秋冬春夏(完結) 3 出勤していたらしい石原がタイミングよく合流し、いつもの店に入る。 こんばんは、と元気よく扉をあけた石原越しに、キヨカズの曇った顔が見えた。 「いらっしゃいませ」 すぐにこちらを向いたキヨカズはいつも通りの店主の顔だった。 見間違いだったのかもしれない。 店には一人だけ客がいた。 しばらく黙って酒を飲んでいたが、もう一組客が入ってきたタイミングで席を立った。 その人が出ていくときなんとなく顔をあげると、目が合った。 咄嗟に逸らせずに居ると、きつく睨み付けられた。 まあ、見ていたこちらが悪い。 軽く頭を下げて見せたものの、相手は最後まで睨み付けてきていた。 「嫌な感じでしたね」 守山に声をかけられて我に帰る。曖昧に返事をした。 「久我さん、惚れられちゃったんじゃありませんか」 惚れてあんなに睨むかよと守山に小突かれ、石原は舌を出した。 この二人を見ていると心がなごむ。 だから今日も守山の誘いに乗ったのかもしれない。 久我は無意識に微笑んでいた。 土曜は閉店も早い。それを知ってか、客がはけるもの早かった。 「大丈夫?」 石原の助けを求めるような視線に誘われて、店主は彼らの席に近づいた。他に客も残っていない。 久我が突っ伏している。 「久々に居眠りしてるところ見ました」 と石原は言ったが、話し相手がいて眠ってしまったのは店主も見たことがない。 いつもは一人でいるから寝るだけだ。 「お客さん、大丈夫ですか?」 一応店主らしく声をかけ肩を叩いてみたものの反応はなかった。 「まあ、俺が連れて帰るから」 ため息混じりにそう言うと、石原は安心したようだった。 彼らが席を立ったのに気が付いて、久我は顔をあげた。 「僕も帰る」 フラフラと立ち上がって、出ていく。 守山と石原は顔を見合わせた。 石原が久我を追いかけて出ていって、守山が会計をした。 「あの人の分はツケておくから」 さすがの店主も驚いていて、そう言うのがやっとだ。 「店長さん」 お釣りを受け取って、守山が店主と目を合わせた。 初めて正面からちゃんと顔を見た。瞳がはっきりしていて、意思が強そうな顔だと思う。 「悩んでるみたいですよ、久我さん」 店主は呆れとも不愉快ともとれない複雑な顔をした。 「自分の独占欲を受け入れられなくて混乱している感じです」 そのように言われたわけではないと付け足して、微笑んだ。 本当に守山はよく見ている。しかもそれを言葉に出来ると言うのは羨ましい能力だった。 「ありがとう」 中途半端な笑顔になってしまった自覚があった。 それを守山は警戒心の現れと取ったらしい。 「俺はただの話し相手ですよ」 ご心配なく、と言い残し、守山は出ていった。 ドアが開いたとき、微かに久我さんと呼ぶ石原の声が聞こえた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |