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秋冬春夏(完結)
はじめて編9
シャワーを浴びてベッドに横になり、清一は酔いが覚めないうちに囁いた。

「純さん」

純は思わず吹き出しそうになったのを堪えた。
今度はどんなお願いかと内心ワクワクしているのを気取られぬよう、あえて清一の方を向かなかった。

「なあに」

目を瞑ったまま返事をする。
清一は少々間をおいた。言葉を選んでいるのか、言うかどうか迷っているのか。

やがて深い呼吸のあと、

「セックスしたいんですが」

と続けた。
さらに弱く、

「どうでしょうか」

と。

これは純にとって想定外だった。
今思えば彼はちゃんとした同性愛者なので、男同士だというハードルはすでに乗り越えている。
だから、セックス、という直接的な交わりが手近にある。

なるほど。
と思ったものの、答えを出せなかった。



スルーされた

3日経って、清一は耐えきれずトモにメールを送った。
セックスしたいといったら、うんともすんとも返事がない。

狼の本能出しなさいよ

と返事が来たが、正直本能なんて迷路のどこかに置き忘れて、手元にない。
困っているとさらに、

アタシ相手なら黙って押し倒してたでしょうよ

と来る。
確かにそういうところもあったな。
誰に言われたかは覚えてないが、押し倒して始めるわりに内容が丁寧すぎて気味が悪い、と言われたこともある。

何が違うのか考えてみると、純との違いは明らかだ。今までの相手は9割9分セックスが目的のお付き合いだから。

清一はため息をついた。

返事を考えてるのか、はぐらかそうとしているのか。
前者なら待った方がいいんだろうが、後者だったら催促なのか撤回なのかしなくてはなるまい。

押し倒して嫌われないだろうか

胸のうちを正直にトモに伝えると、即座に返事が来た。

押し倒して嫌われたら、それまでのあんたの誠意が足りなかったと思いなさい

たまにまともなこと言うんだよな。
清一は素直に、ありがとうと返信した。


対して純は、ひとりで悶々と悩んでいた。

返事ができるほどの知識がない。
気持ちとしてはいいよと言いたいのだが、無知が過ぎる。そんなの、清一に失礼な気がする。
彼なりの誠意をもって、今まで小出しにしてきたのだろうし。

どうやったら清一に失礼なく返事ができるのか分からず悩んだ末に、ネットで調べてみた。
その結果、漫画を買った。
少々古い漫画のようで、最寄りの本屋にはなかった。それでも取り付かれたように読みたくて、仕事終わりにわざわざ探しに出掛けたりした。結局手に入れたのは土曜になってからだった。
日が暮れる前には帰宅して、食事もそこそこに漫画を読んだ。
漫画を読むのがずいぶん久しぶりだということを思い出す。不馴れだと漫画って読みづらいのだなという感想が何より先にたった。
やっと読み終わって、なるほどねと呟く。普通に面白かったが、セックスのことは書いてなかった。

目を閉じて、過去を振り返る。
男子校に入ったせいか、男性に好意を打ち明けられたことが何度かあったが、気味が悪いとは思わなかった。むしろ、女性に告白された時より落ち着いていたくらいだった。
それが関係あるかどうか分からないが、この漫画に描かれていた同性愛者への偏見のようなものが、そして当人やその家族が偏見を恐れているということに、今更気が付いた。
自分の感覚の方が少数派とすると、清一は純が思っていた以上に苦労していたんだろう。先日の遊び人風情の話だって、彼にとってはある種の防衛手段なのかもしれないが、そんなネガティブさは全く感じさせない。飄々としていて、ふざけて見せていても誠実だから人に好かれる。
とんでもなく感じのいい人間なのだ。優しくて、いや、とにかく優しい。
そんなことを思っているうちに、先週清一の言葉に返事をしなかった不義理が気になってくる。

とにかく早く返事をしなくては。
清一が帰るまで、その漫画を何度も読んだ。
読みながら、なんと返事をしたらいいか考えていた。

そのうちに清一が帰ってくる。

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