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秋冬春夏(完結)
七夕(拍手お礼1)
「純」

休日、梅雨の晴れ間に洗濯物を干す純に、キヨカズが呼び掛けた。
純は整った相貌を細め、振り返る。
なあに、という声は妙に色っぽい。
どうでもいい話にこんな色気で対応される自分の身になってみて欲しいと思う。

「その歌」

純が調子よく口ずさんでいたのは、七夕が近付くとよく流れてくる、あれだ。

「間違ってるよ」
「は?」

不機嫌に眉を寄せた純は、空になった洗濯かごを持って部屋に入った。
純は歌詞までつけて歌っていたわけではない。メロディが間違っていたとでも言うのか。

「シャボン玉になってた」

しゃぼんだま。

そう言われて、真剣に考える。

笹の葉さらさら のきばにゆれる
屋根まで飛んでこわれて消えた

「笹の葉さらさらからシャボン玉にシフトしたでしょ」

確かにその通りだ。
キヨカズは人の悪い笑みを浮かべた。

「あんな鼻唄でよく気が付いたね」

何となく悔しい。
それこそ重箱のすみだ。

ソファに座ったキヨカズの脚を跨いで見下ろす。
すると目を逸らされた。

「なにそれ」

どういう意味?

「聞きたい?」

キヨカズは照れたように顔を逸らし、首を掻く。

「僕は甚だ不快だよ」
「俺は甚だ恥ずかしいよ」

恥ずかしい理由がわからないのだから、純は斟酌しようがない。
対してキヨカズは、純が不快な理由をわかっているはずだ。

ちょいちょいと、手招きされる。
仕方なく、ソファに膝を付き、顔を寄せる。

耳元で囁かれた言葉に、純は目を見開いた。

お前の声がきれいだから、よくよく聞いてた。と。

「バカか」

冷たい反応には苦笑するしかない。
しばし膠着状態となった。

やがて口を開いたのは、なぜか赤くなった純だ。

「心底恥ずかしいけれども」

僕もよく、同じことをしている。

純の告白に、反応できない。
何度もまばたきを繰り返す。

「バカだな」

やっとのことで言い返すと、純は不満げにため息をついた。

「バカじゃないよ」

愛してるんだよ。

恥ずかしくて嬉しいときには、行動してごまかすのが効果的だ。
キヨカズは純を抱き締めた。

「俺も」
「俺も?」

おれもあいしてる。

キヨカズの言葉は純の唇に吸い込まれた。

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あきゅろす。
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