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秋冬春夏(完結)
土曜日のあさ(1)
じつは
大きな声では言えませんが
少しずつタカヒロにアプローチしてるんです
でもやってみてよくわかる


「あいつの鈍さ、か」

土曜の朝、純が食卓で呟くのに、清一はぽかんとした。

「どうした?」

時折なにか思い出して呟くこともあるが、たいていは仕事のことか家事のことだ。
それが、珍しく意味不明の内容だ。

「うん」

と応えたあと、ずいぶん間が空いた。

「守山くんのことを考えてて」

言われてみれば昨夜は珍しく守山と二人だけで飲んでいた。

「なに話してたの?」

若干の嫉妬を隠しつつ、聞き返す。

「それがね」

純が嬉しそうに話すには。

最近守山なりにアプローチを始めたらしい。
とは言え非常に可愛らしいもので、隣に座ったときにくっついてみるとか、食事の時あーんしてみるとか、そういうやつらしい。

清一も思わず微笑む。

「そりゃ可愛いもんだね」
「でしょ?」

そう言って笑うお前が可愛いよとは、言えない。
清一はひっそりと呼吸を整えた。

「でも、実はね、守山くんに言えなかったことがあって」
「なに?」

純はすぐに答えようとしたものの、ピタリと止まる。
向かい合わせに座っていたが、なぜかイスごと移動して、清一の隣にピタリとくっついた。

「石原くんがね」
「ああ」

純は清一の肩に体重を預けた。

「最近守山くんがべたべたしてくるんだけど」
「うん?」

さらに純は清一の手をとって、指と指を絡める。

「それって、俺」

すりすりと、純の髪の毛が首をくすぐる。
そろそろ我慢の限界だ。

「ちゅーしてもいいんですかねって」

清一はなにも我慢する必要がないことに気付いて、純が言い終わる前にキスをしていた。
条件反射というか、無意識というか。

長いキスのあと、唇を離して

「するだろ」

と返す。
純はその回答に少し考えて見せた。

「まあ、でもね」

僕と清一は恋人同士だけど、あの二人はそうじゃないんだよ。

純の言うことは正論だった。

「してもいいかって、聞けばいいのに」
「そうだね」

同意してからややあって、純は思い出したように聞いた。

「僕と清一がと、清一と僕がって、どっちがいい?」

そんなことを聞いている今も、純は清一に体を預けて、指を絡めたままだ。

「どっちだっていいよ」

とにかく触りたい。
もう我慢の限界だ。

清一は純をベッドに連行した。

「普通はこうなるだろってこと?」
「いや、これはお前のせいだよ」
「なんで?」
「お前が俺を誘うから」

純は清一の腕のなかで肩をすくめた。

「元気だねえ」
「健康なの」

もはや遠慮なく、清一は純にキスを繰り返す。
その合間に、純が聞いた。

「僕らの時は、どうだったかね」

返事の前にキスをする。

「覚えてないの?」
「うーん」

尖らせた唇に、また。
純は呆れて止める訳でもなく、思い出そうとしていた。

「家だった?」
「いいや」
「屋外?」
「屋内」

首を捻るので、そこにもキスする。

「ああ」

思い出したようだ。
少し、複雑な顔をする。

「あれってカウントされるの?」
「あれが初めてのちゅーだよ?」

純は不満げな相づちを、幸せそうな顔で発した。

フィンランド旅行だ。
結局オーロラが見られないまま帰路につくことになり、少々残念な気持ちのまま帰り支度をしていた。

トランクを閉め、そこに頬杖をついてため息を吐いた。

そんなにショボくれるなよ。

隣に座ってそう言うと、もうひとつため息を吐く。

せっかくの楽しい旅行が、ため息で吹き飛ぶぞ。

純がネガティブなとき、ポジティブなことを言うとたいてい逆効果になる。
やはりこのときも、純はさらにため息を吐いた。
いや、吐こうとした。

「ため息止められたのが、初めてのちゅー?」
「紛れもなく」

ため息吐きすぎ。

清一がそう言って、ぱく、と食むようなキスをした。
純は驚きすぎて、何秒も固まったままだった。

「そのあとしばらく無かったよね」

固まられて、そのあとそれについて怒られることもなく、何事もなかったかのような態度だった。
鬼スルーだ。
だから、もうなかったことにされたんだと思って、清一はキスをするのを諦めた。

「ところで純」

純は寝返りをうちながら、なあにと応えた。

「どうして突然べたべたした?」

言葉を探しながらなのかごまかしながらなのか、純は何度かゴロゴロと体勢を変えた。

「ベタベタしたらキスしてくれると思って」

ダメだった?

清一はわざと大きくため息を吐いた。

「キスしかしたくない?」

返事の代わりに、キスをする。

清一は純をベッドに押さえ付けた。
が、純はするりと清一の腕を抜けた。
彼はそういうことに抜群の器用さを発揮する。運動していたためか体も柔らかい。

「なに?」

体が柔らかいことなんてどうでもよくて、どうして煽っておいて抜け出すのか。

「トイレ行かせて」

さすがにそればかりは止められない。

「いってらっしゃい」

清一はベッドに仰向けになって、ため息を吐いた。

まあいい。
まだ時間はある。

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