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秋冬春夏(完結)
ハロウィン


珍しく22時を過ぎてから、守山がひとりで店に来た。
注文を取りがてら聞くと、何かの準備で残業したという。ついでに彼は、久我さん来てくれるって、と嬉しそうに言った。
ちょうど守山にビールを届けるとき、久我がやってきた。

「今日はスーツじゃないんですね」

守山に言われ、久我がいたずらっぽく微笑む。

「ハロウィンだから、仮装してきたんだよ」

いたって普通の、どこにでもありそうな革のライダースジャケット姿なのだが。
キョトンとした守山に対して、店主は笑顔をひきつらせた。

仮装のことは忘れたように別の話で盛り上がり、久我と守山は最後の客になった。
明日も仕事があるので出る準備はしながらも、仮装の話にたち戻る。おそらく守山は、先ほどの店主の反応で関係があることを察していたのだろう。

「それって何の仮装なんですか」

テーブルを片付け始めた久我は、ものすごく楽しそうな、もとい人が悪そうな笑顔を浮かべた。

が、そのまま答えない。

沈黙に耐えかねて、店主が回答する。

「俺の服着てんだよ」

守山はポカンと口をあけたまま、視線を何度も往復させた。

「ダメそれ。わかんない」

と、盛大なため息を吐く。

守山が分からない理由はいくつかある。
まずは店主が店に居ないときの服装をあまり見たことがないこと。
そして、久我が普段からとにかく一貫性に欠ける服選びをしていること。
ある日はモードっぽく、ある日はスポーツカジュアルぽく。少しビジュアル系っぽい日もある。派手な柄の日もあるし、シンプルに何の変哲もない無地のシャツだけの日もある。
そんな久我がどんな格好をしても「そういうのも着るんだ」で済んでしまう。しかもどれも似合うから違和感がない。
いっそ着ぐるみでも着てくれないと、仮装とは思えない。

言葉に詰まった守山がようやく発言したのは、

「地味ハロウィンて、ツイッターで盛り上がってましたね」

という関係ありそうでいて全然ない、どうでもいい一言だった。

「僕の仮装は地味だけど完璧だよ」

久我はそう言ってズボンの裾をあげて見せた。

「お前な、靴下まで履くか?」

呆れ果てた様子の店主に対しては、守山も苦笑をしてみせた。

それにさらに追い討ちをかけるように、久我が艶然と微笑む。

「下着もお借りしました」

若干の空白ののち、店主ががくりとしゃがみこんだ。

「バカヤロウ」

もう守山もなにも言えず、店主の腹の底から出てきたようなバカヤロウに内心で激しく同意することしかできなかった。

そして、ずっと頭に浮かんでいた一言は、言わないまま二人と別れた。
ひとり夜道を歩きながら、ようやく口に出してみる。

「仲、良すぎ」

石原に告げ口するため、スマホを取り出したのだった。


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