秋冬春夏(完結)
4
「出社しててよかったですねって」
笑い事か、とキヨカズに叱られながらも、純は笑っていた。
「一人だったら死んでましたよって、今更そんなこと言われてもね」
キヨカズはため息をついて見せた。
神に感謝しろってことかなぁ。
純の呟きに、ひとつ思い付く。
「神より先に松田氏に感謝しなさい」
確かに松田の活躍によりキヨカズと連絡がとれ、穏やかに入院できているというものだ。
「電話したよ」
「よくできました」
純が医師から聞いた話によると、非常に危険な病気だったようだ。
ただ、本人は早々に意識を失っていたので、全く覚えていないらしい。
処置が早くできたために無事だったが、キヨカズの調べによると死んでもおかしくない病気のようだった。
あっけらかんとしているものの、むくんでいて顔色も良くないので不気味ではある。
「君は他人に心配をかけた自覚がないのかい?」
白い目で見られても、純はへらへら笑っていた。
「生きてるんだし、いいじゃない」
それは間違いなくそうだ。
だが腑に落ちない。
しかし相手にこの腑に落ちない感覚は伝わるまい。キヨカズは視点を変えることにした。
「生きててよかった?」
まさか、自分じゃあるまいし。
純はきょとんとした。
「この前、愛の告白をしたばかりだから、未練はたっぷりあるよ」
ほんとに生きててよかった。
まだまだこれからだもん。
純はぶつぶつ呟いていた。
なにがこれからなのかは聞かずに、キヨカズは出ていった。
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