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秋冬春夏(完結)
なつやすみ(拍手お礼2)
「夏休み、どうすんの?」

朝から暑さを感じるような時季になった。

「キヨカズに合わせてとるよ」

彼の会社の夏休みは7月から9月までの間に使える2日間の休みをくれる方式だ。

「俺もいつでもいいんだけど」

ん、と首を捻った純が、コーヒーカップに手をのばす。

「どこか行きたい場所とか?」
「ない」

この話題はふたりで暮らしはじめて以来毎年、年末とGW前と夏の始めに繰り返されている。

夏の場合、純はたいてい

ビールが飲めれば幸せだから

と酒飲みらしい発言をし、会話を終わらせた。

「昼からビールが飲めれば幸せだから」

ほら、言った。
あまりにも思った通りなので、キヨカズは笑いを堪えきれなかった。

「なに? なんで笑ったの?」

昼から飲んだらなんでダメなの?

上目遣いに覗き込まれ、ピタリと笑いは出てこなくなった。
暫しの沈黙が、居間に満ちた。

「それ、去年も言ってるからな」

キヨカズはやっとのことで返事をした。

ぱち、ぱち。と瞬き2回くらいの間。
今度は純がクスリと笑った。

「なあんだ」

焼きもちね。

純が至った結論に理解が及ばず、沈黙は先程よりも長く続いた。
しかしその間、純は嬉しそうに笑っている。
鼻唄まで歌って。

酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ

それを聞いて、ようやく理解する。

「俺よりビールが好きなんですか」

純はううん、と小さく首を振る。

「キヨカズがいるところで昼からビールを飲むのが幸せなんだよ」

ビール飲まなくても、幸せだけどね。

もう何も言う気が起こらない。
が、ここははっきり言わせて、なんとなく引き分けくらいにしたい。

「それってどういう意味?」
「え?」

普段ならここでキヨカズが言い返せなくて会話が途切れるのに、今日は食い下がってきた。
純にとっては不測の事態だ。

「どういう意味って」
「ビールがなくても良いなら何があれば幸せなの?」

純が口ごもる。

しかし自らはじめた話題を自らの沈黙で終わらせるなど、久我純の自尊心が許さない。
ふう、と細くため息をついて、微笑んだ。

「キヨカズがいれば幸せってこと」

ね?
と首を傾げてみせる。

傾げた首の色気に完全にやられたキヨカズはぐったりとテーブルに突っ伏した。
引き分けどころか完敗だ。負けを認めざるをえない。

「私はあなたの虜です」
「よくできました」

さも満足げな純の笑い声が、キヨカズの耳をくすぐる。


ややあって、思い出す。

「で、夏休みは?」

純は返事ができなかった。


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あきゅろす。
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