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小説『Li...nk』
1...
 地平線から太陽が顔を出している時刻。
 ジェナ・リースト共和国の辺境にある街オルガの一角にある、見た目中流の二階建ての家。
 その家にはティアスと書かれた表札が掲げられている。
 そこで、つい最近十七歳となった一人の少女が時計のベルによって目を覚ました。
 長い睫毛をこしらえた瞼が重々しく開かれ、金色の瞳がゆっくりと顔を覗かせる。
 続くように重たげに体をベッドから起こして、叩くように時計を止めた。
 一分程度、ベッドから出ずにうつらうつらとして、再び時計を見て憂鬱そうにベッドから下りて立ち上がり、そのまま伸びを一回。
 腰まである、絹のようなきめ細かい茶色い髪が揺れる。
 こうして全体を見てみると、誰が見ても美少女と答えそうな容姿だ。
 少女はそのまま制服などを持ってバスルームに行く。
服を乱雑に脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
 それが終わると先程の制服を着て、さらにその上からエプロンを着けてキッチンに向かい、一人分の朝食を作る。
 彼女はそれを一人では広すぎるテーブルに持っていき黙々と食事を始めた。
 家には彼女以外誰一人としていなかった。
 少女が黙々と食事を取る中、不意に彼女の耳にこつこつと乾いた音が耳に飛び込んできた。
 家のドアが叩かれる音だ。
 彼女が返事をするために口の中に入っている物を急いで咀嚼し飲み込もうとするが、まだ返事も何もしていないのに何故か扉が開く音。そしてそれに続く足音。
家に上がってきたのは一人の少年。
 その少年は、少女とは対称的なボサボサの髪で、雪のような白い髪をしている。
 彼は少女の制服と同じ紋章をつけた制服を身に纏い、片手には同じく紋章つきの鞄を持っている。
 少年が入ってくるなり、少女は困り顔をした。
「おはよう、リィ。今日も一段と不機嫌そうだね」
 鞄を床に置いて笑う少年の言葉にリィと呼ばれた少女は「誰のせいよ」と言って思わず苦笑いをする。
「それよりレイ、ノックさえすれば勝手に入っていいってわけじゃないんだよ?」
 彼以外の人間なら通報してもいいくらいのものだったが、彼とは何せ小さい頃からの仲であるために忠告だけで済ます。
「ああ、分かってるよ。そんなの常識だろ?」
 レイと呼ばれたこの少年、本名レイシャン・アルヴァリウスは歯を見せて笑う。
 一方、彼のその笑みを見てさらに不快感を覚え、リィは制服の胸ポケットから桃色の手鏡を取り出してレイシャンに投げて渡した。
突然の行動に対応しきれず、慌ててそれを受け取り、訝しむ。
「その鏡にその常識知らずが映るはずだから見てみなさいよ」
 すると、レイシャンは鏡にリィが映るように向けた。
 それを見てリィは満面の笑みで――もちろん目は笑っていないが、首を傾けて言う。
「ぶっとばすわよ?」
 いまにも襲い掛かってきそうな感じにレイシャンは一歩身を引いて両手を前に出して彼女を宥める。
「じょ、冗談だよ。目が怖いって。せっかくの清々しい一日がこんな始まりなんて嫌だろ?」
 もっとも、誰のせいでそんな嫌な始まり方にしたのか、と言い返そうと思ったが、いちいちそんなことを繰り返しているとキリがないので、リィは何も言わずに残りの食事を済ませた。

 食器は一人分なので洗うのには時間はさほどかからなかった。
「んじゃ、行こうぜ」
 レイシャンは先程のことなど無かったかのような屈託ない笑みで置いていた鞄を持ってリィを急かす。
「あ、ちょっと待って……」
 流れを止めるようなリィの発言にレイシャンはピタリと止まり、訝しげな表情でどうしたのかを訊ねる。
 リィはそのまま彼を放置し、自分の部屋がある二階へ駆けていった。
 しかし、当然はい分かったと言って命令された犬のように待つレイシャンではなく、彼女が見えなくなって数秒後に彼女を追って二階に向かう。
 空き巣のごとく、見つからない程度に不自然に一部屋だけ閉まっている部屋のドアをこっそりと開ける。
 そこにはリィの横姿が彼の目に飛び込んできた。
 何かを見ているようだが、ドアを少ししか開けていないために見えない。
 レイシャンはもう少しドアを開けてゆっくりと視線を彼女から彼女の見ている物へ移す。
 それは一枚の写真が入った額縁。
「あ……」
 レイシャンは思わず声を上げてしまい、しまったという顔で一階に引き上げようとする。しかし、気付かれたリィに呼び止められた。
 肩を竦めて彼女の部屋に入る彼の様子は、まるで降参した兵士が白旗を振って敵陣に入るようだった。
「気になるんだったら普通に入って来たらいいのに……」
 そう言いながらも視線はレイシャンに向けられず、依然として額縁に向けられている。
 その写真は家族四人が仲良く、かつ幸せそうに笑って写っていた。言うまでもなくそれはティアス家の家族写真。もっとも今では再び撮ることは叶わなくなってしまったものだが。
「……何してたんだ?」
「ん、今日一日の安全を祈ってたのよ」
 彼女はそう言ってレイシャンを一瞥し、再び写真へと視線を戻す。
 彼女の家族はというと両親は五年前に何者かによって殺害されてしまった。そして彼女はそれ以来、三つ上の兄セイルと一緒に、家を含めた両親の遺産でなんとかやりくりして暮らしてきたのである。
 しかし二年前、つまり両親が殺されて三年後、セイルが突如行方を眩ませたのである。
 今や唯一の肉親となった妹のリィを想ってか、急に姿を消すことを忍んだのか、その時に置き手紙を残した。

『俺は五年前のあの事件の真実を暴く。絶対に探すな』

 無論それは火に油。彼女を余計に心配させることとなった。
「今日でセイルさんがいなくなって二年目……か」
 セイルを知っていて、尚且つ仲が良かったレイシャンは、彼の事を懐かしみ、いなくなったことを惜しむような目で写真を見つめる。
「レイ……」
 リィはレイシャンの肩にポンと手を置く。
 そして振り向いた彼に溜め息混じりに吐き捨てるように言う。
「悲しい気分になってるとこ悪いんだけど、二年目になったのは三ヶ月前のことなんだけど……?」
 瞬間、「え?」と言わんばかりに驚愕した顔をさらけ出した。
 どうやら冗談で言った訳でもなく本気で勘違いしていたらしい。
 その間抜けな表情の彼を見てリィは笑うのを堪え、無理に呆れ顔を作る。
「はぁ……もう何て言ったらいいのやら。まぁいいわ。レイ、時間が迫ってるし行こっか」
 リィは左手で置いていた鞄を持って、もう一方の手で彼の首根っこを掴み、引っ張って家の外まで連れ出す。
 外に出ると手を放し、そのまま早足で歩き出す。
 横に歩いているレイシャンと下らない話をしながら二人が通っている学園に向かうのが日常だった。




 リィとレイシャンが通う学園、ジェナ・リースト学園。国名を使うその名の通り、国を代表する学園で、その敷地相応に生徒数も多い。
 ジェナ・リースト学園は様々な年齢層が勉学に励んでいる。
 時刻は昼。太陽が高く上り煌々と輝く中、その学園の中では昼食の時間となっていた。
 リィたちの教室では、皆で机を囲って手作り弁当や購買の弁当をつつく生徒たちもいれば、独り黙々と弁当を食べている生徒もいる。
 もちろん前者の方が圧倒的に多いため、教室内は賑やかである。
 そんな中、リィとレイシャンはいつものように机をくっ付けあって互いに購買のパンを食べている。
 すると何かを思い出したかのように立ち上がるレイシャン。
「どうしたの、レイ」
 当然の反応を見せるリィに彼はズボンのポケットを漁り出す。
「これこれ! これを見てくれよ」
 そう言って取り出した物はクシャクシャに丸められた紙。
 それを見た瞬間、天気が変わるよりも早くリィの表情が曇る。
 当たり前と言えば当たり前。普通は人に見せるものならばきちんと管理するものであるだろう。

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