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秋冬春夏(完結)
4※
肩を掴み、純の体を反転させる。
逃げられないように腰を押し付けて、冷蔵庫にはりつけにする。
片手で顎を捉えた。

驚いているのか怯えているのか、純は胸で大きく呼吸をしていた。
呼吸の合間にごくりと唾を飲み込んだ。
白い喉が、上下する。
顎を掴んだ手を、喉に滑らせた。

純はひっ、と息を飲み無意識に、すがるようにキヨカズの体に触れた。

「キヨカズ、っ……」

もはやすべての挙動がキヨカズを煽っていることを、純は知るよしもない。

キヨカズは強引に唇を奪った。
噛みつくようなキス。
食われるんじゃないかと思うほど激しい。
純はされるがままにしていた。

キヨカズの熱がじわじわと自分に移って来るにつれ、怯えや驚きは違う感覚に変わった。
キヨカズが側にいることを意識すればするほど、胸がつまる。
言うに言えない一言が、言葉以外で溢れだしてくるようだ。

純の唇から溢れた唾液をキヨカズが啜る。
吐息すら逃さないほど激しい口付けだ。
涙も流れてきていた。
逃げるように顔を反らし、胸一杯に息を吸う。

「純」

何度呼んでも、

「……キヨカズ」

何度呼ばれても、収まる気がしない。

強引に、純の体を引きずるように、寝室に連れていく。
純を抱き締めたままベッドに倒れ込む。

馬乗りになって、今度は両手で顔を押さえ、またキスをする。
キヨカズが立てる水音とともに、純のか細い呻き声が漏れる。
その声がさらにキヨカズを煽り立てていた。

焦れたあまりに純の唇を噛んでしまったが、省みずに貪り続ける。
キスはやめないまま、純の衣服に手をかける。
性急にズボンのボタンを跳ねて、むしるように下ろす。

「き、キヨカズっ、ま、て……」

仰向けの純の体を強引に転がして俯けにさせる。
枕に頭を押さえ付けられ、抗議の隙もない。
長い手を伸ばし、ヘッドボードに置いてあった純のハンドクリームを掴んだ。
キャップを開け、露になった純の肌に塗りつける。

「ひぃっ!?」

純の悲鳴は枕に吸い込まれた。
キヨカズの指はハンドクリームをすくい、純の尻にぐっと押し込まれる。

「んんんぅっ!」

卑猥な音が耳に届き、あとは肌に触れる感覚のみが、自分の状況を教えてくれる。

どこでキヨカズに火を着けてしまったのか、はっきりとは分からない。

一因が、キッチンに向かうときに手を離したことだろうというのは純にも想像できた。
今までベッドを先に抜けただけでここまで荒れたことはなかったが、他の理由は思い浮かばない。

ただ、一方的な暴力とも思われる今の状況が、全く嫌な訳ではない。
背筋がぞくぞくする。
支配されている感じがする。

「うっ……あ……」

予告もなく、肩をベッドに押さえ付けられたまま、キヨカズが中に入ってくる。

純の声は枕に吸い込まれるだけだ。

普段から頻繁にセックスをする訳ではない。するにしても、キヨカズは、見習いたいほど丁寧に準備をする。
彼から学んだテクニックを他に活かすことなど想像もできないが、とにかくそのくらいご丁寧なのだ。

それに比べたら今日の行為は暴力と呼んでも間違いではない。
だから、痛い。

「いっ、いた……い」

痛いのに、痛みが苦しいくらい相手の存在を意識させる。深く繋がっている充足感で、破裂しそうなくらい、幸せだった。

「キヨカズ……キヨカズ……」

純の耳元に顔を埋めたキヨカズは、ただ短く呼吸をし、強く腰を打ち付けた。
時折息を詰まらせる。

「き……す」

呼ばれたのかと思ったが、顔を擦り寄せられた気がして聞き返す。

「なに?」
「キスして……」

濡れた唇、蕩けた瞳。

「煽ってくれやがる」

乱暴に吐き捨て、また噛みつくようなキスをする。
純が喉の奥から発する、快感を含んだ吐息のような声が、キヨカズをますます膨張させた。
押さえ付けて自由を奪い、楔を打つように無理やり繋がった。
それでも足りなくて、呼吸すら支配するように口付けても、まだ足りない。

どうすれば自分のものになるだろうか。

支配したい所有したい。
体も、声も、感情も。

布団を掴む長い指を、手を伸ばして絡めとる。すぐに強く掴まれた。短い爪が皮膚に食い込むほど。

痛みなんか感じなかった。ただ爪の先からジリジリと、熱が生まれるだけだ。
乱暴を働いている罪悪感など忘れてしまった。

唇を離すと、抑えが利かずに壊れたように何度も名前を呼んだ。

「純っ……」

純が悲鳴のような声をあげた。
全身が強ばって、震えている。

「きっ、キヨカ、ズ……」

絶え絶えに呼び掛けながら、顔を擦り寄せてくる。

「なに」

短い返事には、キヨカズの余裕のなさが滲んでいた。
ぜいぜいと肩で息をする合間に、途切れ途切れに純が懇願する。

……僕を、キヨカズのものにして。

そう言われてもやり方が分からないのに。

恐ろしくなったキヨカズは、ごまかすようにさらに強く腰を打ち付けた。
自分を翻弄する口を手で塞ぎ、目尻に浮かんだ涙を舌ですくう。

「純……」

やがて純はきつく目を瞑り、歯を食い縛ったまま喉の奥から叫んだ。
体が痙攣する。

キヨカズもそれに合わせたように、純に欲望をぶちまけた。

汗ばんだ肌がピタリと張り付いていた。
純はうっとりと蕩けた視線を枕に落とした。

キヨカズの指の隙間から、かすれた声で呼び掛ける。

返事の代わりに口を押さえていた手を離し、優しいキスをくれる。

ずいぶん乱暴だったけれど、キヨカズが気持ちを解放できたならそれでよかった。
いつも通りの穏やかな視線を受けて、体の力が抜けた。

ゆっくり呼吸を繰り返すうち、お互いが同期して、溶け合うようだった。

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