SSS
Maria
【Maria】
やけに長いな、と今日は感じた。
伝わるのは慣れ親しんだ温もり。回された腕。近くに在りすぎる彼の顔。
といっても別段嫌悪感などを感じているわけではない。むしろ、抱きしめられるのは大好きだ。それが、他の誰でもなくシン・アスカからであれば、尚更。
ルナマリアは、ただシンに身を預ける。シンの意外と広い胸の中で、その温もりを堪能する。目を閉じて、何の言葉を発することもなく、ただただシンに抱きしめられる。
シンもまた、ルナマリアに全てを委ねる。ルナマリアを抱きしめると同時に自分の全てを、ルナマリアという存在に預けているかのように彼女を抱きしめる。黒い髪を、頭をルナマリアの肩に固定してしまったように動かさない。
「はぁ〜……」
そのポーズのままでシンが長く息を吐いた。なのでルナマリアもその状態のままで(というか動けないので)シンの顔も見ずに話す。
「どうしたの?」
「落ち着く」
心からそう思っているのが、ため息で分かる。声で分かる。だけど、今シンはどんな顔でそう言ったのだろう。微笑んでいるのだろうか。それとも、疲れた顔をしているのか。彼の顔は今、ルナマリアの肩に押し付けられているので分からない。声だけが低く、耳元で囁くように聞こえる。
「……何だよ」
「えっ?何だか可愛いなぁ〜と思って」
ルナマリアの手が、自分の肩に押し付けられたシンの後頭部に伸びて、おもむろに撫で回す。というか、かき回した。抵抗しているつもりなのか、押し付けた頭に力を込めてくる。何やらもごもごと呟く声は、ルナマリアの服に吸収されて酷く聞き取りづらいが、よくよく耳を澄ませてみると、“ちゃんとなでなでしろよ”と聞こえた。
「くぅ〜……」
思わず体が強張る。天を仰ぐ。
「ルナ?」
「何でもないわよ」
それでもシンはルナマリアから離れない。強すぎず、弱すぎず、尚もルナマリアを抱きしめる。
シンに抱きしめられるのはもう数えきれないほどだ。
最初はしがみつくように。二回目は壊れそうなくらい強く。その次は願いを込めたように切なく。それからはもう、何度も。何度も。
シンは何かあるごとにルナマリアを抱きしめる。
以前。こういった事をするのがあり得なかった頃は、ルナマリアから一方的にシンに抱きつくことはあっても、間違ってもシンからルナマリアに触れる、ということは決してなかった。それが、触れあえるような仲になった途端に、シンが悲しい時、嬉しい時、不安な時などに、彼はルナマリアを抱きしめることが多くなった。彼の心情を表すかのように、時には強く、時には優しく。
もしかすると、シンは待っていたのかもしれない。こうして、自分を委ねることが出来る相手が現れることを。もしかすると、シンはずっと我慢していたのかもしれない。怒りのぶつけ場所や、不安の行く先を自分の内だけに押し留めて、荒れ狂わせながら。
そういった時に、ずっと誰かを抱きしめたかったのかもしれない。そして、ずっと誰かに抱きしめてもらいたかったのかもしれない。
「ルナ……」
「……うん」
「……ルナ……!」
頭を肩に押し付ける。顔を服に埋める。細いけどルナマリアよりは太くてしっかりした腕が、ルナマリアの背中でぎゅっと力を込める。
シン・アスカに抱きしめてもらえる人間になれたことに嬉しさを感じながら、ルナマリアは固く誓った。
「シン……」
この子を絶対に守り続けよう、と。
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