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秋冬春夏(完結)
20
翌日、昨日よりも遅く現れたキヨカズは手が真っ黒だった。

なにそれ。

さすがに異常に感じて聞くと、照れたように笑い、部活の手伝いだよ、と返事をくれた。
そういえば彼が何部なのか知らなかった。ただ、手が真っ黒になる部活なんてそうバリエーションはない。

書道部?
書画部。

手伝いと言うのはもう引退しているからだろうか。

その辺の貼り紙とか、年始に張り替えるから、書き直すんだよ。

確かに無駄に達筆な貼り紙があちらこちらに貼ってあった。
廊下は走らないとか、禁煙とか、土足禁止とかだ。

あれってお前が書いてたの?

本当にもったいないくらいの達筆で、と言うか去年貼ってあったものは読めないほどだった。
そのあとのキヨカズの説明によると、書画部と言いつつ絵画専門の部員が3人と書画が好きなだけの顧問とキヨカズくらいしか活動しているものが居ないらしい。
だから専ら書くのはキヨカズだそうだ。

文化祭の看板とか?
それも書いたね。
もしかして卒業証書も?
卒業証書授与式の看板は書いたよ。

卒業式入学式は運動部が会場整理を手伝っていて、純は今年校門の前に立つ係だった。
大抵看板の前で写真を撮る人がいて、父母がすごく上手い先生がいるのねなんて看板の文字について口々に言っているのを聞いた。
そのときは校内の達筆な貼り紙にすっかり慣れていて、誰か先生が書いているんだろうと思っていた。
まさか目の前の同級生が書いているとは思いもしなかった。

すごいね。

素直に感動したのだが、キヨカズは首を傾げた。

お前の曲がる球に比べたらな。

純は一瞬きょとんとしたものの、吹き出した。
いつかのドッジボールのときだ。キヨカズがヒラヒラと逃げ回るので、上手く行くとも思わなかったがとりあえずハンドボールでするように球に回転をかけた。床に跳ねて、軌道が変わる。
後ろに跳ねていったと思ったのにズシッと当たったから、本人はもちろん周囲も驚いていた。ただ、一度床に跳ねて当たったところで意味はないのだが。

あんなのちょっと練習すればできるよ。
文字なんて誰でも書けるじゃないか。

キヨカズが折れなさそうだったので、純は続けなかった。
机の上を片付ける。

今日はもう帰るの?

純は首を傾げた。

なんとなく、飽きたから。

しれっと言った純に、キヨカズが苦笑いする。
その日はどこかに寄り道して帰った。たい焼きかなにかを、食べさせられたような気もした。

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