秋冬春夏(完結)
3
無理して仕事しないタイプだから、具合が悪きゃ帰ってるだろう。
そんなことを考えながら、店を開ける。
満席になることもなく、アルバイトも早めに帰した。
頭の片隅でずっと純のことを考えていた。
店を閉め、携帯を見ても音沙汰ない。
帰れば居るだろう。
灯りがついてない。鍵をあけて入ってみるが、靴がない。
いよいよおかしな感じがする。
また携帯を見る。
連絡はない。
電話をしてみようか。
でも忙しいなら迷惑だろう。
連絡してないことを忘れているのかもしれない。
着信さえあれば、思い出すだろう。
リビングに落ち着いてから、電話を掛けた。
一日連絡がないくらいで焦らなくても。
大人だから。
また飲まされてるだけかもしれないし。
出ないな。
切ろうと思ったところで、つながる。
「もしもし?」
あれ?
「間違えましたか?」
「く、久我さんの電話です!」
知らない声だ。同僚だろうか。
妙に焦った相手は松田と名乗った。
聞いたことがあるような。部下だっけ。
松田がしどろもどろに言うところによると。
「倒れた?」
連絡するべき家族も自宅もわからないのでとりあえず、誰かから電話がかかってくるのを彼が待っていたらしい。
仕方ない。
「わりと身近なんで、引き取ります」
どうやら彼は会社にいて、電話も荷物も
そこにあるらしい。
「すぐ行けるんで、待っててもらえますか」
もう電車もないんだろう。
部下ってのは大変だな。
身支度して大通りでタクシーを拾う。
ほんの数分で着いた彼の職場の前で、挙動不審な若者を見つけた。
声をかけると絵に描いたようにキラキラする。
どこの病院にいるとか、身近な人がつかまってよかったとか。
そんな説明には努めて平坦に対応し、
「帰れますか?」
と一応の気遣いを見せてみた。
「上司がチケットくれたんで!」
タクシーチケットね。
大企業は違うな。
朝になってから病院に連絡することにして、キヨカズは歩き出した。
まさかそんなことになっているとは。
これからは緊急連絡先にしておいてもらおうかな、などと考えながら、夜中のオフィス街を歩く。
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