのところで飛び込んで足から逃れた。
 ゴーレムの動きがレイシャンの予想以上に速かったが、まだ回避できる範囲だと分かり、彼の顔には余裕の笑みが浮かぶ。
 そして再びゴーレムは足を上げ、目標目指して下ろす。
 大地震が起きたのかと思わせるほどの音と揺れ。
 レイシャンはまたもや間一髪に回避したが、先の揺れで一瞬体をよろけさせて態勢を崩す。
 ひやりと背筋が凍る。
 そして脳裏には「死」の一文字。
 狙うなら今しかないと思ったのかゴーレムは拳を振り上げ、そして今まで以上に早く、斧のように降り下ろす。
 彼の腕はぶぅんと風を唸らせ地面に衝突、地面はたちまち大きな穴を開けた。
 肝心の目標物であるレイシャンは、地面と一体化する前にゴーレムの手からすり抜けていた。
「間……一髪!」
 彼がそう呟いてゴーレムを見上げる。
 何度見ても唸らされる大きさだ。
 揺れで体勢を崩すのは考えていなかった。
 このままリィが戻って来るまで回避し続けることが出来るか不安に刈られる。
「バカレイ!」
 突如、空から乱入してくる高い聞き慣れた声。
 それは待ちに待った声だった。
 声方向を見る。リィがスカイサイクルを“上空”に浮かせていた。
「ふう……第一声がバカってのはどうかと思うけど、取り敢えず助かったよ」
「だってバカじゃない。人に法を破れって言うんだから」
 国内でスカイサイクルで空を飛ぶことは世界共通の法で規制されている。今、彼女はそれを犯したために人が見ていたらいつ捕まってもおかしくない状況におかれている。
 リィはスカイサイクルを着陸させ、レイシャンを乗せる。
「湖、見つけたわよ。このままあそこの林を突っ切ったら見つかる」
「よし、それじゃあアイツに潰されないくらいの速さで誘導してくれ」
 彼女は小さくと頷くと、ゴーレムの周りを回って挑発させる。案の定、彼はリィたちを踏み潰そうと足を進め、彼らに誘導されるがままに林の中へ。
 リィは巧みな操縦で木々を避けていく。一方ゴーレムは障害物である木をもろともせずに薙ぎ倒していく。
 それを見ていたレイシャンはその目茶苦茶さに思わず笑ってしまった。
「ねぇ、湖が見えてきた。もうすぐ着くけどどうするの!?」
「それじゃあギリギリまでスピードを落としてゴーレムに追い付かさせて、湖に落ちる寸前にスピードを上げて上空に逃げてくれ」
「レイ、口では何とでも言えるけど、それってすっごい難しいんだよ? 分かる?」
「分からない!」
「だと思った!」
 彼女は吐き捨てると、ゆっくりとスピードを落とす。
 だんだんゴーレムの足が近づいてくる一方、前では湖が刻一刻と迫ってきている。
 後少しスカイサイクルを進めたら落ちるというところで機体を停める。
 さも追い詰めたかのようにゴーレムは仕留めようと足を上げて下ろす。
 次第に二人の眼前へ迫ってくる足。
 三メートル――距離が近づくにつれて高まる緊張と恐怖。
 二メートル――もし失敗した時の光景が頭を過り身を震わせる。
 一メートル……
「リィ! 今だ!」
 レイシャンの合図に一瞬リィはビクリと肩を上げるとともにスカイサイクルのスピードを最大まで跳ね上げさせた。
 タイヤが地面から離れ、水を弾き飛ばす。
 そのまま湖に直行するかと思われたその機体は宙に浮き、暫く海面すれすれを走ると高度を上げ始めた。
 刹那、背後から豪快な音が鳴り響き、高い高度を飛んでいる二人のところにも水飛沫が飛んでくる。
 その音を聞いてレイシャンは自分が立てた無謀の塊とも言える計画が成功したのだと確信した。
 彼はその様子を見るために、リィにスカイサイクルを後ろに方向転換するように促す。
 方向を変えたその先には、湖にすっぽりと収まったゴーレムがいた。湖から出ているのは肩から上のみ。あの図体では到底出られそうにない。
「降りても大丈夫かな
 リィはゴーレムが動き出すのを警戒しながら目を放さずに訊ねる。
「うん、あれじゃあ出られそうにないから降りても大丈夫と思う」
 そう言うと、リィは一回小さく頷いてゆっくりと高度を下げていく。
 着陸した時、再びゴーレムの様子を見てみるが、やはり動く様子はない。
「なんか異様な光景ね……」
 リィは笑う。それが苦笑いでも、それは危機から脱することが出来て安堵が生まれたからだろう。
 レイシャンはもう一度ゴーレムを見る。やはり動く様子はないが、こうして見ると岩の巨人が温泉にでも浸かっているかのように見える。
 レイシャンは「確かにそうだ」と言って同じくくすくすと笑った。
「このゴーレムのライン、どうしようか? サネルおじさんに伝えた方がいいかな?」
 リィはゴーレムに視線を戻す。
「そうだなぁ……」
 レイシャンが答えようとした時、急に太陽が雲に隠れたのか、辺りが薄暗くなった。
 このまま一雨来そうかなと空を見上げる。
 空を仰ぐと灰色の雲が立ち込めてきている。
「……は?」
 はずだった。

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