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秋冬春夏(完結)
はじめて編5
「アンタねえ」

日曜、トモに呼び出されてのこのこ出ていくと、純とのコミュニケーションについてコテンパンに叱られた。

「アタシの狼ちゃんはどこいっちゃったのかしら」

綺麗に整えられた自分の爪を見ながら、ため息をつく。

「いままでアンタに夢中になった奴らが幻滅してるわよ」
「そんなやつら居ないだろ」

即座に返すと、トモははっと清一を振り返った。

「あんなに取り合いされてたじゃない」
「いつのことだよやめてくれよ」

惨めにフラれた思い出はいくらもあるが、取り合いされたなんて身に覚えがない。
それに清一は自分の容姿が、その道の人たちにモテる王道から少々外れていることを自覚している。

トモはしばし固まっていたが、やがて心底あきれたようなため息が聞こえた。

「執着ないって怖いわ」

いい?
と、トモは身を乗り出して、清一がいかにモテていたか実例を挙げ始めた。
言われてみればそんなこともあったかな、という感じだった。

そして締めくくりに、ビシリと人差し指を突きつけられる。

「アンタほど顔がよくて、セックスができる奴なんて、他に会ったことないんだかんね!」

誉められた気がしたが、別に嬉しくもなんともない。
それより今は、純の迷路から抜け出したいのだ。



叱られたものの悪い気はせず、言われたことなどほとんど忘れて家に帰った。
純に会いたかった。

家に帰ると純はまだ起きていて、食卓でビールを飲んでいた。

「おかえり」

缶ビールが何本も目の前においてあって、結構な時間をそのまま過ごしているようだ。

純はおとなしい顔に似合わないほどの酒飲みで、淡々と飲み続ける。
先日の旅行でもずいぶん飲んでいた。
付き合いは長いが何日もずっと一緒にいる機会なんてさすがになかったので、その姿は新鮮だったし面白かった。

「はやかったね」

少しだけとろんとした視線が、美貌を可愛らしく見せた。
純の向かいの席につく。

「僕が寝るまで帰ってこないかと思った」

前回トモに会ったときはそうだったから、同じと思ったのだろう。
清一は苦笑いをして見せた。

「ビール飲む?」

純の軽い誘いに

「いや、飲んできたから」

と応える。
すると、ふん、とそっぽを向かれてしまった。
珍しく拗ねている。

「せっかく一緒に飲んでくれる人ができたと思ったのに」

付き合ってくれないんだもんな。


純の呟きに、一時、フリーズする。

そして、自分が思っていた同居と彼が思っていた同居の食い違いに気づく。

清一は純の缶ビールを取り上げて、顔を覗き込んだ。

「寂しかったの?」

アルコールでわずかに紅潮した純の白い頬が、さらに赤くなった、ような気がした。

「……まあ、そう」

そうです。

しゅん、とショボくれた純は、とにかく可愛かった。
こんなに可愛い奴を相手に、一筋にならずにいられるかと、トモの不満顔を思い出す。

「そう言ってくれよ」

純は困ったように笑って見せた。

「キヨカズにはキヨカズの生活があるんだと思って」

確かに一緒に暮らし始めて、純が定時出社のサラリーマンだとよくわかった。自分と生活の時間が合わないこともわかった。

そして、高校時代に家を出てからずっと独り暮らしで、共同生活のやり方がわからなくなっていたことにも気が付く。
考えてみれば、同じ家に住んでいるのにそれぞれ一人暮らしのような生活では、もったいない。

清一は素直に反省し、是正を試みる。

「では一杯いただきます」
「そうこなくちゃ」

純は素早く新しいビールを冷蔵庫から出してきて、清一が取り上げたものと交換した。

彼が台所に近い席に就きたがるのは、冷蔵庫が近いからだ。今分かった。

純は、プルタブを開けた清一に

「ありがとう」

と、嬉しそうに微笑みかけた。

その微笑みから目が離せなかった。
まるで魔法にでもかけられたようだった。

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