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秋冬春夏(完結)
6
キヨカズの言うには、仕事スイッチが入ると別人になる、とのことだ。
純は手帳を眺めた。
真っ黒に埋まっており、もっときれいに書かなければと思う。

「小会議室で」

後輩がそう声を掛ける。立ち上がって、薄っぺらい資料をとった。
とにかく打ち合わせが好きな会社だ。そして序列には厳しい。序列というより、先輩は後輩に厳しい。
ただ、言いたいことを言ってもそこそこに許される。
働きやすくもあるが、裏腹な部分が面倒なときもある。

ほとんどの業務を一緒に行う後輩が業務の進捗を報告していた。少々日本語がおかしかったが、上司に微笑みかけてごまかしておいた。
ただの進捗報告会なので、すぐに済んだ。が、最後に毎度のお誘いがついてくる。

「◯◯ビルのレストランがオープンするので、調査を兼ねて行きましょう」

そう提案した女性が新し物好きだからではなく、競合する他社の調査名目だ。
そのビルの隣のビルは自分の担当だし、情報は持っているとはいえ実際に行ってみなければなるまい。

会議室から自席へ戻る。このあと、外出して客先で打ち合わせだ。

「5時半に出れば間に合いますよね」

仕事上のパートナーである後輩が、嫌みのない笑顔で聞いてきた。

「そうだね」

隣の後輩に微笑み返したのだが、どうしてか後輩の斜向かいの席の女性が顔をそらした。女性の隣のおじさんが、笑う。
そんなことは純にとって、日常の風景であり取るに足りないことだ。視界に入っていたが、無視する。

仕事中は余計なことを考えなくていいから好きだ。
イメージのなかに入り込んでしまうこともない。
ただやりたいように、決断すればいい。

後輩は酔うとそんな自分を尊敬していると言うが、いくら酔ってもそんなことは言ってほしくない。
尊敬に値するほど徳の高いことはしていないと思う。

電話を掛けたり軽い打ち合わせをしているうちに外出の時間となり、席を立つ。
外はすっかり暗くなっていた。



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あきゅろす。
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