秋冬春夏(完結)
ひとめぼれ(拍手お礼4)
「ただいま」
土曜。
店を閉めて家に帰ると、純は食卓で紙袋と対峙していた。
傍らには半分ほど空いたワインが置いてある。
台所には空き缶が2本あった。
結構長い時間をここで過ごしているようだった。
「キヨカズ」
神妙な面持ちなので、キヨカズは身構えた。
「一目惚れしてしまって」
唐突な純の告白に、まばたきが止まらない。
「え、なに、どういうこと?」
別れ話ってことか?
嫌な汗で、手が湿ってきた。
純は黙って、テーブルの上の紙袋を指した。
「開けてみて」
言われるまま中を覗く。
「ん」
ふわふわの何かが入っている。
いい手触り。
紙袋を床に放り、キヨカズは中のふわふわを取り出した。
灰色の毛並みがキラキラする。
わりと重みがある。
ふてぶてしい。
「ねこ……」
キヨカズは憎めないふてぶてしさに目を奪われた。
素直にかわいい。
純がため息をついてうなだれた。
「欲望に抗えなくて」
購入に至るまでもそのあとも、かなりの葛藤があったようだ。
「あ、そう……」
キヨカズも、長いため息を吐いた。こちらは安堵のため息だ。
「緊張して損した」
思わず呟くと、純がきょとんとした。
察しの悪さに少々の苛立ちを感じる。
「お前がどこの誰に惚れたのかと」
純は不機嫌に目を細めたキヨカズに、微笑んで見せた。
「ソメゴロウです」
どうやらこの猫、ソメゴロウという名前らしい。
「高麗屋!」
そう呼び掛け、キヨカズはソメゴロウを小脇に抱えた。
そのまま、寝室に連れていく。
純は焦って追いかけた。
「どこに連れてくの?」
「ここ」
あろうことかキヨカズは自分の枕元にソメゴロウを設置した。
「ズルいよ!」
という純を、キヨカズが長い腕で抱き止める。
「それ、どっちに妬いてる?」
耳元で囁かれ、純は耳まで真っ赤になった。
ややしばらく、無言になる。
やがて純は、ゆっくり顔をあげた。
じっとキヨカズを見つめる。
薄い微笑みを湛えた口許が、色っぽい。
キヨカズの目は釘付けになる。
「僕はキヨカズのものだよ」
返事もできないまま、純に押し倒されていた。
いつの間にかヘッドボードの上に避難していたソメゴロウと、目が合う。
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