G3(アスラン&キラ&シン)
【G3】
前々から思っていたことだった。
この二人はもっと話し合った方が良い。
それは単純に、自分の親友と、前からずっと気にかけていた部下に、仲良くなってほしいということだけではない。
それよりも、二人ともがスーパーエース級の腕を持つモビルスーツパイロットゆえ、もっとお互いがお互いをよく知り、協力して戦えたら、この先どんな驚異が襲ってきても、自分達は大切なものを守っていけるのではないか、アスランはそう思う。
それに、シンは一度キラを打ち負かしたことはあるが、その時はキラとて本気で戦った訳ではない。一度、本格的な形式でモビルスーツでの模擬試合でもしてみればシンの良い訓練にもなるかも知れない。親友と共に第一線でこの世界を守り、頼もしい部下を鍛え上げながら、自分達は切磋琢磨しあってさらなる未来へと進むべきだと、思うのだ。
だから。この二人はもっと話し合った方が良い。
というわけで。
話し合う機会を作ってみた。
とは言え、自分達の立場を考えれば誰にも何にも邪魔されずにどこでも会える、などということは不可能に近い。かと言って、変装までしてメディアの目を欺きながらカフェや飲食店で、という真似はアスランには出来ないし思い付きもしない。
たかが男三人で喋る程度のことで何でこんなに苦労しなくてはならないのか。そんな思いが胸を過ったが、オーブの慰霊碑での会合以来のこんな機会、実を言えば少し楽しみでもあった。だから、今回プラントでのザフト軍上層部との会談は絶好の機会だった。施設内視察を名目にして、会議室の一室を借り、アスランはキラと共に待たせてもらうことにした。
「ごめんね。なんかややこしいことになっちゃって」
そう憂い顔を表情に宿したキラは、アスランと同じオーブ軍の軍服に身を包んでいるが、実を言えば、彼はザフト軍の軍服も正式に授与されている。オーブ軍であり、ザフト軍でもあるという、かなり複雑な身の上だが、アスランとてつい先日までザフト軍のエリートである赤の軍服を身につけていたのだ。
「別に、キラのせいじゃない」
言ってみれば二人ともが顔パスでこの施設の何処でも入れそうな勢いだが、そう罷り通らないのが組織というもの。
「しかし遅いな、シンのやつ……」
言ってドアを見た瞬間、それが突然開き、思っていた人物とは違う人物が現れた。
「アスランさん。お久しぶりです」
「ルナマリア?」
相変わらず凛々しさを湛えた雰囲気で彼女は敬礼をとった。
何故君が? そう沸き上がる疑念は次の瞬間に霧散した。
ルナマリアが一度会議室の外に引っ込み、
「ほら、シン! 入りなさいよ!」
そう言ったのだ。
「引っ張るなよ。てか、何でルナまで来るんだよ?」
「あんたがなかなか起きない上に面倒くさいとか言って行こうとしなかったからでしょ!」
アスランは苦笑した。シンは相変わらずのようだ。
やがて背中を押されたのか、前につんのめりながらシンが入室した。彼の背中でドアが閉まる。
寝癖の付いた黒い髪。皺の付いた着崩された赤い軍服。頭をがしがしと掻きながら不貞腐れた表情で、
「用って、何でありますか?」
シンはそう言った。
かつてオーブの慰霊碑でキラの差し出した手を取ったシンだが、それだけで友好関係を築けるほど、人間というものは単純ではない。彼にとってはキラが憎くて憎くて仕方がなかった敵機体のパイロットだということは変わらないし、キラにとっても満足に戦えない状況でシンに猛追され、撃墜されてしまったということは真実だ。
と、いう過程を通ってきた複雑極まりないメンバー。これからどうするべきか。
機会はセッティング出来た。しかし、この無言。片や元上司と役職を前にして畏縮する様子など微塵も表さず不機嫌そうな態度で座る、シン・アスカ。対して穏やかな表情からは一見何を考えているのか分からず、困るとか怒るといった感情を無くしてしまったかのような、不変の表情、キラ・ヤマト。そしてこの場をどう動かせば良いのかと、自分にしては考え足らずだったと自己嫌悪を噛みしめながらなお戸惑う、アスラン・ザラ。
そろそろシンが怒って出ていきそうだと予感した瞬間、読み通り彼の唇が動くーー。しかし、声は全く別の方向から発せられた。
「優しい子だね。君のガールフレンド?」
「「!!」」
本当に唐突に、キラが言った。
「はあ? 何言ってんですか?」
眉間に深い皺を作り、シンが言う。しかし、その言葉はアスラン自身、胸中で呟いたばかりだ。
「赤い軍服ってことは、彼女もエリートなんだね。女の子なのにすごいね」
その言葉に何が引っ掛かったのか、シンが返す。
「それ、ルナが聞いたら怒りますよ。ってか、女だとか、男だとか、そういう事でエリート決めんですか、アンタらは」
文字通り、応戦。それしか当てはまらない鋭い物言い。なおかつ触れれば切れそうな目付き。友好感、まるでなし。
「いや、それはないと思うよ。ところで、僕のガールフレンドも凄いんだ。エリートっていうより、プラントのトップなんだけど」
ーー!?
アスランの預かり知らぬところで会話はどんどん進んでいく。しかし、あらぬ方向へ。何言ってるんだ、キラ? 何の話を始めようとしてるんだ? そんな戸惑いなど挟まる余地もなく、瞬く間にシンが噛みつく。
「アンタの彼女の話なんて聞いてない」
「あ、ごめんね。ラクス・クラインって言うんだけど、君も名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」
「な!? 違う! そういう意味で言ったんじゃない! ラクス・クラインの話なんかどうでもいい! おれが言いたいのはーー」
「君のガールフレンドの話、かな。ルナ、だっけ?」
「ルナって言うな! ルナマリアだ! ルナマリア・ホーク!」
「へえ。でね、ラクスの話に戻るんだけど、彼女、プラント最高評議会の議長に推されてるんだけど、歌手としての活動も続けたい、って言ってて……。責任感が強くて凄く優しいんだけど、やっぱりラクスの体の事、心配で……」
「そんな事っ、ルナだって、お節介で、いっつも口うるさいけど、でも、いつだってそばに居てくれて、誰よりもおれの事……」
何なんだ、これは。一体どうなっている。こんなはずだったか。まるで訳が分からない。事態はアスランの思いもよらない方向にどんどん進んでいく。というか、進んでいると言って良いのか。自分達は進んでいるのか。
「彼女、議長だし歌姫だし皆に優しいけど、僕だけに甘えてくれるところがなんていうか」
「ルナってほんと鬱陶しいけど、でも、時々可愛いところもあるし」
ーー〜〜……!!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
テーブルに叩き付けられた両手が空気を裂いた。アスランは遂に堪えかねて割り込んだ。
「一体何の話をしてるんだ、シンも! キラも!」
機関銃での応酬のようなやり取りをしていた二人が同時にアスランを見る。まるで、あんたが何言ってるんだ、とでも言いかねない表情。間違っているのは俺なのか?
「何って」
「ガールフレンドの話だけど。今日は三人で話をするって、君がそう言って」
「ああ、そうだ。そうだが、さっきから一体何なんだ? ラクスとか、ルナマリアとか、そんな話ばかり。もっとこうーー」
こんな時に自分の口下手が嫌になる。自分の中のもやもやした気持ちを言葉に表す事が満足に出来ないし、そもそも始めに自分が上手くトークの流れを作っていればこんなことにならなかったのかも知れない。
ーーと、いうか……。
アスランは言葉にならない思いを切実な眼差しに込めて、キッと二人を見た。
ああ、そうか。やはり間違っていたのは自分だった。
この二人が、それにプラス自分が、お互いがお互いを理解し、手に手を取り合って連携するなど、初めから無理な話だったのだ。
相変わらずぶっきらぼうなシン。相変わらず柔和なキラ。二人ともが負けん気を全面に押し出し、身を乗り出してアスランに問う。
「ねえ、アスラン。ラクスと、」
「ルナと、」
「どっちが素敵だと思う?」
溜め息を吐いた。
場を沈黙が支配する。
深く息を吸い込んでから、アスランは一息に言い放った。
「どっちでもいいっ!!」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
キラはベタ惚れなイメージ、シンはツンデレなイメージです。アスランがひたすら不憫でなりません。
はやさま、駄文極まりないものですが、捧げさせてください……! リクエスト、ありがとうございました!
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!