秋冬春夏(完結)
13
翌朝、珍しく純より早く起きたキヨカズは、鼻唄混じりにコーヒーをいれていた。
「ご機嫌だね」
コーヒーの匂いに誘われて布団を抜け出した純は呆れ気味に後ろから声をかけた。
「村上教のご利益だよ」
振り向いたキヨカズは思わず笑った。
「イケメンが台無しだぞ」
寝癖とくまで酷い顔だ。
「嫌いになった?」
頭を掻きながら問う姿は幻滅してくれと言わんばかりだが、こんな姿を見られるのは目下自分だけなのだ。
「ありがたいお姿です」
頬に手をあて、親指で目尻を擦る。
片目を細めた表情が妙にとぼけてかわいい。
いや、こんな美男を捕まえてかわいいというのはやはり適切ではない。この男をかっこいいと思っている皆様に失礼だろう。
よくよく顔を見てみる。クマさえなければ完璧だ。むしろクマが無ければ完璧すぎてPhotoshopで加工してるんじゃないかと思うほどだ。
どうしてこんな男が自分のものなのかね。
そう考えると不思議でならない。
「朝ご飯食べる?」
純は首を傾げた。
「ダメかも」
二日酔いなのかと思ったが、二日酔いになるほど甘いアルコール分解力ではない。
以前、なんの機会かほぼ一日中飲んだことがあったが、その翌朝もけろっとしていた。
「気分が盛り上がってきてしまった」
キヨカズは思わず、は?と聞き返した。
「清一に食べられたい」
咳払いのあと、もう一度聞き返す。
「食べられたい」
やはり聞き間違いではなかったようだ。
「とりあえず、寝室にいこうか……」
「もう無理」
頬にあてられた手から伝うように傍に寄り、キスをする。
「昨日の飲み会中、ヤバかったんだよね」
舐めるようなキスを繰り返しながら、ベタベタと触られる。
「珍しいね……」
異常に盛りのついた相手に狼狽えつつも、すっかり火の点いた清一は、ニヤリと笑った。
「おねだりしてよ」
純は固まった。
ややしばらくの沈黙のあと、微笑む。
「おねがい」
普段他人に魔法をかけている笑顔に、それじゃないなと不満になる。
「不合格」
「足りない?」
「いや」
もっと乱れたやつが聞きたい。
耳元で囁き、清一は純をベッドに連行した。
「もっと煽ってよ」
「充分煽られてるだろ」
純を押し倒し、細い脚に股間を擦り付ける。煽られて完全に臨戦態勢なことはおそらく純にもバレバレだ。
ただ、言葉ほど冷たくされず、むしろ純は両手で清一の顔を押さえキスを重ねた。
「しょういち」
清一と呼ばれるのにもずいぶん慣れた。先程のように、抱き合ってなくても呼ばれることすらある。
キスを繰り返すうち純の方が焦れて、腰を押し付けてくる。
「ねえ」
「なに?」
「我慢できない」
早く繋がりたい。
ねえ、とキスの合間に囁かれ、いよいよ我慢の限界だった。
「合格」
敗けを認めて下着ごと寝巻きを剥ぐ。
「そう焦りなさるな」
焦らずとも、興奮は冷めやしないんだから。
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