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秋冬春夏(完結)
9
キヨカズに恋人が居たんだ。確か。
飲もうよと呼び出されて、指定された店に行ってみると彼は外で誰かとケンカしてた。

ケンカといっても一方的に責められて、一方的に暴力を振るわれていた。
近づけもせず足を止めると、見られているのに気が付いて、ケンカの相手がこちらを見た。
一瞬の間があって、捨て台詞を吐いて相手が去っていく。
それを見届けて近付いていくと、キヨカズは顔を逸らせた。
唇が切れていた。
ハンカチを差し出しつつ、聞こえてきていた相手の言葉を振り返る。

もういいとはなんだ。
あっさりしすぎてるんじゃないか。
もっと未練見せろよ。
あいつをあんなに悩ませといて。
お前の恋人なんてそんなものか。

いまいち状況はわからなかったが、痴情のもつれのようだった。

キヨカズは黙って純が出したハンカチを受けとり、ありがとうと呟くようにいった。

暗い声。
聞いたこともないくらい、暗い声だった。

どこかで座ろうよと、近くの狭い公園のベンチに連れていって、座らせた。
キヨカズは黙って従いながら、俯いていた。

ぎり、と歯を食い縛る音が聞こえて顔を覗く。

細められた目はどこかを見つめていた。
横顔から目を離せず、純は黙って見つめていた。

見ているだけで、ぞくりとする。
無意識に、唾を飲み込んだ。
ぼそりと、闇でも吐き出すような声。

どうしたらいい。

純は黙っていた。
と言うより、返事を考えている間に聞こえた次の言葉に、なにも言えなくなったのだ。

死んでしまいたい。

すでに切れている唇の端を噛んで、また血が出た。

そんな下らないことで傷付かれるくらいなら。

必死に考えたがいまいち分からなかった。
その時は分からなかったが、今思えば恐らく、本人ではなく他人に暴力を振るわせるくらい誰かを傷付けたとして、そんな自分を責めていたんだろう。

死んでしまいたい、というより、自分を殺してやりたいと言いたかったんだろう。

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あきゅろす。
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