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秋冬春夏(完結)
はじめて編2
携帯にメールが来ていて、げんなりする。
送り主は先日上の空で不興を買った、ずいぶん長く続いているセックスフレンドだ。
トモという。
お互い男同士のそれに慣れていて、相手への尽くし方が分かっている。教えることがなにもないのが楽なのよと、彼は伸ばした髪を指先で弄びながら言っていた。
全く同感で、彼とのセックスは好きだった。
だが、純と暮らすようになってからというもの、性欲そのものをどこかに忘れてきたようなのだ。

とは言え、全く触れたくないわけではない。

旅の非日常の勢いでキスをしてみて以来、なにもできないでいる。

本当に、きれいにスルーされた。
文句も言われなかった。

スルーするほど嫌だったのか、どうでもよかったのか。

トモからは茶化すようなメールが毎日のように来る。
同居の彼とはどう、とか、手くらい握れたの、とか。

うるせえ。
と返す気力もそろそろ無くなってきた。

おそらく今までの関係を惜しく思っていて、清一が同居の彼一筋になるのは寂しいのだろう。

ため息を吐きつつ、家路を歩く。

一筋になりたいのか、なりたくないのか。
本当に純とセックスしたいのか、どうか。

出口のない迷路だと思う。

自問自答しながらの短い家路はさらに短く感じた。


「おかえり」

扉の前に純がいた。
当然だがビックリして、固まる。

「ただいま」

狼狽えながらも答えた清一の腕を、純が掴む。

「来てよ」

どうしてこんなにご機嫌なのか。
気味悪く思っているうちに寝室に連れていかれた。

「じゃーん」

ベッドが届きました。

清一は思い出した。
先日、布団の上げ下げをしないことを怒られた。純はその日のうちにベッドを買いに出掛けた。

同じ形、同じサイズのベッドが二つ並んでいる。布団や枕も準備済みだ。

「少し狭くなったけど、いいでしょ」
「ああ」

なんだか夫婦の寝室みたいだ。

と、恥ずかしく思っているのはどうやら自分だけらしい。
純はただ、新しいベッドに浮かれているようだ。

「これ、くっつけてもいけるんだって」

ほら、と純はずるずるベッドをくっつけた。
確かに、なんとなくぴったりして、違和感なく寝られそうな感じもする。

「真ん中でも意外といけるんじゃない」

純は無邪気に寝そべった。

「境目もいけるよ!」
「どれ」

無邪気に相乗りして、真ん中に寝そべってみる。

「これはいけるな」
「横にも寝られる?」
「さすがに無理だろ」

清一もそのうち楽しくなって、ベッドの上で純と二人、ごろごろした。

やがて純は、片側のベッドに体を落ち着かせて、布団を被った。

「おやすみ」

そこそこ遅い時間ではあるが、そのままおやすみになるか?

清一は狼狽えていた。
だってベッドがくっついたままなのだから。

手を握るどころか、なぜ先に同じ布団に寝る段階がやってくるのか。

悶々として、清一は純の顔を覗き込むように、四つ這いになる。

「純」

冗談でなく寝るつもりだったらしい純は、薄く目を開けた。

「なに?」

覗き込まれていてビックリしたのか、目をぱちぱちさせる。

しばらく膠着状態となった。

ごくり。
意を決して、唾を飲み込む。

「キスしてもいいですか」

決心の成果はずいぶん小さな声だった。
情けなくなる。

「いいよ」

想像以上の即答に、聞こえてなかったんじゃないかと思う。

いや、聞こえてた。
間違いない。
ならば目を瞑るくらいしてくれないかな。

そんなことを考えながら、とにかく一度、そっと唇を重ねた。

特に手入れをしている風でもないが、ガサガサではない。
パッと見、薄い唇だが、やわらかい。

清一はまたごくりと喉をならした。
目が合う。

もう一度。

それでも純は目を瞑らない。

緊張なのか、興奮なのか、ドキドキする。

振り切るように、目を瞑って、今度は啄むようにキスをする。

ちゅ。

音を立てて唇を離す。

大きなため息をついた清一を、純がじっと見上げていた。



純は清一から目が離せなかった。

緊張しているのか、薄い唇が微かに震えている。

いち。

1回でやめるのかと思った。

に。

さっきより長かった。

唇が触れるだけなのに、ぞわぞわする。

さん。

わざとなのか、ちゅ、と音をたてた。

唇が離れるとき、少し、名残惜しいような気がした。

次はなかった。
清一が、大きなため息をつく。

キスってすごいんだな。
純は感動した。

したいと思う気持ちがわかった気がした。

「なるほどね」

自然と漏れた呟きに、清一は目を細めた。

「なにそれ?」
「いや、べつに」

清一が追求してこないので説明しなかったが、傷つけていたらどうしよう。
言い訳しようかな、と思う間に、清一は寝室を出ていった。

なんとも気持ち悪いもやもやを抱えたまま、純は布団をかぶった。

寝間着に着替えて戻ってきた清一が隣に横になる。
とりあえずこのベッドに寝てくれたし、いいかな。
そう思うと気が楽になって、純はすぐ眠りに就いた。



対する清一は、寝付くまでにずいぶんな時間を要した。
さっきのキスで高まってしまって、寝られる気分じゃない。
ただ、なんとなく隣に横になってやらないと、ベッドを調達してご満悦な純の気分を損ねるだろうと思って戻ってきた。
仰向けになった純の横顔を眺めて、眠気を待つ。

綺麗だな。

なんでこんなに綺麗な生き物が、自分の隣で寝ているんだろう。

俺はこの綺麗な生き物とどうなりたいんだろう。

旅行から帰って以来、出ては入ってを繰り返している迷路に、また入る。


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あきゅろす。
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